安藤礼二『列島祝祭論』(作品社)を+Mさんが読むスレッド

+Mさんが読むスレッドシリーズ ※追加更新予定(+Mさんの気持ちとわたしの魂次第)
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+M laboratory @freakscafe

→能楽や神楽は、いずれも修験道の行者たちと深い関係をもちながら、「憑依」を中核とした、神事=芸能として発展してきた。そして、幕末から維新期にかけて、後に教派神道各派として教義が整備される教祖たちにはじめて「神憑り」を引き起こさせたのもまた修験道の行者たちであった。≫

2019-11-14 20:42:41
+M laboratory @freakscafe

この列島で、シャマニズム/アニミズムは、時代の閉塞を更新する宗教的パッションとしてくりかえし招来されてきたが、その媒体として、一貫して山の信仰、具体的には修験道の行者たちが存在していた。 ところで、「山」とはどんな場所か。様々な側面があるが、特に重要なのは「水」という要素である。

2019-11-14 20:48:32
+M laboratory @freakscafe

≪放浪の宗教家たちは、なぜこのような嶮しい山中をめざしたのか。折口は、こう答えている。「山の彼方」には聖なる「水」があったからだ。「山の上の池・滝の水で浄めに来ると言ふ考へは、日本の宗教では大切なものになっていたのです」と。≫

2019-11-14 20:57:50
+M laboratory @freakscafe

≪伊勢には、再生をもたらす「水の女」であるとともに憑依する皇祖神、アマテラスが祀られていた。謡曲「三輪」では、三輪山の祟り神、皇女と交わり、皇女に死をもたらす男性性そのものを体現する「蛇神」がアマテラスに重ね合わされていた(蛇は脱皮を続けることで永遠性もまた象徴する)。→

2019-11-14 21:01:40
+M laboratory @freakscafe

→アマテラスは永遠の生命であるとともに有限の存在、男であるとともに女、つまりは相反する二つの極を一つに結び合せる両性具有者であった。大嘗祭における天皇もまた、死者の身体を聖なる水で甦らせ、幼子として復活した王とはじめて交わる「水の女」と、→

2019-11-14 21:05:32
+M laboratory @freakscafe

→ 「水の女」に神の子を孕ませる天上の父なる神という二役を果たさなければならなかった。(…) 原初の王は「対」としてしか存在しない。この矛盾を解き明かすこと、あるいはこの矛盾を生きることが折口の古代学であった。≫

2019-11-14 21:07:15
+M laboratory @freakscafe

「二極の一致」、或いは「二元の一元化」がそこにおいて実現される中性的な位相。シャーマンの身体もまた、そのような位相を実現する媒体にほかならない。能や神楽、天皇が執り行う様々な儀式にもまた、「対の構造」を通した「二極の一致」の実現が目指される。

2019-11-14 21:12:50
+M laboratory @freakscafe

≪「神憑り」は、超現実世界を統べる無限の存在(神)を、有限の存在(人間のみならず森羅万象)によって構成される現実の世界に降臨させ、顕現させる。その瞬間、無限と有限、超現実と現実、神と森羅万象は入り混じり、一つに融け合う。「神憑り」によって時間と空間の限定は解かれ、→

2019-11-14 21:17:37
+M laboratory @freakscafe

人間的な自我は粉々に破壊され、「外」の諸力と「内」の諸力が通底する。時間は直線的に流れることをやめ、円環を描く。空間もまた均質であることをやめ、量的には縮約されるが質的には拡大される。すなわち世界は「神憑り」によって更新され、再生する。≫

2019-11-14 21:18:01
+M laboratory @freakscafe

二極を一致させる「対の構造」をめぐって、能がたどり着くべき境地として、世阿弥は「相応」ということを言う。通常では異なった、あるいは二つの極に分かれてしまうような事物や出来事を、舞台、さらに舞い手の身体を通して「相応」(合致)させる。

2019-11-14 21:48:41
+M laboratory @freakscafe

すべての他者をもどき、自らの来し方を実現する、そうして自らが空間的かつ時間的に体験したすべての身体、すべての感覚が「相応」している様(「五体相応の幽姿」)を目にすることができれば、そこに真の「幽玄」が現れる。

2019-11-14 21:51:28
+M laboratory @freakscafe

≪世阿弥は「夢」の舞台で、過去の記憶と現在の知覚を一つに結び合わせる。死者は生者として甦り、現在の女の身体もまた、過去の男の身体と一つに融け合う。両性を具有した、舞踏の原型としての身体が立ち現れる。≫

2019-11-14 21:55:41
+M laboratory @freakscafe

能の身体は、そこにおいて過去も現在も、自己も他者もが相応する、シャーマニスティックな中性的媒体である。 さらに≪世阿弥が確立した両性具有の身体は、禅竹によって、人間的な限定を解除され、人間的な限界を乗り越え、森羅万象に開かれる≫。

2019-11-14 22:05:18
+M laboratory @freakscafe

この中性的媒体をマトリックスとして、各々異なった出来事や物事が相応し、そのことが人々が日常の枠内では処理できない情動、生の異貌の側面、悪霊や怨霊を「鎮魂」する意味をもつことになる。 中性的媒体は、能の身体としてだけでなく、列島の習合を実現する鍵となる装置として、様々に反復する。

2019-11-14 22:12:57
+M laboratory @freakscafe

「如来蔵」もまた、中性的媒体である。 修験者が身にまとう「胞衣」もまた、中性的媒体である。 或いは天皇もまた、中性的媒体である。

2019-11-14 22:16:07
+M laboratory @freakscafe

≪天皇とは、一体何者なのか。『日本書紀』は、こう答えている。天皇とは、自然のもつ霊的な諸力が一つに結晶してなった、ありとあらゆる霊的な存在の「主」として位置づけられるものなのだ、と。神道的でも仏教的でもない、或いは、神道と仏教を一つに習合する、道教的な「王」こそが天皇なのだ。≫

2019-11-14 22:20:24
+M laboratory @freakscafe

さて、「山」もまた、この中性的媒体の時空であった。『日本霊異記』はフィクショナルに役小角の活躍を描いているが、その背景となるのは、人間と森羅万象が一つに交わり合う混交の場所、異種結合を可能にする場所、異形が産出されてくる場所としての修験道の世界像であった。

2019-11-14 22:25:05
+M laboratory @freakscafe

修験道はアニミズムの世界を基盤に、『法華経』に代表される大乗仏教の原理が媒介することで、その体系を確立させた。 ≪アニミスティックな「山」の呪術者は、理論的かつ実践的な「山」の哲学者へと変貌を遂げる。自然の荒々しい愛欲の世界は、『法華経』が体現する「不二」の世界へ再構築≫される。

2019-11-16 21:21:23
+M laboratory @freakscafe

≪大乗仏教の如来蔵の哲学、さらには「法神」「報身」「応神」からなる三身論を積極的に内に取り込み、それを消化吸収することで、修験の教義は完成した。修験は大乗仏教の抽象的な哲学をより具体的に、心身の実践的な哲学として練り上げていく。→

2019-11-16 21:29:47
+M laboratory @freakscafe

→それとともに、「即身成仏」の教えは「始覚」(覚りのはじめ)と位置づけられ、それが「本覚」(真の覚り)である「即身即仏」をへて、「始覚」と「本覚」が一つに結び合わされた「始本不二」の「即身即身」の教え(いまこの身体であるがままで覚りを得ることができる)にまで突き詰められ、→

2019-11-16 21:35:01
+M laboratory @freakscafe

→道教・仏教・神道という相異なった三つの教えが一つに習合することが可能になった。曼荼羅は、極東の列島における習合の原理でもあった。≫

2019-11-16 21:37:11
+M laboratory @freakscafe

異質なものを即否のロジックで繋いでいくためには、媒体としての曼荼羅的な場所が要請される。その曼荼羅的場所とは、修験の行を積んだ身体そのもののことだ。「山」というアニミスティックなフィールドにおいて、自然の多様な魂と相応するための呪術的な身体。

2019-11-16 21:45:55
+M laboratory @freakscafe

大乗仏教の「即」を蝶番にして、色即空、空即色、或いは内即外、…と繋いでいく論理は、そこに中性的な媒体としての場を要請する。その場は、曼荼羅として表象されるが、修験では、さらにその曼荼羅を現実の山の上に象徴的に敷延する。具体的には出羽三山の象徴化である。

2019-11-16 21:54:54
+M laboratory @freakscafe

≪羽黒山、月山、湯殿山。 それぞれの「山」は、現実の「山」であるとともに、光の仏たちがそこを治める超現実の「楽土」でもあった。羽黒山は観音(聖観音)が治める補(普)陀楽浄土、月山は阿弥陀如来が治める極楽浄土、そして湯殿山は法身常住の大日如来が治める密厳浄土なのである。→

2019-11-16 21:58:29