【それを射殺しない】福間健二 #k2fact237

福間健二 @acasaazul

十六歳。しわくちゃの映画から抜けだして、〇・五リットルの冷たい水。この世のてのひらに撫でられたいろんな犠牲者と話した。受け入れられたり、拒まれたり、それでのどが渇いたのね。胸も痛んだよ。パンになにか挟んであげようか。ありがとう、でも消えるときだ。（それを射殺しない１）#k2fact237

福間健二 @acasaazul

十万円。消える条件。なら、もっともらってもよかったのに。隣の工場にあねさんかぶりで働く女たちがいて一九六六年の気分。歌いながら外に出ると子どもたちが泣いていた。第三中学校入口の停留所の近くの店。ラーメン、いくらだろう。きのうがきみの命日だったね。（それを射殺しない２）#k2fact237

福間健二 @acasaazul

大型台風が近づいて、狩野川台風の一九五八年を思い出している人がいる。ラーメン、四十円。ハイライトはまだない。きみは小学生。欲しいものが急流に運ばれていく。奇跡のように生きている棒で触ることできても、手ではつかめないよ。よい魚、わるい魚、どちらも。（それを射殺しない３）#k2fact237

福間健二 @acasaazul

泥濘のなかを歩いてきてくれた。二十年、三十年、あっという間なんてことはなく、リュックにナイフとドライバー入れた十六歳の脇腹を指で突っつくためでもなく。台風一過。掃除も終わった。睫毛も靴もそのくらいのダメになり方がいいのかな。転形期の人々に会うには。（それを射殺しない４）#k2fact237

福間健二 @acasaazul

ちがう種類。詩人や異邦人が虐殺される時代のような階級差がひそむ上着を着せられた二人。新しい靴もいるね。ぼくがいつのまにか持つ紙袋には、二種類、それぞれ何本かの、甘い、甘い黄金棒が裸で入っているのだった。片方をあげる。するともう片方もねだられる。（それを射殺しない５）#k2fact237

福間健二 @acasaazul

ある環境の、平均的な若者。だれがなるんだ。いまは消えたアパートで笑い声がする。壊されるのは決まっていた。写真の秋にはないが、千円札にぎりしめて入った店も。階段の途中でこぼれる豆たち、拾われなかった。ザルや袋でだれを不機嫌にするわけでもなかったのに。（それを射殺しない６）#k2fact237

福間健二 @acasaazul

新潟のつづきの、丸太のころがるアメリカ。ジョニー・エンジェル歌いながら歩いて入れるとはね。古いきみ。さよならは言わない主義。砂に残るおしりのあとを活用して。偏狭な看守たち。どう料理する。その紺色はもう正式ではなく、つぎはぎだらけは服だけじゃない。（それを射殺しない７）#k2fact237

福間健二 @acasaazul

寸法よりも金目がどうとかの、物の配置。哀れなり、と二階から青い影を落としてどうする。流行遅れのサングラス、睡眠薬、バカどもが握る権力。どう射つ、だったのではないか。いざとなるとおとなしいヴァージョンの、ルイジアナ・ママ。祭りはとっくに終わったよ。（それを射殺しない８）#k2fact237

福間健二 @acasaazul

いつの話でもいい。映画館と安い酒場があれば。この十月も、もう何歩かで悪の華に逃げ込むことができた。でも飲むと腰重くなるんだよね。ノスタルジア、ウルトラ。月が思い出させる、故障しがちの未来。「人間が好き」に解消できない感情の飛行機があいさつしている。（それを射殺しない９）#k2fact237

福間健二 @acasaazul

シャワーのあと。折り返し、なんでもありのこの世の構図に飲み込ませる赤い空。消えたいきみを引きとめない。そうなるしかない、じゃないってこと。だれかになにかを渡される相似形におかれても放つ光は変わる。新しい自分。ほんとうの自分。その声をはじめて聞いた。（それを射殺しない10）#k2fact237