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「…させない」 なんとか立ち上がろうとするレッドクイーンを客人とやらがまたボコって這いつくばらせる。 「ジャスティス協会最強戦力、ただ一度を除いていかなるヴィランにも敗れぬまま引退したレッドクイーンが出てくるとは予想外でしたけど、良い収穫になりそう」
2019-09-08 20:41:19![](https://s.togetter.com/static/web/img/placeholder.gif)
「私はこいつらのご飯には向いてないみたいだけど?」 「あら、ほかにも色々な使い道がありますのよ。確か…エビル帝国の頂点に立った…最強最悪のスーパーヴィラン、ブラックキングはあなたを打ち負かしたあと洗脳して…どうしたんでしたっけ」 「覚えてないなあ」
2019-09-08 20:43:16![](https://s.togetter.com/static/web/img/placeholder.gif)
「ヴィラン側もヒーロー側も誰も詳しく教えてくれないんですけど…ブラックキングはヒーローやヒロインの心を砕き、底なしの絶望を味合わせることを好む方だったそうですから…さぞかしお辛い目に遭われたのでしょうね」 「…ごめん。声が遠くて。もうちょっとそばに来てくれる?」
2019-09-08 20:46:15![](https://s.togetter.com/static/web/img/placeholder.gif)
「あなたのキスはご遠慮いたします。このパープルは、ブラックキングのような、レッドクイーンにも吸い尽くせないほどのスーパーパワーを持った怪物ではありませんから」 「…そう」 「でも、ブラックキングに似た方なら知っていましてよ。私が開いた門の向こうで会った偉大な君主達」
2019-09-08 20:48:05![](https://s.togetter.com/static/web/img/placeholder.gif)
「門?何かなそれ」 「この世とあの世をつなぐ出入り口、次元の穴とでも申しましょうか。あちらにもこちらのブラックキングと同じように、誇り高い男や女の魂を毀(こぼ)つのを好む存在がいる…とだけ申しておきましょう。ただ…一度へし折れたあなたがお眼鏡にかなうかしら」
2019-09-08 20:49:51![](https://s.togetter.com/static/web/img/placeholder.gif)
「門のこともっと詳しく教えてよ」 「聞いてもあなたには何もできませんことよ。すぐに向こうへ連れていって、終わりのない苦痛と恐怖を味合わせてさしあげますけど…あら、お顔が真っ青」 「…お昼ご飯が足りなかったも」 「まあお気の毒…ところで」
2019-09-08 20:52:10![](https://s.togetter.com/static/web/img/placeholder.gif)
「最強のレッドクイーンに引退を決めさせたほどの悪夢、ブラックキング…一体誰が、どうやって倒したのですか?」 「覚えてない。あなたが知る必要もないかな」 レッドクイーンは最後に残しておいた力を振り絞って抑えつけてくる透明な腕をひきちぎり、パープルウィッチドクターに体当たりした。
2019-09-08 20:53:58![](https://s.togetter.com/static/web/img/placeholder.gif)
だが白衣の女は崩れて透明な残骸になっただけだった。 哄笑が響く。 「単純な目くらましにひっかかるなんて、随分調子が悪いみたいですね。あなたが異世界の諸侯の玩具になって泣き叫ぶのが今から楽しみです。スーパーヒロインて手足をもがれても目鼻耳をえぐられても死なないそうですもの」
2019-09-08 20:55:40![](https://s.togetter.com/static/web/img/placeholder.gif)
「でも…ちょっとむかつくから、門をくぐらせる前に、すこし肉を柔らかくしておこうかしら。一流料理店が客人のため必ずそうするように?」 透明ヴィラン達がわらわらと囲んでくる。どこか棒きれのような腕や足が上がる。 「…ヨウちゃんごめんね…今日は晩ご飯までに帰れないかも…」
2019-09-08 20:57:42![](https://s.togetter.com/static/web/img/placeholder.gif)
一方ひきこもりの息子はというと 裸の手足を縮めたまま部屋の隅っこにうずくまっていた。 「母ちゃん…けがしてねーよな」 するはずないのは解っているが、つい考えてしまう。 色々なこと。 何年か前、ヨウちゃんがまだもっともっと幼かったころ、沢山痛そうだったり苦しそうだったりした人を見た。
2019-09-08 21:00:55![](https://s.togetter.com/static/web/img/placeholder.gif)
あんな風になってほしくない。絶対に。 だから本当は息子は母親にそばにもいてほしくない。 なぜってみんながけがをするのは、ヨウちゃんのせいだからなのだ。 ヨウちゃんが理由もなく暴れるせいなのだ。暴れまいとしてもそうしてしまう。 いや理由は知っている。
2019-09-08 21:02:43![](https://s.togetter.com/static/web/img/placeholder.gif)
ブラックキング。 最強最悪のスーパーヴィラン。皆を、特にヒーローやヒロインを痛めつけ、苦しめ、底なしの絶望を与えることを好むエビル帝国の頂点。その遺伝子を受け継ぐ怪物。 国語と社会を勉強しているから意味は解る。 とにかく悪いやつ。ヨウちゃんはその子供なのだ。
2019-09-08 21:04:40![](https://s.togetter.com/static/web/img/placeholder.gif)
レッドクイーンが母親の役をこなしてそばにいるのは、ブラックキング二世となるかもしれない怪物の子供を見張るためだ。 「だったら…たおしちゃえばいいのに」 ヨウちゃんは別にリオさんにたおされるなら文句はないのだ。 痛いかもしれない、苦しいかもしれないが。
2019-09-08 21:06:17![](https://s.togetter.com/static/web/img/placeholder.gif)
皆が、特にリオさんが痛かったり苦しかったりするよりはましだ。 悪いやつはたおせばいいのだ。 なのに悪いやつにご飯をくれたり、お風呂に入れたり、勉強を教えたり、いっしょに遊んだりしたら、つらいだけだ。 もっともリオさんはつらそうには見えないが。でもつらいにきまってる。
2019-09-08 21:08:34![](https://s.togetter.com/static/web/img/placeholder.gif)
「うわあああああああ!!!!」 ヨウちゃんは浮かび上がり、壁に頭からつっこんだ。 衝撃が走って波打つが、それだけ。 自分で自分を倒そうとしたことは幾度かあるが、どうしてもうまくいかない。スーパーパワーが勝手に防いでしまう。
2019-09-08 21:10:22![](https://s.togetter.com/static/web/img/placeholder.gif)
ふだんはニコニコしているリオさんがすごく悲しがるのであまり頻繁には試せないが。 「…どうすればいいの」 解らない。解らない。倒してもらえないスーパーヴィランはどうしたら皆を痛くしたり苦しくしたりせずに済むのか。 だから引きこもっている。できるだけじっとしている。
2019-09-08 21:11:46![](https://s.togetter.com/static/web/img/placeholder.gif)
「…母ちゃん」 帰りが遅い。もしかしてヨウちゃんにうんざりしてもう戻ってこないのだろうか。 母親としてすぐ暴れる引きこもり息子のたまったものを処理するのが嫌になった可能性はある。あるぞ。よかったな。望み通り、あっち行ってしまったぞ。
2019-09-08 21:13:32![](https://s.togetter.com/static/web/img/placeholder.gif)
じわっと少年の目元に涙が浮かび、宙にただよってきらきらと輪を描く。 さらにまつげから離れていこうとするのをごしごしとこする。 「…母ちゃん…けが…してねーよな」 だんだん心配になってくる。 そんなことあるはずがない。たださびしくなって、会いに行く理由を探しているだけだぞ。
2019-09-08 21:16:07![](https://s.togetter.com/static/web/img/placeholder.gif)
「…ちょっと…見にいくだけだし」 ん?外に出たら皆に迷惑かかるからやらないはずじゃなかった? かっこいい覚悟決めてなかった? 「…すぐかえるし」 でも何年か前はちょっと外に出ただけで大騒動になってたよね? 「ちょっとだし!!」
2019-09-08 21:17:39![](https://s.togetter.com/static/web/img/placeholder.gif)
そういうもんすわ。 えらそうなこと言っても親の帰りが遅いとすぐふらふら探しにいっちゃうっすわ。ほんと子供はそれで迷子とかなるから。 ひとりでいいとか全然無理。まじただの虚勢ですわ。
2019-09-08 21:19:19![](https://s.togetter.com/static/web/img/placeholder.gif)
少年は虚空をゆがませ、次の瞬間には「門」を作り出すと、異世界を経由して離れたはるか場所へと転移していた。 別に誰かに教わった訳ではないが、テレポートは最強最悪のスーパーヴィラン、ブラックキングの数あるスーパーパワーの一つだ。
2019-09-08 21:20:56![](https://s.togetter.com/static/web/img/placeholder.gif)
母親の方はなにせスーパーヒロインなのでヴィランがよってたかってぼこぼこにしてもまあちょっと痛い苦しいぐらい、でもない。パワーが切れかけているので。だいぶボロ雑巾だ。 「いい顔になってきましたね。今のあなたはすこし好きになれそうです。私の屋敷の床を拭くのに役立ちそうですもの」
2019-09-08 21:24:12![](https://s.togetter.com/static/web/img/placeholder.gif)
パープルウィッチドクターは瓦礫の端にちょこんと座って足組をし、ネイルの手入れをしながらうそぶく。 「ぐ…ヨちゃ…おか…さ…すぐ…帰…」 焦点の合わない目でレッドクイーンはつぶやくが、そこにまた蹴りが。
2019-09-08 21:26:13![](https://s.togetter.com/static/web/img/placeholder.gif)
入らない。 なぜって蹴ろうとしたヴィランは溶けてしまったから。 裸の少年がぽつんと亀裂の走った高速道路の路面に立っている。 「…あら。小さいけど…新手のヒーロー?いいえ…この雰囲気はちがう…ヴィランですのね。私と手を組みに来たんですか?」 ブブー。ただのひきこもり息子。
2019-09-08 21:27:54