【墓地でカバーばかり】福間健二 #k2fact230
暑くて、とくに才能もないので、墓地でカバーばかり歌った。ディラン、マーク、何人かのオーティス、そして墓地ならこの人なのかもしれないルーシー。眠っている骨たちに紙のハートの贈りもの。その活用法、重力にちょっと逆らって、ということ。ね、一ミリ浮いて。(墓地でカバーばかり1)#k2fact230
2019-08-02 09:44:31一ミリ、その半分でも動いてくれたらと願う。可能性のヴェルヴェット。暑くても汗をかけない、切りとられた部位。拾うべきなのか。ドアを叩いてまわり、四つか五つめがあいて、待っていた人。短い髪、鋭い目。生きている。「揺れる」が縫い糸なしで連絡しあうこと。(墓地でカバーばかり2)#k2fact230
2019-08-03 11:04:55待っていた。その人だけならいいのだが、バーボンの壜がテーブルに並んで、寄って行きなさい、芸を見せなさい、だれのカバーが得意なのか、と懐っこい人たちが音だけの雷に打たれている。予報どおり、どのドアにも逃げ込む影。ライトニン・ホプキンスでいいですか。(墓地でカバーばかり3)#k2fact230
2019-08-04 09:50:39冷たい地面。あぶないですよ。夏でも寝床にするのは。ショットガン、だれが持ってきてくれる。何を始末するのでも、この湿気では。ゴミ置き場でも停留所でもないが、こんなに大勢の黒い幽霊。友だち。でも、友だちであること、内緒にしておいた方がいいときもある。(墓地でカバーばかり4)#k2fact230
2019-08-05 09:32:40感想を言ってくれない。あえて求めない。友だち。表情や態度でだいたいのことはわかって、夢のように入り込む近未来。防げないのか。上下左右、どこからでも視線にとっては不必要な切れ目。写真。影。写真。影。人間はどこにいるのか。ガラスの箱で飼われている。(墓地でカバーばかり5)#k2fact230
2019-08-06 11:04:02工場。病院。工場。病院。水の音。白い光。早く行きなさい。だれの都合。前にも通ったルートだが、大きな指に撫でられた跡があり、ときおりの振動は正確さをまして、夜になっても気温が下がらない。空に見えるのはジュピターだけ。文化部。旧式の電話が鳴っている。(墓地でカバーばかり6)#k2fact230
2019-08-07 13:50:05ガタガタ音を立てないようには工夫した箱の並ぶテーブル。ワインの壜とグラスとかの置き場をあけてもらったところで歌詞を思い出せなくなった。収容所の、可愛い少年たち。どんな親切、どんな先生が、一番怖いんだったけ。社会部。まだあるなら、風を入れたいね。(墓地でカバーばかり6)#k2fact230
2019-08-08 09:39:54状態がちがう。同情への甘え方もちがう。箱に入ったものと入っていないもの。キスしてもいいのは。応援すべきなのは。記憶に残るのは。生あたたかい湿った風にそよぐ草たちの逆説。そしてまたこの墓地。ジュピター、今夜は土星と半月の仲間もいて。いま、左が東。(墓地でカバーばかり8)#k2fact230
2019-08-09 10:15:20線だけで描いた、空の頭蓋骨。なにか隠していたらどうなるのか。ただ殺したかった。死体を見たかった。そんなこと言うやつのための、落下物と遠まわり。痛い地上。でも、傲慢な地上。高架橋の下、暗闇を移動する者たち。動悸がして、ぼくが求めるのは理論じゃない。(墓地でカバーばかり9)#k2fact230
2019-08-10 11:44:51川からの、景色のいいコースをあきらめ、埃のなかで窓やバケツと奮闘するきみ。未処理の、人と世界に絶望していない証拠。一日に二リットルの血をどうしたとか。お盆でも帰る場所のないぼくたちだ。最後は二人でディランを歌う。いつまでも若く。いつまでも一緒に。(墓地でカバーばかり10)#k2fact230
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