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「羊でも馬でも乳を使った料理ならこいつが凄い!悍馬の草原の純料り手オユンだー!!!」 裘(かわごろも)をまとう頬の赤いぽっちゃりした女性(にょしょう)が手を掲げる。
2019-11-27 22:27:39「料理は酒が進んでなんぼ!飲めば健やかになるに決まってる!寒し野の酔いどれ麺麭焼きイリヤだ!!!!」 金の髪に髭、白い肌に青い瞳の痩せた壮年の男がすでに一杯きこしめしたようすで挨拶する。
2019-11-27 22:31:30「暑き香料の地の技も天子の国の技もともに超える中継ぎの地の奥義を見よ!樟脳の島からラプラだ!!」 きりっとした商人風の装いの青年がうやうやしく味見役と天子の名代に礼を捧げる。
2019-11-27 22:36:26「大餐庁からはこの子!前回大会から背は伸びちゃったけど、KAWAII未だ健在、オオタテくんちゃんの愛息子!!コサジだー!!!」 ほっそりした、どこか乙女のようなやわらかな曲線を持つ若者ができる限り雄々しげな面持ちで薄い胸を張る。紹介のされ方が不本意なのか、口元は不満を引き結ばれている。
2019-11-27 22:38:49「大餐庁からいまひとり…えーと…ダウバ君…?はるか西方から来てくれた期待の新人だー!!!」 浅黒い肌のずんぐりむっくりした大柄な若者がきょろきょろと面白そうに客席を埋め尽くす群衆を眺めている。
2019-11-27 22:40:44「人参料理のさらに先へ…生薬の半島から古豪カムエ…は事情によりまだ到着しておりません」 司会が紹介しようとした料り手が不在でも会場はまた大盛り上がり。もう何でもいいらしい。
2019-11-27 22:43:46気を取り直して最後の一人へと。 「味比べの王者よ永遠なれッ 今回も絶技をみせてくれッ 我等の女王ッッ 俺達はいつもあなたを待っているッッッ謎の料姫の登場だ――――――――ッ」
2019-11-27 22:46:04「イヤアアアアアア!!!!!」 大餐庁の最も高い塔の瓦屋根から、飛鳥のごとく降り来る影あり。 彩り鮮やかな紙の仮面をかぶった絹衣の麗人。 ただ一度の不戦敗を除き、常勝を誇る最強の料り手、謎の料姫だ。
2019-11-27 22:48:07怒号にも似た歓声が会場を揺さぶる。 「あれ?オボロさだべ?オボロさ!オラだ!ダウバだ!」 だが周りをあまり気にしない影の国の仔がぶんぶんと太腕を振ると、謎の料姫はしなやかな手を振り返そうとしかけてからおろし、そっぽを向いた。 「…こたびは美童もなし…我が勝利…動かぬ」
2019-11-27 22:50:26「オボロさ?オボロさ?オラだー!…んー、おっがぁ!おかあさま!」 反応をもらえないダウバは一生懸命に呼び方を変えてまた声をかける。 「こふっ…」 烈婦はむせる。いや吐血したのだ。 謎の料姫。荼枳尼女神の呼吸法を究め、茶の湯と料理と武芸すべてが至純の域に入る達人よ。まさかここで。
2019-11-27 22:53:16「なに…お前が謎の料姫の子供だというのかダウバ!ならば…ますます俺の子を産ませたい!必ず嫁にしてやる!」 かたわらでコサジがいきりたつ。
2019-11-27 22:54:38仮面の料り手はゆっくりと振り返り、天と竜の子を眺めやった。 「ふ…オオタテとツルギの子…すでに…育ったか…同じ手は二度は通じぬ…」 紙の貌の奥で笑みを作る。 「また子の話だか?」 「ああ!俺達の息子を、謎の料姫の膝に載せてもらう日が楽しみだ!料理の弟子としてもらうのだ!」
2019-11-27 22:57:21謎の料姫は、まるで暑き香料の地の恐怖の大王の全力の掌打を胸に受けたかのようにふらつき、たたらを踏んだ。 「…こ…これは…」 まさか。 かような絡め手から。
2019-11-27 22:58:53最強の料り手はゆっくりと、まるでそこだけ時の流れが遅れたかのようにゆっくりと、膝をつき、仮面の奥からぽたぽたと血の雫を垂らして倒れ伏した。 「何とおおおおおおお!!!ここへ来てまさか!!あの運命の大会の再現が!!!!謎の料姫がまさかの退場おおおおおお!!!!!!」
2019-11-27 23:01:17何と言うことだ。 ダウバが世界一の料り手となるべき乗り越えるべき最大の壁。 天下に並ぶものなき料理の泰斗が、よもや、またしても、ああまたしても戦わずして敗れるなどとは。 これが運命の皮肉か。 おお、大いなるものよ寝ているのですか。そのまま寝ていて下さい。
2019-11-27 23:03:14「さて…不幸な事故はありましたが大会は進行せねばなりません…それでは各料り手とも準備を…」 だが波乱はまだ終わりではない。 会場の外から人々の悲鳴と叫喚が聞こえてくる。 「竜だ!竜が暴れている!」 「生きた竜が人を食いながらこちらへ来るぞ!」
2019-11-27 23:05:33竜と聞いて戦慄する会場内の面々。この国ではまだ古き長虫の災いは縁遠きものではないのだ。 「さすがに味比べちゅうのはにぎやかだべ」 独りのほほんとしているダウバ。未来の花嫁を庇うように立つコサジ。 癒し手によって血だまりから引き上げられ、運ばれてゆく謎の料姫。
2019-11-27 23:08:54果たして天下一の料り手の栄冠は誰に輝くのか。そもそも大会は続行可能なのか。というか世界はちゃんと滅びず残るのか。 風雲急を告げる味比べのゆくえはいかに。
2019-11-27 23:10:50次回「ダウバの世界まるかじり」シリーズは 「我等はこの…とってもおいしい芋を食べながら宙(そら)との交信を続けているのです」 乞うご期待!
2019-11-27 23:11:42次の話
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