津原泰水@tsuharayasumi より又吉直樹に関する投稿抜粋(『火花』解題は中盤)

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津原泰水(やすみ) @tsuharayasumi

もう一つ。もしこの小説が又吉さん作ではなく、無名の新人作家の作だったとしたら? A:テレビにもポスターにも食傷するほど「天才」の文字が躍ったでしょう。芸人ではなくとも想像で書ける程度に内輪話を抑えてあるから、ありえない仮定ではない。寧ろ外部の人間の方が、ネタで埋め尽くしたと思う。

2016-07-01 01:12:04
津原泰水(やすみ) @tsuharayasumi

芥川賞の選評で高樹のぶ子という人が『火花』終盤について、読んでいないとしか思えない難癖をつけていますが、リアルに読んでいなかったのだと思います。梗概しか読んでねえだろ選考委員の噂は、まあねえ。「世界をひっくり返す言葉で支えられた神谷の魅力」って登場した瞬間からドッキリ反復芸やん。

2016-07-01 01:26:03
津原泰水(やすみ) @tsuharayasumi

ああいう、ほんの書き出しからして読んで来ない人が選考委員として毎回僕の家賃の一年ぶんくらい貰っていて、この僕の作業が無料であるってところに現代日本文学の最大の歪みがあるのではないか? もし読んでるんだとしたら平易な日本語も理解できない訳だから、そっちの方が問題であって。

2016-07-01 01:30:29
津原泰水(やすみ) @tsuharayasumi

もっと大切な事。はたして僕は『火花』を読解して得しているのか?(笑)……正直、衝撃を受けているとか勉強になっているとか嫉妬しているとかは無いです。でも予想していたより愉快だし安堵しているし、少なくとも牛乳になんか入れといたからみたいな呪詛を読んだ時のような徒労感とは無縁です。

2016-07-01 01:54:54
津原泰水(やすみ) @tsuharayasumi

担当編集者がパブリシティのつもりでマスコミに出ちゃったせいで(他担当作家の心情を考えても失策)、又吉さん自力の執筆ではないと信じている読者も多いようですが、そういう意味で「偉い」編集さんというのは滅多に存在しないです。どんなに賢くとも書けない人は永遠に書けないのが小説。

2016-07-01 03:15:19
津原泰水(やすみ) @tsuharayasumi

改稿5回というのも、そんなものかなと。何度も何度も直させられて……という話はプロからもよく聞きますね。下手だからではなく販売戦略に沿うようにであって、文学的クオリティがそう変わるとは思えないです。僕は腫れ物に触るどころか内容については完全放置なので、よく分からないんですが。

2016-07-01 03:29:23
津原泰水(やすみ) @tsuharayasumi

おっさん作家が若い(俺から見れば中学生も不惑も若い)有名人にぶら下がろうとしているように見えてきたかな? この企画は、この世の春を謳歌している作家が世間に感謝するどころか、他人が候補となった事に文句を垂れるという狂気の沙汰に反発して、ガチで読んでやろうじゃねえかというものです。

2016-07-01 10:19:10
津原泰水(やすみ) @tsuharayasumi

俺はね(突然俺ですが)表現を志す者には、もしかしたら生命よりも手厚く保証されねばならない権利があると思ってるの。それは発表権だ。どんな本でも出すがいい。売れるか売れないかは知らん。自分で責任を負え。ただ例外があり、他人の発表権を侵害した奴には、もはや発表権は無いとも思っている。

2016-07-01 10:30:54
津原泰水(やすみ) @tsuharayasumi

ちゃんと経済原理に則って、誰から何を盗むでもなく出版された本なのに、評価の俎上には載せるなだなんてさ、要するに「ここで商売するな」と言ってるわけさ。文学賞なんて全部商売なんだから。それって発表権の侵害じゃないのか? いかにも「読まないで」って悲鳴だと気付いたから、読んでるわけ。

2016-07-01 10:38:02
津原泰水(やすみ) @tsuharayasumi

俺だったら又吉さんや押切さんの作を推そうが貶そうが損も得もない。唯一、ちゃんと小説を読めていなかったら自分が恥をかくだけ。もちろん折角買って読むんだから良い所を見ようとしますよ。期待と違うって放り出すのなんて猿にだって出来るし、読む価値の薄い物にはそもそも正面から言及しない。

2016-07-01 11:29:25
津原泰水(やすみ) @tsuharayasumi

「つまらない物は絶対的に無視する!」っていうのも、相手の動向を観察しながら背中を向けているようで、潔癖症の少女のようで、小父さんの態度としては頂けないから、読んだ人には分かるよう「激烈な三面記事を、写真版にして引き伸ばした様な小説(永日小品/夏目漱石)」程度の扱いが程々かと。

2016-07-01 11:42:43
津原泰水(やすみ) @tsuharayasumi

さっき編集さん(どこのとは云わない)と話したんだけど、文学賞の候補者選び投票も国政選挙と同じで、「無駄票にはしたくない」心理が働くと思うんですよ。当然ながら最近出版された本を網羅している人なんか居ない訳で、「次はこういう流れが来ると嬉しいな」な作家に票が集まるのは避けられない。

2016-07-01 13:55:20
津原泰水(やすみ) @tsuharayasumi

又吉さんにしても押切さんにしても、存在としては派手だけど作風は堅い。オノマトペ炸裂純文学や「泣かない奴は人でなし」大作もいいんだけど、それだけじゃね……という「民意」が働いてんじゃないかと思うな。一所懸命文学する姿を見せてやってくださいよ、みたいな。有名人なら影響力は強いし。

2016-07-01 14:01:26
津原泰水(やすみ) @tsuharayasumi

又吉直樹『火花』、精読しきったとは言い難いが、一応読了としておこう。さて内容に踏み込もうとすると、これがねえ……僕は同書の書評を一つも読んでいないのだが、よく書けたものだというか、えっらい複雑だぞ、これ。まず語り手がボケ、しかも天然ボケであるが故に、「信頼できない語り手」なのだ。

2016-07-02 01:24:58
津原泰水(やすみ) @tsuharayasumi

よって師たる神谷との疑似恋愛を、いちいち夢へと向かう友情物語に変換して語ってしまう。この語者徳永の綺麗ごと体質は、神谷によって「ファンタジー」と看破されている。一方神谷は、医学的に性同一障害かどうかはともかく、徳永への想いに自覚的である。ていうか明らかに一目惚れしとるやんけ。

2016-07-02 01:36:41
津原泰水(やすみ) @tsuharayasumi

同じ「惨めな舞台」仲間とはいえ見ず知らずの、ほぼ少年(二十歳)のために、女言葉で(!)狂気を演じて復讐してやるなんて、「姉ちゃん」の行動に他ならない。この登場場面を読み違えると、最後まで誤読が続く。交流が出来てからの神谷からの電話も、いつも裏返り声の「どこいてんの?」だ。

2016-07-02 01:43:30
津原泰水(やすみ) @tsuharayasumi

心配性の保護者(姉ちゃん)以外の何だというのだ? 神谷は徳永にいつか自分の伝記を記すよう頼んでいる。これまた女性的というか「私を憶えておいて」 だし、幼い徳永の実の姉とのいじらしい交流を聞いて洟を啜る。どうも何度も聞かせろとせがんでいる気配がある。これでもかと「女性」である。

2016-07-02 01:51:39
津原泰水(やすみ) @tsuharayasumi

神谷を「姉ちゃん」としたのは、貧しくて紙の鍵盤でしか練習を出来ず、教室でエレクトーンの電源を入れられなかった徳永の実の姉と、神谷は、ほぼ相似形の存在だからだ。紙のピアノを叩き続ける少女の狂気と、奇矯なルールを敷いてはそこここに新しい世界を現出させようとする神谷の狂気は、同質だ。

2016-07-02 02:03:41
津原泰水(やすみ) @tsuharayasumi

実はここからが大きな問題なんだが、なぜ神谷は実の姉よろしく語り手徳永に執着するのか。惚れているから? なぜ惚れた。タイプだったから? まあ不快なタイプではなかったろうが、これまたよく読むと各所にヒントが置いてあり、どうやら作中最も才能に満ちた人間は、徳永なのだ。

2016-07-02 02:24:43
津原泰水(やすみ) @tsuharayasumi

少なくとも神谷はそう信じている。神谷理論によれば自分が(真の)漫才師である事にすら気付かず、野菜を売っているような奴こそ本物のボケなのだ。徳永はどうもそれに合致しそうだ、という予感が『火花』の伏流水であり、実際、終盤で合致してしまう。そして零落していた神谷は勝負に出るが……。

2016-07-02 02:32:50
津原泰水(やすみ) @tsuharayasumi

どのていど共感を得られる「読み」かは想像がつかないが、天才論に終始しているかのようなこの小説で、真の天才は最も意外な人物であるというトリックを、又吉直樹という人物が読者に仕掛けるか否かといったら、僕はやると思う。とろくて感傷的な語り手が、しかし「新ネタなどは毎日でも作れる」し。

2016-07-02 02:47:22
津原泰水(やすみ) @tsuharayasumi

神谷=姉ちゃん論の傍証は無数にも挙げられるのだが、当然のごとく取り沙汰されがちなラストの手術の意味を、徳永の擁護者としての神谷の「完成」であると僕は見る。まあ本人がそう思っているだけだが。彼らは翌日漫才をやる。神谷がその気で「漫才は二人でやるもの」で、相手は徳永しか居ない。

2016-07-02 02:58:49
津原泰水(やすみ) @tsuharayasumi

ところが徳永は、相方が自分である事に気付いていない。神谷の「漫才作る」の真意を汲み取り損ねている。翌日には「お前、何やっとんねん」と舞台に引っ張りあげられるのだ。真のボケである。さて真樹という女性は何だったのか? 書けるが今のところは遠慮しておく。「世界で一番幸せな」少年とは?

2016-07-02 03:09:42
津原泰水(やすみ) @tsuharayasumi

『花火』についてはまた徒然に語るが、おまけとして人物のネーミングについて。「徳永」は貧しい生まれ育ちを跳ね除けそうな縁起の良い苗字。「神谷」は文字通り漫才の神様を暗示しているのだろう。ただし神山ではなく、やや貧乏神くさい。「鹿谷」というのも出てくる。同じ谷に棲む神獣であろう。

2016-07-02 03:27:00
津原泰水(やすみ) @tsuharayasumi

改めて『火花』の選評を読む。小川洋子が「『火花』の成功は、神谷ではなく、“僕”を見事に描き出した点にある」と比較的僕に近い事を記しているが、明治文学張りの記号性の横溢への言及はどこにも無い。堀江敏幸は相変わらず意味不明。難癖だと思われては困るので、次のツイートに引用しておく。

2016-07-02 03:54:37