空と踊る男の #呟怖 〈竹田と俺〉シリーズ

ハッシュタグ #呟怖 で地味に書き継いでいる創作〈竹田と俺〉シリーズをまとめました。 基本的に男子高校生二人が会話しているだけの内容ですが、自分では気に入っているので今後も書き続ける予定です。 なお、一部〈竹田と俺〉が登場しない作品も含まれておりますが、理由は全部読んで頂ければお判りになるかと。 ひとまず完結とさせていただきます。
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空と踊る男 @dancewithsky

「水の中で起きる恐ろしいことを、君はまだ知らない」 沼の畔で竹田が言った。 俺は答えた。 「よく判らないな。単に水の中へ入らなければいいだけだろ?」 「違う。問題は、君が想像する〈水中での動きそれ自体〉なんだ。水の外でも中でも、君は君の想像の奴隷だよ」 水面には波ひとつない。 #呟怖

2019-09-02 21:15:09
空と踊る男 @dancewithsky

「こんな深い霧の中にいると、君がふと溶けるように消えてしまっても、まるで不思議ではないね」 高校からの帰り道、竹田が言った。 「急に霧が出たからそんな気がするだけだろ」 俺は答えた。 「いや。実際、君は時々消えているんだよ。気づいていないだけで」 ふいに竹田の姿が霧に紛れた。 #呟怖 twitter.com/Wbaet11/status…

2019-09-06 17:59:24
空と踊る男 @dancewithsky

「僕、スイカって嫌いなんだよ。特にあの黒い種の見た目が無理」 竹田が言った。 「へえ。スイカが嫌いな奴に初めて会ったわ」 俺は答えた。 「君にもあるだろ、少数派だけど嫌いなもの」 「うーん、スイカ人間とか?」 冗談のつもりだったのに、空気が一瞬で凍った。 「なぜ……知ってる?」 #呟怖 twitter.com/No0_0128/statu…

2019-09-07 18:15:56
空と踊る男 @dancewithsky

「君が夜を覗く時、夜もまた君を覗いているよ」 夜の公園のベンチで、竹田が言った。 「それ、〈深淵〉と〈夜〉を入れ替えただけだろ」 俺は答えた。 「ご名答。でも覗き返してくるのは深淵や夜だけじゃない。例えば、君はいつも僕の心を覗こうとしているね?」 闇の中で竹田が俺を凝視した。 #呟怖 twitter.com/kwaidanbattle/…

2019-09-08 16:36:52
空と踊る男 @dancewithsky

「この運転手はね、既に狂っているんだ。いずれ僕らを道連れに死への暴走を始めるよ」 高校へと向かうバスの中で、竹田が囁いた。 「酷い言い様だな。証拠はあるのか?」 俺は聞いた。 「僕の観察力なら判る」 「そう思っていながら、なぜバスに乗る?」 竹田は笑った。 「確かめたいからさ」 #呟怖

2019-09-09 18:56:00
空と踊る男 @dancewithsky

「よく見知った人間が、瓜二つだが全く違う別人と入れ替わっている。そんな考えを抱いたことはないかい?」 期末テストの上位得点者の貼り紙を見ながら、竹田が呟いた。 「それ、カプグラ症候群だろ」 俺は答えた。 「ご名答。しかし凄いね、前回から209人抜きで学年総合1位は」 「まぐれだよ」 #呟怖

2019-09-11 18:34:48
空と踊る男 @dancewithsky

「最近、君の影が随分薄くなったね」 昼休み。校舎の裏で壁にもたれながら、竹田が言った。 「何だよ藪から棒に。不躾だな」 俺は答えた。 「比喩じゃないよ。実際、以前はよく影と対話してたのに、最近はさっぱりだろ?」 訳が判らず、壁に映る影を見る。 まるで何か言いたそうに蠢いていた。 #呟怖

2019-09-12 17:15:06
空と踊る男 @dancewithsky

「全く、なぜ殴り合いなんてしたのさ」 呆れ顔で竹田が言った。 「向こうが先に手を出してきたんだ、仕方ないだろ」 まだ痛む頬をさすりながら俺は言い返した。 「判ってないな。それじゃ結局、法則が正しく回復されない」 「法則?」法則? 「呪いなど存在しない。全ては法則の回復なんだよ」 #呟怖

2019-09-13 17:32:25
空と踊る男 @dancewithsky

稲光走る暗雲の下、俺たちを乗せたバスは広大な湿原をうねうね蛇行している。 「やはり発狂したね、この運転手は」 竹田が囁いた。 「いや、そういう問題かよ。全く見知らぬ場所に突然……」 「まだこれからが本番だよ」 竹田が窓の外を指差した。 湿原に立った俺が、こちらへ手を振っていた。 #呟怖

2019-09-14 15:04:59
空と踊る男 @dancewithsky

「左が発狂したバスの運転手の、真ん中が僕の、そして右が君の深層意識へ続いている。どれを選ぶ?」 竹田が問うた。 「どれか選んだとして、何か俺に出来ることがあると?」 俺は問い返した。 「さあ」 「大体なぜ俺が?」 「まずはアレから逃げたいだろ」 竹田がもう一人の俺を見て言った。 #呟怖 twitter.com/dancewithsky/s…

2019-09-15 23:20:40
空と踊る男 @dancewithsky

「バタフライ効果だね。些細な事象が、因果の果てに重大な結果を生む」 俺が気まぐれに蹴った道端の小石を見ながら、竹田が言った。 「あれは比喩だし、実証は困難だろ」 俺は答えた。 「確かに。でも、君の囚われている因果は特異だからね」 「え?」 急に立ち止まると、竹田は空を見上げた。 #呟怖

2019-09-18 15:29:00
空と踊る男 @dancewithsky

「この世界について、突然全てを理解したような感覚が訪れたことはある?」 校舎の裏山の沼の畔で、竹田が聞いた。 「ないな。仮にあっても、一瞬ですぐ忘れてそうだし」 俺は答えた。 「忘れた方がいい。それは君の因果において致命的だから」 「え?」 ふいに水面が揺らめき、色味を変えた。 #呟怖

2019-09-19 18:48:48
空と踊る男 @dancewithsky

入院した竹田を見舞った。 「なんだ、元気そうじゃん」 竹田の顔を見て俺は言った。 「じきに退院できるよ」 「そりゃ何より」 「それより僕が心配なのは君のことさ。どうあがいても、君は君の因果から逃れ得ない。そのことを理解しているのは僕だけなんだよ」 帰路で、なぜか俺は道に迷った。 #呟怖

2019-09-20 17:32:24
空と踊る男 @dancewithsky

「僕が入院してたから、ここへも久々に来たね」 いつもの沼の畔で、竹田が呟いた。 「確かにそうだな」 俺は答えた。 「でもなぜ、僕と君はこうも頻繁にこの畔を訪れるのだろう」 「何となく落ち着くからじゃね?」 「じゃあなぜ君はいつも」 「いつも?」 「そんなに怯えた目で水面を見るの」 #呟怖

2019-09-23 01:13:45
空と踊る男 @dancewithsky

「他人の夢の話は退屈なものだけど、昨晩こんな夢を見たよ」 校舎の屋上で竹田が話し始めた。 「夢の中で、僕は君の墓の前にいる」 「不吉だなおい」 俺は笑った。 「その墓にはなぜか僕の名前が刻まれていて、でもそれは君の墓なんだ。君はもういないんだよ」 訳もなく、俺の目に涙が滲んだ。 #呟怖

2019-09-23 16:29:44
空と踊る男 @dancewithsky

用事があると言って竹田が先に帰ったので、俺は久々に一人で下校した。 いつも訳の判らないことばかり言って俺を戸惑わせる竹田がいないとせいせいする反面、妙な心細さも覚える。 『君のことを理解しているのは僕だけだよ』 以前あいつは言ったっけ。 「それ嘘だから」 誰だよいきなり…… #呟怖

2019-09-24 17:21:44
空と踊る男 @dancewithsky

「だから言ったんだよ、俺はそいつに。『もう少し他人の気持ちも考えろ』って」 帰り道。俺は竹田に怒りをぶちまけた。 「確かに」 竹田は頷いた。 「だろ。それでさ」 「で、誰だっけ、その〈そいつ〉って」 「…………」 俺は思い出せなかった。 ただどす黒い怒りだけが胸中を渦巻いていた。 #呟怖

2019-09-25 17:31:48
空と踊る男 @dancewithsky

「思い出したよ、〈水の中の恐ろしい出来事〉を」 いつもの沼の畔で、俺は竹田に告げた。 「思い出した? 君は未だにそれを体験してない筈だけど」 「体験してたのさ。そして、なぜお前が知ってたのかも思い出した」 「へえ」 「再現してみないか? 今、ここで」 沼は誘うように煌めいている。 #呟怖

2019-09-26 15:07:11
空と踊る男 @dancewithsky

「ともあれ、どうかとは思うが、面白いね」 突然竹田の声が耳に入ってきて、俺はハッとした。 「……悪い、ボーッとしてた。何?」 「いや、君は別にボーッとなんてしてなかった」 竹田は微かに笑っている。 「そうか?」 「うん。どうかとは思ったけど。面白いよ」 俺は妙な胸騒ぎを覚えた。 #呟怖

2019-09-27 17:57:57
空と踊る男 @dancewithsky

「最近この坂に出る〈切り裂き魔〉の話、聞いてるだろ」 放課後。校門から続く長い坂を下りながら、俺は竹田に言った。 「うん」 「まだ切られたのは制服のみで怪我した生徒はいないらしいけど、警察も」 「業務用スーパー」 「え?」 「業務用スーパー」 全く脈絡が掴めず、俺はゾッとした。 #呟怖

2019-09-28 19:31:04
空と踊る男 @dancewithsky

「例の〈切り裂き魔〉、被害者の着衣に残った微細な金属から、凶器が業務用スーパーでしか買えない特殊なカッターの刃だと判明して逮捕に繋がったらしい」 休み時間。俺は竹田に言った。 「へえ」 「……なぜ知ってた」 竹田は笑って、 「勘違いだよ。僕は『虚無は夜に刺すわ』と言ったのさ」 #呟怖

2019-09-30 17:49:41
空と踊る男 @dancewithsky

「仮にいつか君の人生が映画化されたら、エキストラで出演したいと思うかい?」 下校途中のバスの中で、ふと竹田が尋ねた。 「いや、映画化される訳ないだろ」 俺は苦笑した。 「仮に、だよ」 「うーん、別に出たくないかな」 「え?」 竹田はやけに驚いた顔で、 「君は僕を演じる予定なのに」 #呟怖

2019-10-01 17:57:03
空と踊る男 @dancewithsky

女は銃後の守りに徹すべきこの御時世に、たかが鬱ぎの虫で大仰なこと。 義母の嫌味を聞き流してから、私はまた眩惑坂を登り、脳病院を訪れた。 狂っているのは貴女以外の国民の大半です。 なら、先生はどちら? 私は、狂った側ですね。この国と共に破滅したいから。 主治医は声を潜めて嗤う。 #呟怖

2019-10-02 12:50:46
空と踊る男 @dancewithsky

「問題は信憑性だよ」 いつもの沼の畔で、竹田が力強く断言した。 「仮に『沼の底で女に足を引っ張られた』という君の話が事実だとしよう。だが、それを聞いた人はまず」 「ちょっと待て」 俺は慌てて口を挟んだ。 「いつ俺がそんな話を?」 「だから、問題は信憑性なんだよ。事実は二の次さ」 #呟怖

2019-10-02 18:22:53
空と踊る男 @dancewithsky

「僕らのクラスで一番美人な女子って、君は誰だと思う?」 昼休み。校舎の裏で、竹田が尋ねた。 「お前にしては随分俗っぽい質問だな」 戸惑いつつ、俺は考えてみた。 「えーと」 「……なるほど。些細なトリックだが、意外に使えるかも」 「え?」 そして俺は急に思い出した。 ここ男子校だ。 #呟怖

2019-10-03 17:53:56
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