エルフの女奴隷を代々受け継ぐ家系の話( #えるどれ )~6世代目・その5~

ピラミッドパワーを俺は信じてる ハッシュタグは「#えるどれ」。適宜トールキンネタトークにでもどうぞ。
7
前へ 1 2 3 ・・ 7 次へ
帽子男 @alkali_acid

「…そ、そうか…じゃあすぐに村がたいへんなことには」 "とっておくのであれば、必ずや選りすぐりの美酒ばかりであろ。麿はその酒の飲みたくなったでおじゃる" 「はえ?」 "塚人どもを、きれいさっぱり灰にして、酒はすべて麿が飲むでおじゃる。さ、案内いたせ"

2019-12-05 22:58:54
帽子男 @alkali_acid

「死の諸王と戦うって!?魔神様がいくら強くたって」 "案内せぬつもりかの?" 「だ、だって…おいら達はただの墓荒ら…いや…人間で」 "案内せぬなら…世界を滅ぼすでおじゃる" 天地乾坤の揺らぎが再開する。 「わ!!わわわっわ!わ!!わあ!!!する!するからああ!」

2019-12-05 23:00:43
帽子男 @alkali_acid

"では運ぶでおじゃる" 「重そうだけど…一味皆で運べば…あれ?親分?」 いつの間にか場にはトゥトゥしか残っていなかった。 「え…うそ…」 "はよう運んでたも" 「なんで?!どうして!?」

2019-12-05 23:02:13
帽子男 @alkali_acid

酒をきこしめして敖閃の機嫌がよくなっているうちに、金縛りが解けた大人はことごとく遁走していたのだ。 「ちくしょお!おいらも逃げればよかった…」 少年は言いさしてから歯噛みする。もちろん仲間は囮として最年少のちびを置いていったのだ。

2019-12-05 23:04:12
帽子男 @alkali_acid

「おいらひとりじゃ運べねえよ…あの、いったん村へ戻って誰か」 "ダウバは独りで担いだでおじゃる" 「できっこねえよ!?いや、おいらは魔神の仲間じゃねえし…」 "では押すでおじゃる" 「押したって…」

2019-12-05 23:06:22
帽子男 @alkali_acid

とはいえあまり逆らってまたへそを曲げられたらおしまいだ。 男児は仕方なく鋼鉄の大器に近づいて小さな手で押してみる。するとまるで重さがないかのようにゆっくりと転がり始め、擂鉢のような大穴の傾斜を登ってゆく。 「うわ…なんだこれ…」 "おっほっほ。はようはよう"

2019-12-05 23:08:08
帽子男 @alkali_acid

トゥトゥは巨釜を押して転がしながら、ゆくてで待つ脅威を考え身震いする。 「何でおいらがこんな目に」 幾度も危うきを躱してきた少年の天稟もとうとう覆せぬ災いに出くわしてしまったようだった。 "おっほっほ、名前を聞いておくでおじゃる" 「トゥトゥって言うんだ」 "おっほっほ"

2019-12-05 23:10:03
帽子男 @alkali_acid

"そちは今日から麿の料り手でおじゃる。ダウバが泣いて悔しがるような達人になるでおじゃる" 「さっきから言うダウバって誰…?」 "誰でもよいでおじゃる。麿はもうあやつのことなど知らぬからの" 「う、うん?」

2019-12-05 23:11:32
帽子男 @alkali_acid

とまあこのように敖閃は新たな小姓というか稚児というか、弟子というか、まあ従者のナンパに成功していた。まさに年の功、というところか。 さてくだんのダウバはどうなったかというと。

2019-12-05 23:12:56
帽子男 @alkali_acid

視点をぐぐっと地下へずらしてみよう。 四角錐の墳墓は地上から天を差してあまた並んでいると同じように、いやもっと多く地下に並んでいる。ただし逆さ向きで。 深い階層へ降りるほど狭くなる巨大な岩の建造物が、沙漠と河畔の沃土のあいだの細長い土地にずらりと並んで埋もれているのだ。

2019-12-05 23:16:00
帽子男 @alkali_acid

互いに無数の隧道でつながっている。 のみならず間には巨大の空洞もあれば、露出した水脈もある。 外界は昼のうち焦熱にあえいでいても、岩盤の内側に広がる街はいつも程よい涼しに保たれている。 まるで世界の北西に暮らすドワーフ族が山の下に掘り上げる岩の館のよう。

2019-12-05 23:19:19
帽子男 @alkali_acid

いやある意味では鍛冶と細工に長けた小人よりもさらに進んだ作りではある。 例えば死者の都の闇の奥には麦畑がある。ドワーフでさえ糧を得るためには地下だけに暮らす訳にはゆかず、峰々の雪解け水が流れ込む盆地に牧を設けねばならなかったのに。

2019-12-05 23:21:36
帽子男 @alkali_acid

奇妙な荘園が広がる洞窟には、日の光は届かぬかわり、天井と接しそうな高さに並んだ壁龕に幾つもの松明が据えてあり、煌々と穂並を照らしている。 だが、どうしてか灯(ともしび)は消えず、烟(けむり)は閉じた窖(あなぐら)に盈(み)ちあふれようとはしない。

2019-12-05 23:27:00
帽子男 @alkali_acid

水脈から引いた流れが巡って土を潤している。 さらに隣には葡萄棚もあれば、蜂の巣箱もある。果樹の林も。 収穫から酒を醸すための大桶もあれば、詰めておくための甕もある。

2019-12-05 23:30:49
帽子男 @alkali_acid

保存してある酒は純粋な葡萄酒に林檎酒、米酒、麦酒、黍酒、蜜酒から、果実を漬け込んだもの、薬草を漬け込んだもの、蛇や鰐などを丸のまま入れたものもある。 さらには、とほうもない量の酒で満たした槽(おけ)、あるいは溜池もある。

2019-12-05 23:35:02
帽子男 @alkali_acid

今まさに酒池(しゅち)の一つに、よく洗い清められた躯(むくろ)が一つ沈められたようとした。 暗い膚に尖り耳、ところどころに黒鱗の散る絶世の美貌。 黒の料り手、巨釜担ぎ、影の国の世継ぎたる青年。

2019-12-05 23:36:18
帽子男 @alkali_acid

「人間に見えるけども、濃い竜の匂いがするっぺ」 「精霊の匂いもするっぺ」 「妖精の匂いもするっぺ」 「どっちにしろ漬ければ霊気が沁みて良い酒になるっぺ」 囁きかわしつつ、異様な醸造の作業を進めているのはむろん、定命のものならず。全身に隙間なく包帯を巻いた、動く亡者。塚人だ。

2019-12-05 23:39:55
帽子男 @alkali_acid

しかも一人ではない。数え切れないほど多くの塚人だ。

2019-12-05 23:43:03
帽子男 @alkali_acid

「死んではねえだろな?死んだもんを漬けてはいい酒にならねっぺ」 「あれは仮死。北の寒い地で蛇とかがやる冬眠ってやつだっぺ」 「竜は疲れ切ったり、周りがあまりに過ごしにくくなれば、ああなるっぺ。世界の眠りを乗り切ったのもあのようにしてだっぺ」 「だっぺか」

2019-12-05 23:43:32
帽子男 @alkali_acid

闇色をした絶世の美貌が、血のように赤い葡萄酒の槽に静かに沈んでゆくのを、命なき杜氏は注意深く見守る。 「はあ生きた竜を酒に漬ければ、墳墓の下に永久(とこしえ)を過ごすワスら塚人にとってもいい寝床の伴になるっぺ。恨まんでほしいっぺ」 「だっぺなあ…それどころか今度の酒は…」

2019-12-05 23:45:40
帽子男 @alkali_acid

「高望みはだめだっぺ。期待しすぎるとあとでがっくりくるっぺ。塚人として永久を過ごすこつは、何事も過ぎ去るという気構えだっぺ」 「いやいや、でももしかしたら今度こそできあがるかもしれねっぺ…蘇生の美酒が…」 「だーから盛り上げすぎるのがいけねっぺ。可能性あるとしたらあっちだっぺ?」

2019-12-05 23:49:18
帽子男 @alkali_acid

塚人のひとりが指さすと、別の槽にねじれのたうつ根っこが漬け込まれようとしていた。 「あ、また…」 「ポピポプププペポ」 奇声を発しながら魔草は、動く亡者の一体をからめとり、何かを吸い尽くしてばらばらの残骸にしてしまう。 「こら手強いっぺよ」 蓋骨だけになった杜氏が嘆きつつ転がる。

2019-12-05 23:52:00
帽子男 @alkali_acid

だがどうにか、ほかの塚人が協力し、さまざまな薬草を漬け込んだ蜜酒の中に喚く根っこを浸し入れた。 「ここ千年ほどかけて漬け込んだあの万薬の酒、養命酒ならば、きっとうまくゆくっぺ」 「死者の復活…再生の秘義…我等の女王の目覚めが…」

2019-12-05 23:54:39
帽子男 @alkali_acid

さて「ダウバの世界丸かじり」シリーズ、 次回は「よろしくダウバさん。僕は、そうですね。ムンムンとか、リトリトとか呼ばれていますが、お好きなように」 乞うご期待!

2019-12-05 23:58:05
帽子男 @alkali_acid

◆◆◆◆ これまで の あらすじ ピラミッド の した では ミイラが うごめき 人間(にんげん) を ひきずり こんで いきたまま 酒(さけ) に つけて のもう としていた

2019-12-06 21:16:30
前へ 1 2 3 ・・ 7 次へ