アイスクリームと執事と坊ちゃまの話

そうとしか言いようがねえ。
3
まとめ 執事シリーズ一覧 一覧じゃよ 1272 pv 5

前回の話

以下続き

帽子男 @alkali_acid

はー今年も夏らしいこと何もせんかったな。 夏といえばアイスクリーム…花火大会…冒険…失恋…そういうのだよな。 いやアイスは食ったな。アイスだけは食える。 何はなくともアイスだけはまだ…。

2019-08-13 20:47:16
帽子男 @alkali_acid

みんなはアイス何が好き? わしはラムレーズン。 今の時代、自衛隊とか警察とかお堅い職場でもアイスぐらいは食うよね。アイス食わん人そんなおらんでしょ。病気とかでなければ。

2019-08-13 20:49:07
帽子男 @alkali_acid

バニラ、ストロベリー、チョコレートは定番として グリーンティーとかも本邦だと多いんかね。 フレーバー無限にあるからな。

2019-08-13 20:49:53
帽子男 @alkali_acid

アイスクリームは作るの結構手間だけどやり方さえ心得てれば子供でも、できなくはない。友達にごちそうするアイスパーティとかも。 ちょっとハードル高いか。そうするとまあフレーバーは凝ったものにはできんな。

2019-08-13 20:50:59
帽子男 @alkali_acid

キャラメル。 そうキャラメルフレーバーならできるな。あれは砂糖焦がすだけだからな。 キャラメルソース作ってアイスにまぜまぜするやつ。 全寮制の職業学校みたいなとこで、調理科の女の子が余暇に作ってくれたやつを皆でむしゃむしゃ。青春じゃん。 いつもはお堅い委員長タイプの眼鏡も列に並ぶ。

2019-08-13 20:52:42
帽子男 @alkali_acid

眼鏡が頼むのはいつだってキャラメル。好物なんだな。 無口なので黙って指さす。 作った女の子はほがらかに笑って「またキャラメル?いいよほら大盛」とどさっとよそってくれると。幼馴染だからサービス。 青春じゃん。そういう夏もいいよな。

2019-08-13 20:54:03
帽子男 @alkali_acid

何、恋話かと思った? ブブー。まず眼鏡の委員長タイプも、見ためはマニッシュだけど女の子だし、二人は調理科の女の子とは仲のいい友達ってだけ。 アイスが恋話に結びつくのは学校というか養成所を卒業してからだな。 大人になるとアイスもやらしい小道具になるんだよな。

2019-08-13 20:56:03
帽子男 @alkali_acid

「わり。こぼした」 と言いながら、わざと眼鏡のレンズにしずくたらしてさ?舌でべろっと舐めるチャラ男とかがいてさあ。 恋人が無言のまま抵抗しないと、どんどんアイスをポタポタ素肌に落として、胸、腹、もっと下へとね。そんであとからあとから舐めてゆく。

2019-08-13 20:58:54
帽子男 @alkali_acid

「こっちばっかだと不公平か」 ってチャラ男は今度は自分の日焼けした胸板にアイス落として、口元に差し出す。眼鏡の恋人はうっとうしそうに眉をひそめてから、かすかに頬を上気させて舌をのばしてちろりとすくう。甘い。 ラブラブやね。

2019-08-13 21:01:40
帽子男 @alkali_acid

え?胸焼けする? じゃあもっと恋愛未満のシチュエーションもある。 歳の差カップル、というか単なる保護者と児童が、おそろいのアロハシャツ着て、公園でキッチンカーのアイススタンドに並ぶとかやね。 ぜんぜん色気はない。

2019-08-13 21:04:09
帽子男 @alkali_acid

「何?何がいいと思う?チョコミント!…え…あっお…」 「…」 「じゃ、あれは?」 「…」 「あれは?」 あんまり賢くもなさそうな少年が小首をかしげ、眼鏡の連れを見上げてから、何度もメニューを眺め直し、順に指さしていく。 「あー…あ。キャラメル」 「…」 「キャラメル」

2019-08-13 21:06:47
帽子男 @alkali_acid

キャラメルを二つどっちもダブルで頼んで舐める。 二人とも若いというか片方は幼いし肥満も虫歯も生活習慣病も心配ないんだよ。 いいねえ…。

2019-08-13 21:07:40
帽子男 @alkali_acid

少年が両手にアイスを持って木陰のベンチに座り、横に眼鏡の連れがぴしっと立っている。どっちもアロハ。謎だ。 「アイス…」 「…」 「…持ったら変か」 似合わないよね。 「はい」 子供は考え直して起つと、直立不動の大人の口元までコーンのひとつを近づける。 「…」 「どーぞ」

2019-08-13 21:09:48
帽子男 @alkali_acid

眼鏡の保護者はしばらくアイスを見つめてから、おもむろに舌を伸ばして舐める。 甘い。 子供の方は片手で連れにアイスを差し出したまま、もう片手に持った自分のアイスを舐める。 「キャラメル…うっま」 「…」 眼鏡をちゃきっとさせて同意する大人。

2019-08-13 21:11:38
帽子男 @alkali_acid

というような夢を見た。 そしてもう覚めた。 ベッドに寝ている。眼鏡はない。 あたりは養成所でもなければ、真夜中のいかがわしい宿でもなく、真昼の公園でもない。 古めかしいお屋敷の寝室。

2019-08-13 21:13:15
帽子男 @alkali_acid

執事のレンはゆっくり半身を起こし、あたりを見回した。 「おはよ」 そばで幼馴染の料理人マリが声をかける。 「…」 「アイス。食うか。あんたの好きなキャラメル作っといた」 「…」 ひとくちサイズのが小さな器にのってスプーンをそえてある。 もらう。甘い。

2019-08-13 21:15:07
帽子男 @alkali_acid

「動けるならここを出るかい」 褐色の巨女が、長身白皙の麗人に話しかける。 「…」 「チビどもに邪魔はさせないよ。アタシが守ってやる」 「…」 「いくら主人と使用人たって、やっていいことと悪いことがあるよ」 「…」 「荷物はまとめといた」

2019-08-13 21:17:02
帽子男 @alkali_acid

レンはまぶたを閉ざしてベッドに連れてこられる前のできごとを思い出す。 仕事中のトラブルだった。 屋敷を預かる執事として、新たに迎えた主人になじめず、言いつけに逆らったため、折檻を受けたのだ。

2019-08-13 21:19:18
帽子男 @alkali_acid

新たな主人は癇癖(かんぺき)の強い少年で、自分の思い通りにならないと非常に残酷になる。 「あんな目にあうなら、やめたっていい。ほら、あんたが話してた文房具屋さんみたいにさ、平民の暮らしもいいじゃない」 「…」 「好いた男がいるんだろ」 「…」 執事は料理人をあらためて凝視する。

2019-08-13 21:22:59
帽子男 @alkali_acid

「アイ、アイって何度も呼んでた。好いた男の名前だろ」 「…っ」 緊張するレンに、マリはかかと笑う。 「心配しなさんな。あの若様と小ネズミどもには聞かせてない。ここには近づかないように叱っといたからね。若様はしつこくあんたのようすを聞いたけど、へん。ちょっとは反省しろってんだ」

2019-08-13 21:24:40
帽子男 @alkali_acid

麗人がかすかに肩のこわばりを解くと、巨女はますます大きな口の端を釣り上げた。 「ねえ。どんなやつだ。アイって」 「…っ」 かすかに頬を染めてから、レンはそっぽを向くと不意にまたマリを振り返った。 「ほかに」 「ほか?」 「ほかに名前は」 「言わなかったよ」

2019-08-13 21:26:41
1 ・・ 5 次へ