【マブラヴオルタネイティヴ/暁遙かなり】20191022プレイレポ #age20th

落陽の瞬間を迎えようとしていた2000年の日本帝国。だがそれでもなお、その先に夜明けの暁天があることを信じ、前線に身を投じる者達がいた。
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河畑濤士 @KWHTTS

抜刀した撃震に向かって、時速80㎞近い高速で要撃級が突進する。次の瞬間には四脚のバネを活かし、彼(か)は宙に舞っていた。両腕を振り被りながらの空中強襲。だが要撃級が描く放物線の終着地に居たはずの撃震は、もう姿を消していた。

2019-11-13 18:16:33
河畑濤士 @KWHTTS

一閃。 脇に飛び退っていた撃震は、無数の雨粒とともに要撃級の胴部を叩き割った。鈍色の装甲が返り血で染まる。とほぼ同時に撃震は下段に長刀を構え直す。脇からにじり寄ってきた要撃級の前腕が飛んできていた。強靭な生体装甲と、科学技術の粋を集めたスーパーカーボン製の刀身が激突する。

2019-11-13 18:21:25
河畑濤士 @KWHTTS

速度が乗っていないとはいえ、要撃級が振り抜く一撃は重い。右主腕の警告灯が黄色く点灯する。が、衛士はそれを無視し、返し技の要領で長刀を旋回させるやいなや、剣先を要撃級の頭部に叩きつけた。 「御倉少尉ッ、無理をするな、退(さ)がれ!」 「川平中尉、……もう退がる場所なんてないですよ」

2019-11-13 18:26:26
河畑濤士 @KWHTTS

抜刀した撃震の御者、御倉少尉の言は正しかった。 前述の通り、川平中隊は死地にいる。周囲はBETAの海。いまの会話も、御倉少尉は追い縋る戦車級を短噴射で躱(かわ)し、92式多目的追加装甲(盾)の下部でギロチンが如く叩き潰しながらしている有様。 「アックス5、こちらもアウトオブアモー」 pic.twitter.com/khGecWqGNh

2019-11-13 18:32:06
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河畑濤士 @KWHTTS

中隊各機の装填数2000発を誇る驚異の弾倉から、機関砲弾が消え失せ始めていた。南東には弾薬補給コンテナが立錐しているが、正対する敵を相手取りながらの補給は難しい。そうなればあとは近接戦闘兵器(CIWS)の長刀や短刀に頼るほかない――

2019-11-13 18:36:36
河畑濤士 @KWHTTS

――のだがハイヴにおける閉所戦闘ならともかく、野戦でこれを使う状況に追い込まれるということは、衛士にとっては死が急速に近づいていることを意味している。 加えて状況は乱戦模様。陣形は乱れ、各機は正面の敵と対峙するのがやっとで、2機単位の相互支援さえも難しかった。

2019-11-13 18:37:17
河畑濤士 @KWHTTS

このBETA群の包囲下では中隊長の川平中尉も、出来ることは多くない。砲撃支援(インパクト・ガード)のポジション上がりという経験を活かし、残弾数を気にしながら部下の援護に努めるのみ。あとは日高中隊や、神田中隊の救援を待つしかなかった。

2019-11-13 18:42:00
河畑濤士 @KWHTTS

だから、かの月とこの地球で何百、何千回と繰り返されてきた、ありふれた結果が待っていた。

2019-11-13 18:46:55
河畑濤士 @KWHTTS

古代の剣闘士さながら剣と盾という原始的な武器で悪戦苦闘を続けていた御倉少尉の撃震、その周囲には要撃級や戦車級の死骸が積み重なった。故に撃震が有する電子の瞳を以てしても見通せない死角が、このとき複数存在していた。 そこを衝かれた。

2019-11-13 18:49:46
河畑濤士 @KWHTTS

撃震の近距離動体センサーが御倉少尉に危機を報せた時には、もう遅かった。盾をかざして爆発反応装甲を使用する暇すらなかった。戦車級が、その細腕からは想像出来ない怪力で、左肩部にしがみつき、顎(あぎと)を開いて装甲材に齧りついた。 「ちくしょっ――」 「御倉少尉、どうした!?」 pic.twitter.com/viAsmHaU4S

2019-11-13 18:53:46
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河畑濤士 @KWHTTS

「大丈夫っす」と返事をしながら、御倉少尉は左へ短噴射して跳び、左肩部を廃ビルでなすった。ビルの壁面と装甲の間で磨り潰される戦車級。 が、その1秒後、再び新手の戦車級が突進して飛びかかった。続けて他の戦車級が掴みかかり、戦車級が覆いかぶさり、戦車級がにじり寄り、戦車級が噛みついた。

2019-11-13 18:57:11
河畑濤士 @KWHTTS

甲高い音響が、御倉少尉の耳朶(じだ)を打つ。 装甲板が削り取られ、あるいは兵装が剥ぎ取られる音だ。 衛士の精神的均衡を保つ目的の薬物が自動的に投与されたために、彼に恐怖心はなかったが、なんとか立て直さなければという焦燥感は募った。

2019-11-13 22:50:39
河畑濤士 @KWHTTS

が、複数体の戦車級に取りつかれた戦術機が出来ることなど、たかが知れている。 真っ先にセンサー類がエラーを吐き、機体の各部ステータスが黄か赤に染まっていった。薬物の影響で、自分の生命がかかっているのに、一歩引いて他人を見つめているような感覚に襲われた御倉少尉は、躊躇せずに言った。

2019-11-13 22:58:58
河畑濤士 @KWHTTS

「川平中尉、もうダメです。自爆します」 77式戦術歩行戦闘機撃震の腰部装甲の下にはハイヴ反応炉爆破のための高性能爆弾S-11が搭載出来るスペースがあるが、このとき御倉少尉の機には自決用爆弾が収納されていた。戦車級に生きたまま咀嚼される痛みに耐えるよりは、というのが彼の思考であった。

2019-11-13 23:05:09
河畑濤士 @KWHTTS

御倉少尉はその血が通う両手で、操縦席に設けられたカバーを外し、透明な硝子で覆われた自爆用スイッチを露出させた。あとはこれを思い切りぶん殴るだけで、すべては終わる。 だが、戦車級が装甲板を齧り、あるいは引き剥がす大音響に負けない叫びが、御倉少尉の耳に届いた。 「諦めるなッ――!」

2019-11-13 23:10:21
河畑濤士 @KWHTTS

咆哮した川平中尉は、網膜に投影されるレーダー画面に1秒だけ注意を向け、彼我の位置を確認した。前面の戦車級を掃討して擱座した御倉機の方向に機を向ける。距離がある上に、65式近接戦用短刀で排除出来る数ではない。 判断は、一瞬だった。 (御倉を助けるには、突撃砲で狙撃するしかない……!) pic.twitter.com/f8XHD7WfVz

2019-11-13 23:18:27
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河畑濤士 @KWHTTS

「御倉ァ、絶対に動くなよ! フリじゃないからな!」 覚悟を固めて、決意する時間すら惜しかった。 視線と照準を同期させ、突撃砲の砲口を指向する。射撃モードは単射。 戦車級に命中せず御倉機を直撃する、あるいは戦車級に命中しても弾体が貫徹し、御倉機を傷つける可能性は、当然ながらある。

2019-11-13 23:23:41
河畑濤士 @KWHTTS

戦術歩行戦闘機の装甲板が36mm機関砲弾に抗甚出来るかと言えば、おそらく出来ないであろう。跳躍ユニットに命中すれば、噴進剤に引火する可能性もある。 が、ここは第2・3世代戦術機と比較すれば、重装甲と評されている第1世代戦術機のF-4J撃震――その防御力と、自分自身の射撃能力を信じるほかない。

2019-11-13 23:31:02
河畑濤士 @KWHTTS

突撃砲が、火を噴いた。 最初の目標は決まっていた。 撃ち出された鉄の礫(つぶて)は、操縦席に最も近い胸部装甲に取りついている戦車級に目掛け、超音速で天翔けた。弾体は寸分狂わず、戦車級の胴部をぶち抜き、生体構造を破壊しながら、撃震の胸部装甲にまで達した。

2019-11-13 23:38:53
河畑濤士 @KWHTTS

撃震の装甲は、耐えた。 胸部正面装甲は高速回転する36mm機関砲弾を受け止め、その身を削りながらも存在意義を達した。戦車級の脅威と音速の弾頭から、御倉少尉の生命を防護したのである。 破裂する戦車級を確認した川平中尉は、続けて迷うことなく擱座した御倉機に集(たか)る赤い影を射撃した。

2019-11-13 23:45:22
河畑濤士 @KWHTTS

「すみません、川平中尉――」 撃震の甲高い悲鳴が止んだことで、御倉少尉は自身が助かったことを理解した。そこで初めて自分が失禁していることにも気がついた。 「帰ったらハーゲンダッツジャンするぞ、御倉少尉」 「……物を賭けたジャンケンは、言い出しっぺが負けますよ」

2019-11-13 23:49:49
河畑濤士 @KWHTTS

冗談もそこそこに川平中尉は再びレーダー画面に注意をやったが、そこで自分達の隊がいつのまにか窮地を脱していることに気がついた。 対戦していたBETA群を殲滅した日高中隊と90式戦車から成る戦車部隊が南方から加勢し、BETAの包囲環は断ち、瞬く間にごく一部の小型種を除いて駆除したのである。 pic.twitter.com/bqne6X5LJx

2019-11-13 23:54:41
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河畑濤士 @KWHTTS

「スティルランス1より各中隊。ご苦労だった。各隊、これより送る座標に移動し、全周警戒態勢を取れ。爾後の行動をCPに確認する」 川平中尉が安堵の吐息を漏らすとほぼ同時に、神田も部隊状況に目をやって一息ついた。完勝。ひとりの死者も出さず、旅団規模のBETA群を殲滅に成功した。 pic.twitter.com/AP3kXxH5Cs

2019-11-14 00:00:22
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河畑濤士 @KWHTTS

(が、今回はうまく行き過ぎたな) と、ともすれば浮かれそうになる心を彼は鎮めた。 未だ敵の着上陸規模も、大局的な状況も、何もかも分かっていない。BETA群全体の規模に対して、光線級の個体数が多すぎることも気にかかる。

2019-11-14 00:04:21
河畑濤士 @KWHTTS

先程から降り始めていた小雨は、いつの間にか土砂降りになっていた。 陳腐にもほどがあるが、それが不吉の予兆であるように神田は感じ、小さく舌打ちをした。

2019-11-14 00:06:26
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