褐色ガチムチで横幅もしっかりあるムキムキお姉さんが華奢な男の娘に負けてほしい。

暑い。もうやだ。
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帽子男 @alkali_acid

「当主には闘争心も重要です」 「十位の行いは度を過ぎていませんか。脅迫でことをなすとは」 「現当主もかつては強引な手段で解決を図りました」 「三十五位はいずれにせよ不適格でした。それに十位はまだ未熟。手段の稚拙さも割引ましょう」 「ではひとまず見守りましょう」

2019-08-10 14:17:36
帽子男 @alkali_acid

「十位が繰り上がり九位になったことから、住居に関する裁量を行使したいと申請しています」 「どちらの住居を希望していますか」 「改修を計画している旧本邸です」 「不便なところを。なぜでしょう。相続争いに有利とは思えませんが」 「改修の監督をしている執事がいます」

2019-08-10 14:19:43
帽子男 @alkali_acid

「屋敷に移っても、執事を自分の使用人にできる訳ではないはずですが」 「上位者として命令できますし、心服させる自信があるのでしょう」 「面白い試みですね。では九位に移住を許可しましょう」 「すでに屋敷にいる百七十六位の相続権者はどうしますか」

2019-08-10 14:21:26
帽子男 @alkali_acid

「百七十六位は三十五位よりもさらに不適格です」 「血筋としても遠い」 「なぜ旧本邸に置いたのでしょう」 「できる限り財団の不動産を相続権者に有効活用させる方針のためですね」 「それと実験ですが、やはり平民育ちでは芽がありませんでした」

2019-08-10 14:24:16
帽子男 @alkali_acid

「当主にふさわしいのは、使用人を支配し、指導し、心服させる、強引で自信にあふれた精神。老若男女は問いませんが。百七十六位は報告を総合すると、ごく貧弱な精神しかないと判断します」 「しかし保護者の死別などもあって数度の特別心理療法を実施していますからそこは考慮すべきでしょう」

2019-08-10 14:26:36
帽子男 @alkali_acid

「原因がなんであれ、貧弱な精神はふさわしくありません」 「相続権の放棄を勧告しますか」 「未成年ですから、特別心理治療を再度行ったうえで、ほかの、重要でない場所に移しましょう。そこで徐々に普通の暮らしに戻してやるべきです」 「それが不適格者には幸福ですね」

2019-08-10 14:29:16
帽子男 @alkali_acid

という難しい会議がえんえんと行われたのだった。 結果としてどうなったかというと、とある田舎のお屋敷に相続権者の少年が移り住み、今までそこで暮らしていた別の少年は、よそへ移ることになった。

2019-08-10 14:34:03
帽子男 @alkali_acid

よそへ移った少年は、新しい暮らしにすぐ慣れるよう、しばらく財団の病院に入って薬と音と光と言葉による治療を受けた。もう何度か受けているので割と慣れっこ。 出てきたときには、なんかすごくさびしいような気がしたが、なんでかはあんまりよく解らなかった。前にもそういうことはあった。

2019-08-10 14:35:29
帽子男 @alkali_acid

お屋敷を出された少年の名前はジョウ。 海辺の小さな船着き場に住む番人のおじいさんのもとへ行った。 「ふん。財団のやつら。長いことほうっておいて、今更」 パイプをくわえたおじいさんはムキムキの大男である。 全身これ筋肉。船乗りマッスル。

2019-08-10 14:37:03
帽子男 @alkali_acid

ピカピカの黒い自転車を押しながらやってきた子供が、でかいおじいさんを見上げる。 「…こんにちわ…は、はじめまして」 「おう…何もないとこだが…ああ、お前さん…ひょっとしてジョウナお嬢様の…」 「?…?」 聞き覚えのある名前に頭をかく少年。目がぼんやりして、鼻水が垂れる。

2019-08-10 14:42:18
帽子男 @alkali_acid

でかくてしわしわの手が、ちっこくて細い肩に置かれる。 「いや。しんどいことは考えんでいい」 老人は子供を見下ろして、やせっぽちの首に、医療用バンドの痕を見てとって苦虫をかみつぶした顔になる。 「…ずっとここで暮らしゃいい。お屋敷だの使用人だの、お前さんはもう厄介ごとにかかわるな」

2019-08-10 14:45:19
帽子男 @alkali_acid

「お屋敷…?おや…あれ…?僕…なんで…」 ジョウはぽけーっと海を眺める。前にもこんなことがあった気がする。お父さんとお母さんと暮らしていて、急にふたりがいなくなって、知らないおばあちゃんのやっている文房具屋に引き取られて、色々楽しいことを教わって。でもおばあちゃんもいなくなって。

2019-08-10 14:47:23
帽子男 @alkali_acid

「レンさ…」 「思い出さんでええ」 「でも…帰らなきゃ…心配して…」 「ちゃんと連絡はいっとる。ここの方が安全だ。もう何も起こらん。ワシが起こさせん」 「…でも…」 「ほれ。飯でも食おう。釣った魚の酢漬けがあるぞ。辛いタマネギとな。お前さんの口に合うかどうか」 「うん…うん…?」

2019-08-10 14:49:46
帽子男 @alkali_acid

少年は自転車を押して歩きだす。バッグががさがさしている。あけると筆箱。練ケシが入っていた。 「ねりけしだ」 「ん?ああ、ナヤばあさんとこにいたんだな。ばあさんの好きそうなおもちゃだ」 「うん。おばあちゃん…あれ…」 ジョウはまたぼけっとする。まだちょっと治療の影響が残ってる。

2019-08-10 14:51:29
帽子男 @alkali_acid

「レンさん…大丈夫かな…おばあちゃんみたいに…あれ?あれ…おかあさんは?おとうさんは…」 「思い出すな。いいな」 番人は厳しく言いながら、パイプをまた噛む。 財団は少年に対し治療を一度ではなく最低三度はやっているようだった。 「大丈夫だ。みんな大丈夫だ」 「…うん。よかった」

2019-08-10 14:53:23
帽子男 @alkali_acid

男児はにこっとひとなつっこい笑いを浮かべる。 ぶっちょうづらの老翁もつられてつい口角を上げた。 すぐに二人は仲良くなって、船に乗って無人島を探検したり、魚を釣ったり、素潜りをしたり、カモメに餌をやったり、夜には番人が好きな古い映画を観たりして幸せに過ごした。

2019-08-10 14:55:27
帽子男 @alkali_acid

相続順位百七十六位の子供は、そんな感じで相続争いから遠く離れておだやかな日々を送った。ときどきおかしくなることはあったがまあ子供はそんなものだ。

2019-08-10 14:56:56
帽子男 @alkali_acid

話がそれた。 男の娘メイドを操って、料理人のお姉さんをきっちり堕とした相続順位九位の銀髪赤目の少年の方。 名前はケイ。若様。田舎のお屋敷に移り住む。 「へえ、いいところじゃない。警備に隙がないのがいい」 「かしらかしら。猟犬の守りかしら」 「でしょでしょ。執事のまめさでしょ」

2019-08-10 15:02:10
帽子男 @alkali_acid

若様に従うメイド服の双子。 「…ちゃんと厨房は使えるんだろうね」 不機嫌そうに後へ続く大柄なガチムチお姉さん。調理道具一式を背負っている。鼻には環っかが増えている。牛みたいに。

2019-08-10 15:03:42
帽子男 @alkali_acid

「…」 氷のような面持ちで迎える執事。 タイトな黒スーツにクール眼鏡にオールバック。 「やあ…君がレン?僕はケイ。君の新しい主人だよ」 年齢離れした甘い笑みを浮かべる若様。レンは慇懃に辞儀をする。 「かしらかしら、食い殺しそうな雰囲気かしら」 「でしょでしょ、猟犬獰猛でしょ」

2019-08-10 15:05:54
帽子男 @alkali_acid

「レン…」 荷物を背負ったマリはぽつりとつぶやく。執事と料理人は使用人養成所時代からの知り合いなのだなあ。

2019-08-10 15:07:18
帽子男 @alkali_acid

「楽しくなりそうだね」 若様はにっこり笑うのだった。

2019-08-10 15:07:45
帽子男 @alkali_acid

ところで、お屋敷とはぜんぜん関係ないチャラ男もいる。 アイ君。大学生です。肌焼いて髪染めてピアスしててケバい服装の。 「あいつちゃんとやれてんのかよ」 メッセージに既読つかないのでイライラしてる。 「先輩なんすか?新しい女?」 「ちげえ」

2019-08-10 15:09:45
帽子男 @alkali_acid

「お…」 既読がついた。 相手は知り合いのガキ。いろいろあってメッセンジャーIDを交換した。 っていうか持ってないっていうからスマホもあげた。 そのスマホを大人に取り上げられそうというから対策を教えてやった。

2019-08-10 15:10:53
帽子男 @alkali_acid

「前に病院で大きな検査があったとき、看護師さんにスマホあずけたらかえしてもらえなかった。また大きな検査があるから心配」 という相談だったので、ちょっと考えてから、 「識別カードと、データカードだけ抜いて隠しとけば?したら新しいスマホ見つけたらすぐ元通りになるし」

2019-08-10 15:13:14