ルイス・キャロル『スナーク狩り』と子供時代の物語体験
- faketaoist
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ルイス・キャロル『スナーク狩り』読了。これはまた面妖な。 本書はナンセンス詩であって、従って登場する人物も小道具も言葉もてんでちぐはぐ、脈絡も分からず、深読みしようとしても混乱するばかりという話で。 しかしそれにも関わらず、ストーリーはちゃんと追えるんだよな。
2019-08-17 23:37:38細部の意味はてんで分からないけど、ストーリーラインはちゃんとあって、物語の大筋は分かるのだ。スナークという謎の獣を追って十人の異なる職業の人たちが船に乗って冒険に出る。冒険には起承転結があるし、さらに言えば、(細部は支離滅裂なのに)話の展開にワクワクしたりハラハラする事も出来る。
2019-08-17 23:40:40これはよく考えると変な事だ。本当に徹頭徹尾ナンセンスな話なら、話のあらすじすら意味不明にしてしまう事も出来る。エドワード・リアのナンセンス詩とか、アリス作中の、ウナギを鼻の頭に載せて踊るやつとか、そういう作例もわりとあるわけで。
2019-08-17 23:42:44ヒッチコックの脚本術の用語に「マクガフィン」というのがある。物語のサスペンスを高めるための重要アイテムが必要なのだが、そのアイテムが何なのかを詳しく説明すると冗長になってしまうことがある。そんな時、アイテムの重要さだけ印象付けて、中身の説明はあえて一切しない、というテクニックだ。
2019-08-17 23:44:54このキャロルの『スナーク狩り』は、あえて言えば、物語に登場するあらゆる道具、あらゆる人物がマクガフィン化した物語、とも読むことが出来るように思う。詳細はさっぱり分からないが、それらは全部どうでもよくて、話の筋だけがある、そんな話だ。
2019-08-17 23:47:01そして、そのような物語の体験が、誰にもあるのではないだろうか。少なくとも私にはある。まだ子供の頃、何も難しい事がわからないまま大人向けのドラマや映画を見てしまった時だ。
2019-08-17 23:48:23話の中に出てくる言葉や道具や人物の職業などは、大人向けで難しくて全然分からない。何が起こっているのかも、話の舞台がどこなのかもてんで分からない。それにも関わらず、話の展開に合わせてドキドキし、クライマックスでは興奮して、分からないのに楽しんでしまったことがないだろうか。
2019-08-17 23:50:19この『スナーク狩り』という物語は、細部がナンセンスで分からない故に、読み手を強制的に子供の頃の物語体験に引き込んでしまう。何も分からないのにワクワクし、何も分からないのにドキドキした、あの頃の体験をよみがえらせるのではないか。
2019-08-17 23:52:09そしてもちろん、子供がこの物語を読んだなら、細部が分からないなりにちゃんと楽しんで読むに違いない。 巻末解説によればキャロルはこの本を子供向けの話と再三言っていたようで、解説を書いてる大人たちはそれを半信半疑でいるのだが、私は間違いなく子供向けの話だと思う。
2019-08-17 23:54:24