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「母ちゃん!!!!」 しかもすぐ暴れるやっかいなの。 白衣の女は眉をあげ、モノクルを光らせると、何か古々(ふるぶる)しい言葉で周囲に教える。 稲光が走り、透明なヴィラン達を打ち据える。
2019-09-08 21:29:04![](https://s.togetter.com/static/web/img/placeholder.gif)
たちまち三十体あまりの異形は分裂をはじめ、百体ぐらいになる。 「なんてすごいスーパーパワー!これはレッドクイーン以上の収穫ですわ!私の客人の減った数を何倍にも増やしてくれる!さあもっと攻撃してきなさい」 ヨウちゃんは一歩前に踏み出す。地面に蜘蛛の巣状のひび割れができる。
2019-09-08 21:30:42![](https://s.togetter.com/static/web/img/placeholder.gif)
「母ちゃん!母ちゃん!母ちゃん!!!」 必死の形相だ。 ヴィラン達の数ははや五百、千、さらに増えてゆく。 「ほほほほ!!このまま世界を征服できそう!!」 パープルは嬉しげに嗤う。一体一体もどんどん大きくなってゆく、先ほどの巨大ヴィランに匹敵しそうだ。 「この力…まるで」
2019-09-08 21:32:40![](https://s.togetter.com/static/web/img/placeholder.gif)
「ブラックキング!!あなたなのですか?ヴィランの王!!最強最悪のスーパーヴィラン!!どこに隠れていたのです?!死んでいなかった?でも小さすぎる…いえ…都合がいい…私のものにおなりなさい…坊や」
2019-09-08 21:33:45![](https://s.togetter.com/static/web/img/placeholder.gif)
透明ヴィランは万を超え、互いに押し合いへしあい、ビルの間に詰まってひとつながりになり、建物を押しつぶし始める。 「すごい…分裂するより成長するより…さらに早いペースでスーパーパワーが…これがブラックキング…レッドクイーンが吸い尽くせなかったのも納得…待って…」
2019-09-08 21:35:13![](https://s.togetter.com/static/web/img/placeholder.gif)
パープルウィッチドクターははっとなる。 「いけない…いけないわ!客人たち!もう吸うのをやめて!あなた達の吸収できる限度を超えては…」 告げかけてまた人ならぬものの言葉で警告を発するが、すでに遅い。 まあありがちなやつですわ。 パチーンと弾ける。
2019-09-08 21:36:45![](https://s.togetter.com/static/web/img/placeholder.gif)
炸裂する。エネルギーが、あふれ、ビルを根元から引き抜き、高速道路をむしりとり、地盤を崩壊させて、すべてを天高く放つ。 「母ちゃん!!!!!」 「ひいいいいい!!!!!!!!」 パープルウィッチドクターもいっしょにすっ飛ばされたが、まあええやろ。
2019-09-08 21:38:05![](https://s.togetter.com/static/web/img/placeholder.gif)
あたりはもう惑星ができたばかりの頃みたいな景色だが、なぜか母親のまわりだけはきれいに舗装とか折れた電灯の一部とかが残ってる。 器用なやっちゃ。家族だけ傷つけないとは。いや無意識にやったんだな。
2019-09-08 21:39:20![](https://s.togetter.com/static/web/img/placeholder.gif)
「ヨウちゃ…おそと…でられたんだ…」 うれしそうにつぶやくボロ雑巾。駆け寄る引きこもり。 「母ちゃん…けが!?けがして…うっ…」 「あは…まって…スーパーパワー…ですぐ…なおすから…ちょっ…きれちゃってて…」 「スーパーパワー…それ…あればいいの?」 「そうなんだけど…」
2019-09-08 21:41:01![](https://s.togetter.com/static/web/img/placeholder.gif)
息子は母親を抱き起して接吻する。ぐいーっと唇を押しつけるだけだが。 「いた…」 「ごめ…」 「ううん…ありがと」 みるみる治ってゆくリオさん。ヨウちゃんはほーっとする。
2019-09-08 21:41:42![](https://s.togetter.com/static/web/img/placeholder.gif)
「母ちゃ…けがすんなつったし!」 「ごめーん」 「なんだよ!だっせーな!」 「返す言葉もないなあ…」 「は!だっせ!だっせ!……ぐす…だっせ…」 「なんでヨウちゃんがべそかくのー?もー泣き虫なんだから」
2019-09-08 21:43:22![](https://s.togetter.com/static/web/img/placeholder.gif)
いきなりチューンと弾丸がそばに打ち込まれる。 「そこのヴィラン!こちらはジャスティス協会のジャックだ!レッドクイーンを離せ!」 多脚戦車に乗ったイケメンがなんかメガホンで叫んでる。 陸軍と一緒に来たんだ。空に轟音が響き、攻撃機がいくつも低空飛行している。威圧だ。
2019-09-08 21:45:04![](https://s.togetter.com/static/web/img/placeholder.gif)
住民の救出と避難を終えたスーパーヒロイン、ヒーローも随伴している。 「…ブラックキング!やはり覚醒していたか!今回の一件の背後にいたのは貴様だな!」 親子は顔を見合わせる。 「あれ…母ちゃんのともだちだろ?」 「友達じゃない」 「ともだちだろ。おはなししてんじゃん」
2019-09-08 21:46:40![](https://s.togetter.com/static/web/img/placeholder.gif)
「あーヨウちゃん盗み聞きしてんだ」 「ちげーし!たまにきこえるだけだし!」 「いいけど。でも友達じゃありません」 喋ってるあいだにヒーロー、ヒロインが次々と円を描くように着地してくる。片膝ついて片膝を立てるあのかっこいいポーズで。
2019-09-08 21:48:12![](https://s.togetter.com/static/web/img/placeholder.gif)
「レッドクイーン!ブラックキング二世監視の任務を君一人に負わせたのは協会の過ちだった。やはり怪物の子は怪物。どれほど被害を出そうとも、今日ここで決着をつけ!君を再びスーパーヒロインとして解き放つ!」 「ヨウちゃんはそういうんじゃないんで」
2019-09-08 21:49:53![](https://s.togetter.com/static/web/img/placeholder.gif)
リオさんはヨウちゃんにぎゅっとしがみつき、べーっと舌を出す。 「ヨウちゃん。なんかやっつけちゃってもいいと思う。どうかな?」 「え、や、やだし。母ちゃんのともだちだろ」 「ちがいまーす」 「ともだちだし!でしょ?!」
2019-09-08 21:51:40![](https://s.togetter.com/static/web/img/placeholder.gif)
肌にぴったりのコスチュームのナイスバディの美女を抱きしめながら、裸の少年が尋ねると、ほかのやはり変な恰好の男女はそれぞれとまどったように顔を見合わせる。 「ともだち…?」 「まあ…しりあい?」 「ぐらいかな…」
2019-09-08 21:52:31![](https://s.togetter.com/static/web/img/placeholder.gif)
ヨウちゃんが困惑した表情になると、大地に震えが走り、いきなり裂け目から雷が空へ向かって幾筋も迸る。 すわ軍の部隊とヒロイン、ヒーローたちは臨戦態勢になる。 「だめ…だめだ…おれ…やっぱ」 「大丈夫だって」 リオさんはすばやくまたキスをする。かなり本気のやつを。
2019-09-08 21:54:16![](https://s.togetter.com/static/web/img/placeholder.gif)
「い、いかんぞレッドクイーン。君の力は知っているが…よりにもよってブラックキング二世なぞに…」 ジャックはメガホンを握りしめて歯ぎしり。 ようやく接吻を解いた元スーパーヒロインの主婦は、未来のスーパーヴィランのふっくらした頬や長いまつげにさらに軽い口づけの雨を降らせる。
2019-09-08 21:55:48![](https://s.togetter.com/static/web/img/placeholder.gif)
「親子だからいいんですー」 「やめろよ!恥ずかしーよ!あっちいけよ!」 「だってヨウちゃんの手がはなしてくれないし」 なるほど少年はまだぎゅっと女親を抱きしめたままだ。 「…か、かえる!」 「帰ろう帰ろう」
2019-09-08 21:57:03![](https://s.togetter.com/static/web/img/placeholder.gif)
あっけにとられる人々を後目に息子は虚空に「門」を開き、異世界を経由してはるかはなれた、いやまあつまり家に帰った。母親を連れて。
2019-09-08 21:58:20![](https://s.togetter.com/static/web/img/placeholder.gif)
部屋に戻った少年はまた隅っこにうずくまるが、隣で母は両手で頬杖をついてうつぶせになり、あしをばたばた。 「うれしかったよ。ヨウちゃんがお外でてくれて」 「もういかねーし!」 「ひょっとしてお母さんがピンチになったら来てくれるのかな」 「いかねーし!」 「やっぱお母さん復帰しようか」
2019-09-08 21:59:53![](https://s.togetter.com/static/web/img/placeholder.gif)
「だ、またけがしたら…」 「ヨウちゃんが助けてくれるよね」 「しねーし!」 「ヨウちゃんのコスチュームも作ろうか。そうだそうだ。そしたら破れないから何か着られるよ!」 「恥ずかしーからいいよ!」 「裸の方が恥ずかしいよ」 「う…」
2019-09-08 22:03:54![](https://s.togetter.com/static/web/img/placeholder.gif)
少年はますます丸くなる。 「あっちいけよ」 「いかない」 「なんで…母ちゃんけがするぞ」 「しないよ。ヨウちゃんは大丈夫」 「なんで」 「私の息子だもん」 「…あっちいけ!」 「はいはい」
2019-09-08 22:05:22![](https://s.togetter.com/static/web/img/placeholder.gif)
立ち去り際、レッドクイーンは振り返って少年を眺めやる。 「ありがとう。助けてくれて」 「…そんなの…ふつうだろ…」 「ふつうか…うん。そうだね」
2019-09-08 22:06:51