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元?現?スーパーヒロインは地下から地上へのぼって、ソファーにごろん。 指で唇に触れて、いろいろ思い出す。 ブラックキング、最強最悪のヴィランが幾度となく与えた噛みつくような接吻。 レッドクイーンとして敵のスーパーパワーを吸い尽くせず敗北し、虜囚となり、受けた責苦と洗脳。
2019-09-08 22:09:31とうとう憎むべき男の子を宿し、大きくなった腹を抱え、底なしの絶望に落ちて、なお悪の帝王の玩弄から逃れられず、暗黒に溺れ、せめても死や狂気を求めながら得られなかった。
2019-09-08 22:12:56スーパーヒロインとしての活動にかつて一度も助けを借りたことのなかったというのに、あそこでは来るはずのない助けを探して泣き叫び、懇願し、だが嘲笑だけが返ってきた。 「レッドクイーン。お前は終わりだ。永遠に“終わりつづける”。俺の腕の中で、信じた正義の残滓とともに」
2019-09-08 22:14:39「たす…けて…たす…けて…だれか…たすけて…」 ただ壊れたように助けを呼び続けた。そうして最後に応えはあった。 体の内側から。 「…胎児が…スーパーパワーを使うだと…面白い…しかも俺に挑むとは…実に面白いな!!!!」
2019-09-08 22:16:46だが、あらゆる戦いに勝利し続けてきたスーパーヴィランの頂点、ブラックキングは敗れた。もうひとりのブラックキング、いまだ生まれ来ぬ赤ん坊に。 「俺が…俺と同じ力に…?俺よりも強いだと…生まれてさえいない…赤ん坊…が…?…ぁっ…」 胎児は、抵抗する父親をキューブ状に折り畳んだ。
2019-09-08 22:19:12無限毒ガス産生ウイルス実験や同時多発核テロリズム、人工火山による大陸沈降計画で世界を震撼させたエビル帝国の支配者が迎えた最期としては、どこまでもみじめなありさまだった。
2019-09-08 22:22:14あのあとレッドクイーンはブラックキング二世を中絶することもできた。 ただスーパーヒロインとしての尊厳をふみにじるために宿させられた命だったから。
2019-09-08 22:24:07もちろん意志など第三者の助けを借りようとすれば、すさまじい被害が出たろうが、母親が腹に手を触れてスーパーパワーを吸うそぶりをしても、胎児は不思議と何の抵抗も示さなかった。
2019-09-08 22:25:16でも産むことに決めた。 そうして今にいたる。 「ふつうか」 リオさんはひとりごちる。ひょっとしたら地下にいる息子に聞こえているかもしれないと考えつつ。 「あのね。それって、ヒーローってことだよ。ヨウちゃん」
2019-09-08 22:29:49そう呟いて、口元を緩め、また唇に指で触れる。 ブラックキングとは似ていても違う、優しく熱い接吻の感触をなぞるように。 あ、いいんですいいんです。親子だから。そう。親子だから問題ない。 問題ない。いいね。
2019-09-08 22:31:50