[R-18]拷問塔の悪魔王子と尼騎士の物語

帽子男 @alkali_acid

拷問塔の悪魔王子と尼騎士の物語。

帽子男 @alkali_acid

女騎士、姫騎士はもう古い。時代は尼騎士。 当然頭はつるつる。こめかみのあたりに聖なる印とかが刺青してある。

帽子男 @alkali_acid

尼で騎士なので神敵と戦うのだ。 つまりは悪魔とか悪魔教徒とかね。バイクに乗ってブォーンて荒野を駆けまわり、銃をバババって撃って。 プリーストって映画観た？あれあれ。 かっこいいね尼騎士。

帽子男 @alkali_acid

悪魔王子は悪魔の王子だ。 すがたかたちは少女と紛う少年だが悪魔だ。 性格はもちろん極悪だ。 かつて人間がもっと強かったころ、面白半分に都市を滅ぼしていた王子を機械の力で生け捕りにし、拷問塔に幽閉し悪魔の秘密を聞き出そうと、ありとあらゆる責め苦を味合わせたがけたけた笑って平気だった。

帽子男 @alkali_acid

悪魔王子は逆に拷問塔のありとあらゆる拷問器具の使い方を覚えてしまい、人間を拷問して殺していった。中には悪魔教徒になるから許してくれと言った人間もいたが、もちろん拷問して殺した。

帽子男 @alkali_acid

王子はあとになっておもちゃをぜんぶ殺したのはもったいなかったなと思ったが、しかしやってしまったものはしょうがない。 拷問塔は不思議な力が働いていて、王子は看守を皆殺しにしたあとも外へは出られない。逆にやっかいな天使も王子を見つけられないのはよかったが。 とにかく退屈だ。

帽子男 @alkali_acid

「あーあ…つまんないつまんないつまんなーい」 髑髏を蹴りながら王子は不満を漏らす。 「何か楽しいこと起きないかなー。ハルマゲドンとか」

帽子男 @alkali_acid

頭蓋骨は経年劣化で粉々に壊れた。 やがて待ちに待った楽しいことが起きた。 天使修道会の僧騎士三人が攻めてきたのだ。 全員スキンヘッドでこめかみあたりに聖なる印を入れたムキムキのマッチョ。 「神敵必滅！」 の気合とともにでかい銃だの爆弾だのドローンだのを使いまくって小さな標的を狙う。

帽子男 @alkali_acid

「あははー！すごいすごーい」 王子は穴だらけになりながら大喜び。 「やはり通常兵器は通じない」 「任せろ」 僧騎士のひとりが前に進み出る。全身から聖なる気が。 そう聖別されたものだ。 啓典の英雄のように素手の拳を振るうと、再生したばかりの王子のかわいらしい顔が初めて苦痛にゆがむ。

帽子男 @alkali_acid

「いっだ」 「悪魔の王子とてほかと変わらん！一気に潰すぞ」 もう一人の僧騎士がボウガンを構える。妙にぎらぎらしている。 「心臓を狙え」 「承知」 天使の羽をつけた矢が射込まれる。

帽子男 @alkali_acid

「とどめ！」 最後の僧騎士がまばゆく燃える剣を抜く。そう聖遺物だ。 「滅べ悪魔！」 「やだー」

帽子男 @alkali_acid

王子は刃を歯でがっきと受け止め、男の腕からもぎとって吐き捨てる。 「じゃー次は余の番！」 悪魔はきゃっきゃしながら三人の天使修道会員につかみかかり、ひとりめはすぐぺしゃんこにしてしまったが、ふたりめは手加減してちょっと保たせ、さんにんめは拷問できそうな状態に生かすのに成功した。

帽子男 @alkali_acid

「あはは！じょうぶ！じょうぶ！」 「ぐうう…馬鹿な…童形の悪魔に…こんな力が…」 「あのねーやさしくするね。余はてかげんできるからね」 「だが…修道会は負けぬ…地上から貴様らを一匹残らず駆除するまで…見ていろ…ここにいずれ最強の姉妹が…」 「えっとねーえっとねー何しようかなあ」

帽子男 @alkali_acid

「神と天使に栄光を！！」 僧騎士はかっこよく自爆しようとしたので、王子はあわてて相手の心臓そばに埋め込まれた爆弾を掴みだした。 「あぶなかったー…よかったね？ばくはつするとこだったよ」 「ぐふ…」 男は胸に風穴を開けて事切れた。 「あ…あれ？死んじゃった」

帽子男 @alkali_acid

悪魔王子はしょんぼりした。 「えーん…つまんないよう…つまんないよう」 だだをこねる。もう拷問塔の設備も百年ぐらい動かしてない気がする。 人間が考えた超面白いおもちゃの数々をぜんぜん使えてない。 「えーんえーん…余は退屈ー！！！！」

帽子男 @alkali_acid

そこへ尼騎士が登場ですわ。 風を吐くバイクにまたがりね。 ゴーグルをかけて口まで覆う襟とフード。 脱ぐとスキンヘッド。こめかみには聖なる印。 耳には旧時代の音楽プレーヤーのイヤホンが突っ込んである。 激しいホーリーメタルが流れてる。 「ちっ…俺の到着を待てと言ったのに」

帽子男 @alkali_acid

尼騎士は身長はまあ百九十センチはあるね。肩幅も超広い。 バイクの鞍壺に分けて運んできた多連装ロケットランチャーを連結させて担ぎ、砂塵の上をパワードスーツの爪先で踏みしめながら進む。

帽子男 @alkali_acid

「拷問塔ね…」 尼騎士はまずはロケットランチャーをぶっぱなして塔を外から攻撃。 ばりばりと空電が起きるすさまじい反応がある。 「…ちっ」 人間が作った強大な力場が壁になって攻撃を阻む。 悪魔の牢獄が転じて悪魔の城塞になってしまったわけだ。

帽子男 @alkali_acid

第十一区とおぼろげに読み取れる標識を通り抜けて、尼騎士は進む。 ばかでかい分隊支援火器みたいのを両手にそれぞれ一丁ずつ持ってね。 フードと襟はスキンヘッドに張り付いてフルフェイスのヘルメットになる。

帽子男 @alkali_acid

全身をすっぽりと覆うパワードスーツはまさにちょっとだけ大昔の騎士みたいだね。 尼さんの耳の中でホーリーメタルが爆音で響き、甲冑の継ぎ目から金の炎が噴き出す。先にかちこんだ僧と同じくただものじゃない。 ネフィリムって解るかな。 天使と人間のあいだにうまれた混血。

帽子男 @alkali_acid

スキンヘッドのお姉さんはそのネフィリムなんだなあ。 でも完全な天使じゃないから拷問塔の周囲に張られた力場を乗り越えられる。 「ちぃっ」 ちと疲れるけどね。

帽子男 @alkali_acid

「おー！お！おー！」 塔の上の窓から、少女と紛う少年が身を乗り出して手を振る。 「また来た！すごーい！すごい！かんげいするぞ！余は退屈しておったー！」 「そいつぁよかったな！」 さっそく人間には扱えない大きさと重さの火器が二丁火を噴く。反動を完全に抑えきって。

帽子男 @alkali_acid

「ぷぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ」 すぐ穴だらけになる男児。悪魔い通常兵器はたいして利かない。 再生してしまう。だがもちろんすぐにではない。再生速度を上回る速さで炸裂弾を撃ち込み続ければどうなるかというと。 「ぷぎゃ！！」

帽子男 @alkali_acid

小さなぐずぐずの肉片となって塔の窓から落下し、べちゃっと玄関前で染みになる。 尼騎士は弾切れになったくそ重たいくそでか銃をぽいと捨てると、背中から近接武器を抜く。鎖につながった棘つきの鉄球。フレイルって解るかな。あれ。振り回すと金の炎が表面にからみつく。 「ちと聞くが」

帽子男 @alkali_acid

「俺の舎弟どもをどうした。三人来ただろ」 「ちと…てかげん…しっぱいした…もうあそべない…」 首だけ再生しかけた王子が悲しげに答えると、尼騎士は兜をうなずかせる。 「そうか」 言いざま、フレイルを振り下ろす。 金の炎の尾を引く一撃が、子供の頭を粉々にする。