- alkali_acid
- 11830
- 5
- 0
- 0
昼食はターキーのサンドイッチにする。 母親が準備をして地下におりると、まだ引きこもりモードは強化中。 なんとか四重の扉を押し開けて踏み込む。 「ヨウちゃん、昼ご飯だよー」 「…くんなって…いってんのに…」 体育座りのまま宙に浮いている息子。周囲の空間がゆがんでいる。 涙が輪を描く。
2019-09-08 19:39:51リオさんはふっと鼻から息を吐いて近づき、手を伸ばしてねじれた虚無をとらえ引き寄せ、またキスをする。ヨウちゃんの小さな体がすとんと両腕のあいだに収まる。 「ご飯食べよう?」 「…おれ…死んだほうがいいよ…」 引きこもりはめんどくさい。 「よくないよ」 「いいよ」
2019-09-08 19:43:45「そしたら母ちゃん、ここにいなくていいよ」 「ここ、私の家なんですけど」 「ほかのひととあえるじゃん」 「会ってるよ結構」 「もっとあえるじゃん」 「そしたらその分ヨウちゃんとあえないじゃん」 「だから…」 「ヨウちゃんといっぱい会ってたいんだよ。お母さんは」
2019-09-08 19:45:26ターキーのサンドイッチを食べる。 あとミルクコーヒーも飲む。 カップがぺしゃんこになったけど気にしない。 母親は引きこもりの息子のたまったものを喜んで処理してあげる。 処理したものはだいたいあとで全部外で放出しているが、でも何となくリオさんは現役時代よりも強くなってるかもしれない。
2019-09-08 19:48:09「いっしょにお外いこーよ」 「いかねー!母ちゃんひとりでいけよ!」 「お母さんいっしょがいいなー」 「やだ!」 「だいじょうぶだってば」 「だいじょうぶじゃねーし!」 「お母さんがついてるのに」
2019-09-08 19:50:48ヨウちゃんはでも縮こまる。 「また…もの…こわれるし…」 「壊させないよ。私が」 「みんな…いたくて…こわくて…なくし」 「誰も泣かせないよ。私が」 「そんなの…母ちゃんがくるしーだろ!!」 「苦しくないけど。えーとむしろ気持ちいいぐらいで」 「っ…あっちいけ!!」
2019-09-08 19:53:23そんな日々の中、またしても無線が入る。 “レッドクイーン!レッドクイーン聞こえるか” 「はいサニタですけど」 “コードネームで答え…それどころではない!緊急出動してくれ” 「引退したんで」 “協会最強戦力の君が必要だ!!敵は…どうやら君と同じ力を持つヴィランなのだ”
2019-09-08 20:07:40「うーんでもヨウちゃんのが大事なんで」 “確かに君の拘束しているスーパーヴィランは人類の脅威…あの最悪の敵ブラックキングの遺伝子を継ぐ存在…だが今度の敵はそれ以上かもしれない” 「なんか新手が出るたびいつも最強とか最悪とか言ってますよね」 “このままでは世界が滅ぶ” 「またですか」
2019-09-08 20:09:13やれやれと肩をすくめるものの、切迫した調子はやはりただごとではない。 「じゃあ…お昼ご飯の用意してから」 “今すぐ!!!来てくれ!!” 「あーはいはい」 スーパーヒロインのコスチュームのままBLTサンドを持って地下へ。 「ヨウちゃん。お母さんちょっと…出かけなきゃいけないかも」
2019-09-08 20:10:58「いけば」 「心配しないでね。すぐ帰ってくるから」 「かえってこなくていーし!」 「おみやげなにがいい?」 「うっさい!けがすんなよ!」 「はーい」
2019-09-08 20:12:33んで出かける。 空をびゅーんと飛んでね。 ヨウちゃんにたまったものを処理して使うだけでリオさんはほぼ無敵だ。 現場にたどり着くと、透明な人型がたくさん暴れている。 大きいのも小さいのもいる。ゼリーみたいなやつ。 住民の避難はさせようとしているが、ヴィランによる被害拡大の方が早い。
2019-09-08 20:14:49「えー大惨事」 「レッドクイーン!?レッドクイーンか!?あんたでも無理だ…!」 全身コスチュームのヒーローがビルの窓から首を出して叫び、宙に飛び出すがすぐに透明な人型が何匹もしがみつく。みるみるかさかさに吸われてゆく。 「こら!!」 急加速したレッドクイーンは手刀で人型をスパッ。
2019-09-08 20:17:00人型をずたずたに切り裂いて宙へばらまき、かささかさヒーローをお姫様抱っこして着地する。 「…さすがだ…だがやつらは」 次々あらわれる人型。めんどくさそうに眼を細めるリオさん。 「いっぱいいるんだ」
2019-09-08 20:18:29大活躍を始める元スーパーヒロインの主婦。 真紅に燃えて放つスーパーパワーに、ヴィランが次々集まって来る。 とりあず次から次にちぎっては投げちぎっては投げ、劣勢だったほかのヒーロー、ヒロインも一息ついて立て直し始める。 「みんなは!住民の救助と避難優先ね!」
2019-09-08 20:20:19レッドクイーンは戦いながら状況分析。 冷静。なんかスーパーパワーの減りが激しい。あとビームとかを撃つと敵は逆に分裂して増える。肉弾戦がよさそう。だが触るとどんどんパワーが減る。 「…吸うんだ。へー」 これだけ数が増えたのはヒーロー、ヒロインを相当吸ったせいっぽい。
2019-09-08 20:22:06やがて高速道路の上に倒れた巨躯にたどりつく。超大型ヒーロー。グリーンジャイアント、だったものだ。 「ごはんあげてたようなもんか」 地響きがする。透明なゼリー状の人型がビルの谷間からゆっくり歩み出してくる。 「あーあ。帰るの遅れちゃうな」
2019-09-08 20:23:51レッドクイーンは空を飛んでパンチ。だが巨大ヴィランの表面から無限に小さなヴィランが沸いてゆくてをはばむ。 「じゃま!!」 全部粉砕。粉砕。粉砕。協会最強戦力はだてじゃない。
2019-09-08 20:25:11しかしスーパーパワーの目減りが激しい。 一瞬気が遠くなる。 狙いすましたように巨大ヴィランの手がぱちんと蚊でも叩くようにリオさんを挟み込む。 めちゃ強いスーパーヒロインの体内に蓄えたエナジーを吸い尽くすつもりだ。 「こっちが!本家なんだよね!!」 吸い返す。
2019-09-08 20:26:55同種のパワー同士が争った場合どうなるか。 結果は、巨大ヴィランは激しく振動し、ぐずぐずに崩れていった。 でもレッドクイーンもへとへとになった。 吸う力を吸う、という行為はどちらのパワーも消耗させただけで終わった。
2019-09-08 20:28:07まだわらわらと小型ヴィランが集まって来る。 粉砕。粉砕。粉砕。 だが拳も蹴りも鈍って来る。とうとう透明パンチが腹にめりこむ。 「ぐふっ」 顔にも 「あぐ」 足にも。
2019-09-08 20:29:04まるでノーマルのように痣を作り、血を垂らして、ぐったりとレッドクイーンはうなだれ、両腕を透明ヴィラン達に捕まれる。すぐに左右の二匹がぐずぐずに溶ける。 動けなくなっても吸引はできる。結果は疲労を増すだけでも。 一応敵は倒せる。 「まだ…まだ…」
2019-09-08 20:30:57ヴィラン達は吸引をせず物理攻撃にとどめてくる。 「ぐ…この…これ以上、私がけがしたらヨウちゃんが泣くでしょ…あの子気が…弱いんだから…」 キックを鷲掴んで吸引。溶かす。さらにだるくなる。もう意識を保つのもやっと。
2019-09-08 20:32:11「…あと十匹ぐらい…かな…」 「三十五体」 訂正する声。いつのまにかモノクルをかけた白衣の女が高所に立っている。 「ごきげんうるわしゅうレッドクイーン?わたくしはパープルウィッチドクター。パープルで結構ですわ」 「こいつら…あなたの手先?」 「客人かしら」
2019-09-08 20:35:30「おかげで客人への供食をほとんど逃がしてしまいましたけど…でも大丈夫…」 轟音を上げて爆撃機が三、四機地上に墜落する。大爆発が起きる。 軍が出動させたらしい。 「あら、無人ですの?不粋ですこと。でも沢山の部隊が近づいてきていますから、また減った分は取り返せるでしょう」
2019-09-08 20:38:41