【R-18】ラグジャンでリレーしてみた

秋島きりか @kirika_mt

@kirihara0813 「あ」「はい？」「…あ、いや」顔を見られ、俺は慌てて首を振る。けど、掃除屋の指先から目が離せなかった。白い肌に走る一本の赤い線は、乾燥によるひび割れ。思いがけない形で彼の血を目にし、物珍しいような、なんとも言えない気持ちが沸き起こった。

🛌 @kirihara0813

@kirikam 「…手、痛くねえの」「は…？ああ、ひび割れちゃってましたね。私、乾燥しやすいんですよ」そういってさり気なく手袋をはめる掃除屋。微塵も痛そうなそぶりはない。やはり話に聞いたとおり、痛覚が鈍いのかもしれない。「…仕事柄、ってヤツ？よく手が汚れて洗うから、とか」

秋島きりか @kirika_mt

@kirihara0813 汚れて、という言い方をした自分を、ほんの少しだけ後悔した。だが彼はそんなことは気にならないらしく、相変わらずの笑顔で答える。「はい。冬に水はやっぱりあんま良くないですかねー」「…そりゃそうだろ」傷を隠した黒いレザー。俺はまだ、指先から目が離せない。

🛌 @kirihara0813

@kirikam 「…あ、でも仕事中は手袋してたんじゃ」「ええ、お掃除のときは。でも、遺体を綺麗にするときは外すんです。でないと、亡くなった方に失礼でしょう？」「…そっか、そうだよな…」毎日のように死体を見ても、死者を弔う気持ちは忘れていないようで、俺はなんとなく安心する。

秋島きりか @kirika_mt

@kirihara0813 「死は、その人の人生最高の晴れ舞台ですから。美しく飾るか醜くバラけて目立つかはそれぞれですけど、そのお手伝いをさせてもらう身としては一応敬意を払いませんと」…えーと。ちょっと返答に困る、けど。これは一応…気遣い、なんだろうか。死者への、彼なりの。

🛌 @kirihara0813

@kirikam もしかして、いつも笑顔を浮かべ、感情のでないその顔が、悲しみに歪むことがあるのだろうか。ふとそんなことを考えて、丸いレンズの下にある見えない瞳を見つめた。「おや、どうかしましたか？」「いや、何でもない。もし俺が死んだら、アンタに面倒見てもらいたいな、ってさ」

秋島きりか @kirika_mt

@kirihara0813 俺のまばたき１回分の間を取って、彼は答える。「僕にですか？ 光栄ですね。けどそれは難しいかもしれません」「なんでだよ」「あなたを死なせないのもお仕事だからです。あなたが敵に回ると言うなら、残念ながら話は別ですけども」

🛌 @kirihara0813

@kirikam そう言った彼の顔が、どこか悲しげだったのは俺の勘違いかもしれない。それでも、俺はなんとなく嬉しくて。「そんじゃ、頑張ってもらわないとな。ラグトリフこそ、俺の敵になってくれるなよ？」「ええ、勿論。こちらにお仕えしている限りは………いえ、そうでなくても」

秋島きりか @kirika_mt

@kirihara0813 「え？」少し意外な一言が聞こえた気がして聞き返したが、顔を見つめても笑顔しか返ってこなかった。「…あ、ベルナルドに呼ばれてたんでした。そろそろ失礼しますね」「あ…ちょっと」出て行こうとする掃除屋の手を――傷のあった手を掴む。

🛌 @kirihara0813

@kirikam 「…なにか、ありましたか？」「え、あ、イヤ、その…」咄嗟に手をつかんだが、何故か頭が真っ白で何を言おうと思ったんだったかサッパリ思い出せない。「その、ええと、だな。そうだ、仕事道具なんだから手は大事にしろよ？さっきひび割れて…ってうわ、スマン！痛くなかったか？」

秋島きりか @kirika_mt

@kirihara0813 「大丈夫ですよ。ええと…これくらい舐めておけば治る、ってかんじですかねー」誰かの受け売りなのか、微妙にイメージと合わない台詞だ。「…舐めてくれますか？」「！？」「冗談ですー」おい、誰だこんなこと教えたやつ！ いや、それともこれが素なのか！？

🛌 @kirihara0813

@kirikam あまりのことについ頬が熱くなる。…え、イヤ、あれだ。あんまりにもギャップがありすぎてびっくりしたせいだよな、うん。「…とっ、取り敢えずだな、ちゃんと薬とか塗って、治せ！なっ！」「はい。なんなら、今すぐにでも治しますか」「うんそれがいい…って、は！？」「冗談です」

秋島きりか @kirika_mt

@kirihara0813 ――そのあとわかったことだが、「舐めときゃ治る」はイヴァンの受け売りだったようで。台風が去ってぐったりしていた俺は、やってきたイヴァン本人からそれを聞き、奴の脛を思い切り蹴ってやった。「…冗談のセンス光りすぎだろ、あの掃除屋」