評論集『探偵が推理を殺す』ってなあに?
- longfish801
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発売日を迎え、固定ツイートの準備もできたところで、それでは評論集『探偵が推理を殺す』について最後の紹介をさせていただきます。本書が成立するに至った経緯や思い出を簡単に語るとしましょう。
2019-12-28 19:02:49序論の冒頭にも書いていますが、本書は多くの方々の考えを拝聴拝借させていただいており、あまり胸を張って「俺の発見だ!」と言えるところがありません。肝心の蓋然性/整合性の論理も、法月綸太郎さんはそれをエラリー・クイーン作品から見出しています。正確なところは本書の表題作を読んでね。
2019-12-28 19:03:35冒頭の引用をさせていただいた小森収『本の窓から』は泡坂妻夫「煙の殺意」について“論証には必要十分条件が必要でも、人の行動を促すには十分条件だけでいい”(153頁)と記しています。推理とは完全無欠(蓋然性の推理)だけでなくリスク回避(整合性の推理)という形もあるという指摘です。
2019-12-28 19:04:26ちなみに、言わずもがなですが小森収さんは今年『短編ミステリの二百年 1』(創元推理文庫)の編者をされた方です。蓋然性/整合性の論理はとりたてて目新しいもの、急に始まったものではありません。私個人はというと、遅くとも十六年前、2003年頃には考えて始めていたようです。
2019-12-28 19:05:13二階堂黎人が編集長を務める『新・本格推理04』に採用いただいた「カントールの楽園で」という短編があるのですが、そこで登場人物たちは仮説検討に論理性、蓋然性、単純性の三つが必要だという議論をします(419頁)。このうち「単純性」を、後に「整合性」に置き換えました。
2019-12-28 19:06:22別に一人で考えていたわけでなく、この頃は MYSCONで深夜に本格の定義論があったり、市川憂人さんの「推理小説のエッセンス」とか MAQさんの「一千億の理想郷」 bit.ly/364pe7j とか。あの頃の熱い議論がこういう形になったのかと思うと感慨深いですね。
2019-12-28 19:07:27ギリシア棺論争のまとめ(2011年)でも、まだ考察で「単純性」を使ってますね。 bit.ly/2MzweRT 2009年に探偵小説研究会に入会し、機関誌『CRITICA』向けの文章を書いているときも、漠然と蓋然性/整合性という構図は意識していました。
2019-12-28 19:08:102017年の終わりに探偵小説研究会を退会し、連作短編『名探偵は、性別不明。』をカクヨムで公開して、さて次はなにをすべきかと頭を捻ったときに「いまやらないと、内容を忘れてしまうな」と本書にとりかかりました。初めは、ちょろっとあとがきだけつければいいと思ってたんですけどねえ……。
2019-12-28 19:09:07結果として、書き下ろしの序論と結論は合わせて原稿用紙で百六十枚くらいにふくらみました……。池袋のミステリー文学資料館に通ったのは良い思い出です。初めは「綾辻行人の世界展」が目当てだったんですが、論創ミステリ叢書とか全部揃っていて調べ物がしやすい。閉館が惜しまれる場所でした。
2019-12-28 19:09:57序論で本格ミステリの歴史を説明していますが、ダイジェストとはいえ人様の本を読むのと自分で調べて書くのとは大違い。文章を綴りながら、新本格ムーブメントの作品を愉しみながらも本格をよくわかっていなかった若い頃の自分に語りかけているような気持ちになりました。
2019-12-28 19:10:44さて、語ることも尽きたので、最後に本書から「俺の考えた最強に厨二病っぽい文章」をいくつか引用して終わりとします。評論を書く愉しみの八割は、正々堂々とかっこいい文章を書けることにあるのです(真顔)。
2019-12-28 19:11:51“だがこの作者は、そのような恣意的結末を許さなかった。湯川に探偵役としての責務を貫かせ、倫理と道徳の秤がその動きを止めるまで、一度たりとも神の指先を近づけようとはしなかった。”――「虚ろの騎士と状況の檻」
2019-12-28 19:13:10“信念は人を賦活し、狂気は人を醜くする。観念は人を孤独にし、理性は人を弱者にする。だが、弱者にならなければ弱者の武器は使えない。”――「目覚めのための子守歌」
2019-12-28 19:15:25“現代の国内ミステリは、手に取りやすいカジュアルな作品が求められるあまり、難解すぎる本格ミステリは受け容れられない冬の時代なのかもしれない。だからといって、読者に受け容れられるものを創ろうとすることを、想像力を放棄することの言い訳にはできない。”――「本格とカジュアルとの距離」
2019-12-28 19:17:16