評論集『探偵が推理を殺す』ってなあに?
- longfish801
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この作品は「共同体を再生する名探偵」ではなく、その裏返しを描いている。結論でも『火曜新聞クラブ』や相沢沙呼『medium』を挙げていますが、平成後半が実存主義的な「弱い」探偵像が模索されたのに対し、令和には大状況と対等に渡りあえる「強い」名探偵が現れるのでは、と想像しています。
2019-12-26 20:09:31というと正義のヒーローみたいですが、むしろ悪辣なことにも手を染めかねない自由なタイプ。探偵役/犯人の境界が崩れ、いっそ犯人や共犯者が活躍したり、異なる探偵哲学のキャラクターが入り乱れるファンタジーみたいな話が盛んになったりしないかなと。また十年後に答え合わせをしましょう。
2019-12-26 20:10:28ひとつ補足。X論争以降の本格ミステリにどこか切断線を入れるべきではという話は『CRITICA』第12号所収の「新本格三十周年ふりかえり座談会」で話題となり、今回ようやく宿題を片づけたわけです。このとき川井賢二さんが、新本格はメタを重ねてきたという発言をされています(37頁)。
2019-12-26 20:11:31その発言に私は違和感を覚えたのですが、うまく言葉にできませんでした。それが結論での、平成後半はメタではなくアレンジだったのではという文章に結実しました。アレンジをキーワードに状況論をもう一本書こうかとも思いましたが、そんなことをしていてはいつまでも完成しないと断念しました。
2019-12-26 20:12:08というわけで、きっとアレンジに着眼した状況論は蔓葉さんが書いてくれるでしょう(?)。今宵はここまで。ツイート連投お邪魔しました!
2019-12-26 20:12:35どんな方に読んでほしいか
さあ今夜も評論集『探偵が推理を殺す』 bit.ly/2EP2hcf を語るぜ! 明日が発売日なので、連投ツイートは今日と明日で終わりにしますね。基本に立ち返って、本書の特徴とか、どういう人に読んでほしいか紹介したいと思います。
2019-12-27 20:16:32この評論集では実に平成後期の国内本格ミステリ作品、二十作品余りについてネタバレしており、そのくどくどしい粗筋紹介は実にオタクっぽくマニアックすぎ……ちょっと待って。なし。これ、無し。
2019-12-27 20:16:56序論にも書いていますが、この本は知的営みの豊かさを伝えたいという目論見があります。謎と出会い、悩み苦しみながら解いていく。それは自動販売機のボタンを押せば望むものが手に入るような無味乾燥なものではない。人とどう意思疎通するか、どう生きるか、世界とどう向き合うかが関わってくる。
2019-12-27 20:17:24すると「わかるけど、でもそれは文学の側の話でしょう?」と答える方もいるでしょう。それこそ、この本が否定したい意見です。謎解き行為の豊かさを示すべく、乱読で得た知識や逸話を節操なくぶち込んでます。列挙すれば、ミルグラムの電気ショック実験、カルネアデスの舟板、トロッコ問題、疾病否認、
2019-12-27 20:17:57シンパシー/エンパシー、ハック、サヴァン症候群、P≠NP問題、記憶能力者シィー、認知的不協和、数覚、モンティ・ホール問題、暴力の哲学、表現の自由……つまりですね、堅苦しいだけでなく、知的好奇心を満足させる読み物としての面白さにも配慮してますので、気楽に読んでみてねと。
2019-12-27 20:18:32あと、これからミステリ小説を創作したいという方々にも向いていると思います。自分は本格ミステリを知らないと自信がない人がいるかもしれません。でも、それは「自分は本格ミステリとはこういうものだと思っているが、そんな難しいものは書けない」という悩みではないですか?
2019-12-27 20:19:25本当は、間違っているのはあなたの中にある「理想的な本格ミステリ像」のほうかもしれない。本格ミステリはもっと広くて、いろんな人の価値観を丸ごと呑みこむものなんですよ。そんな硬直した、あなたの創作意欲を縛るイメージなんて捨てたほうがいい。この本を読むとそういうことがわかると思います。
2019-12-27 20:20:06あと若手ミステリ評論家にも、ぜひ読んでいただきたいですね。「一度に複数の作品をネタバレすると読める人が減るよな」とか「造語すると厨二病っぽくなるな、気をつけよう」とか「粗筋紹介くどい」とか「いくらなんでも引用が多すぎるだろう」とか……ええ、それはもう、立派な反面教師として……。
2019-12-27 20:20:50いいんだよ、俺は引用が大好きなんだよ! いや、そこはどうでも良くて。本書をまとめる作業をしていて、評論業界はいろんなことを論じてきたんだなあとしみじみ思いました。セカイ系、決断主義、ゲーム的リアリズム、セミ・ラティス型、アーキテクチャの生態系、これからの「正義」の話をしよう、
2019-12-27 20:21:31検索型ミステリ、ポストヒューマン、伊藤計劃以後、ゴーストの条件、残念の思想、ソーシャル化……特に限界研のみなさまには洞察のヒントとなるような知的刺激をたびたび頂き、本当にありがとうございました。ミステリ評論のほうも、いろいろありました。大戦間探偵小説論、後期クイーン問題、
2019-12-27 20:22:19ギリシア棺論争、論理の蜘蛛の巣の中で、現代本格ミステリの研究、検索型ミステリ、タテの論理とヨコの論理……そしてX論争。というわけで、平成後半のさまざまな評論/ミステリ評論に触れていますので、網羅的ではないものの参考にはなるかと。今宵はここまで、ツイート連投お邪魔しました!
2019-12-27 20:23:14市川憂人先生が冬コミに参加! 12/29(日) 西B-54b「Anonymous Bookstore」です! 新刊もあるそうですよ! あと『神とさざなみの密室』絶賛販売中!
2019-12-27 20:34:04本書成立の経緯
ミステリ評論集『探偵が推理を殺す』を刊行しました。平成後期の国内本格ミステリの動向を総括し、令和本格の進むべき道を探ります。販促ページ: bit.ly/2EP2hcf 内容紹介まとめ:togetter.com/li/1447494
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