『ウェーイwオタクくん観てる~?w』

俺の、雄姿をさ……へへ……
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賽骰だいす@甘味を要求する @Saikoroid

@moi_deco 唇を噛みしめ、手元のパッドを操作する。簡単な作業だ。彼とキスするときなんかよりよっぽど平坦な気持ちで操作できる。実のところそれは正しく、男はヒーローとして戦場を支配した。遠浅の海が引くかのように敵の軍勢が目に見えて下がる。 「さあ、地獄を始めるぞ」 冷たく、冷徹な声

2020-01-09 16:22:29
賽骰だいす@甘味を要求する @Saikoroid

@moi_deco ワンサイドゲームが始まる。先陣に躍り出た男の機体が腕を薙ぐたびに敵は木の葉のごとく散り、敵の戦意を削ぐ。 鎧袖一触。 男の脳裏に、昔ゲームでよく見た四字熟語が閃く。戦いを好む質ではないにしろ、戦いの高揚は男の精神を大きく変質させる。

2020-01-09 16:27:04
🐻‍❄️でこのひと🐻‍❄️🔞 @moi_deco

@Saikoroid 「失せろ!ゴミ共が」そう叫んだ男とは場違いなほどに軽い音を立ててスティックが鳴る。それに呼応するように、荒れた大地を鋼鉄の巨人が駆けた。2つのスティックと4つのボタンで動く機械仕掛けが人類最後の砦だなんてお笑いだ。数年やり込んだゲームと同じ操作の兵器が、異星の化け物を蹂躙していた。

2020-01-09 16:31:49
賽骰だいす@甘味を要求する @Saikoroid

@moi_deco 「死、ねええぇぇぇえええぇぇぇっ!!」 喉を涸らして叫ぶ。男の駆る機械仕掛けが一際大柄な化け物の首を折ると二つのトーンの大音声がコクピットのスピーカーを通して聴こえてくる。かたや化け物たちの狼狽の悲鳴、かたや、人間たちの歓声と鬨の声。

2020-01-09 16:38:06
🐻‍❄️でこのひと🐻‍❄️🔞 @moi_deco

@Saikoroid 『…やったな、ヒーロー』ざらついた通信音声で、彼がそう言った。戦いの熾火が下っ腹の辺りでくすぶっていた。「帰投したら一緒に…」衝動的に男はそこまで言って、それから口をつぐんだ。彼の声からは疲労が滲んでいた。神経接続型の最新機は乗るだけで脳に過負荷が掛かる。

2020-01-09 16:55:10
賽骰だいす@甘味を要求する @Saikoroid

@moi_deco 「メ、シでも。どう?」 ねばつく口をなんとか動かしてそう通信を返した。過負荷のかかった脳を戻すには休息しかない。この残り火は潔くここで消してしまうべきなんだ、と自分に言い聞かせる。

2020-01-09 16:59:47
🐻‍❄️でこのひと🐻‍❄️🔞 @moi_deco

@Saikoroid 男は通信をすべて遮断したのを確認して下肢に手を伸ばした。汗塗れの貧相な一物が湯気を上げてこぼれ出る。片手間に再生するのは日付が201x年の古い動画ファイルだ。『ウェーイwオタクくん観てる~?w』いつもの軽薄なテンションで始まる映像には、若かりし頃の彼と酩酊した彼女が映っている。

2020-01-09 17:12:29
賽骰だいす@甘味を要求する @Saikoroid

@moi_deco 動画ファイルなのだから擦り切れるなんてことはないはずなのに、その動画には微かにノイズが走っている。 男は「彼」と「彼女」の営みを見て右手を動かす。ルーティーンであったとしても、甘美な感触が下半身の熾火に取って代わる。

2020-01-09 17:16:21
🐻‍❄️でこのひと🐻‍❄️🔞 @moi_deco

@Saikoroid 昔の自分だったら彼女の方を見ていただろうか。だが今自分が釘付けになっているのは彼の姿だった。定点カメラからは意外と形の良い尻と、きゅっと締まった穴、案外毛深い玉が見て取れる。まるで見せつけるように腰を振る彼を観て、倒錯した興奮と背徳感が行き場のない熱を絞り出していく。

2020-01-09 17:33:54
賽骰だいす@甘味を要求する @Saikoroid

@moi_deco 熱い雫を放つと同時に脳は急速に冷めてゆく。だが、それでも目は彼の画面の中の背中と尻を追っていた。 キスを許してもらえているだけでありがたいと思え、お前はみんなからの希望を集めているんだぞ、ともう一人の自分がささやいた気がした。

2020-01-09 17:45:18
🐻‍❄️でこのひと🐻‍❄️🔞 @moi_deco

ムーンライトノベルスなら第1話完 ってかんじ

2020-01-09 17:56:32

🐻‍❄️でこのひと🐻‍❄️🔞 @moi_deco

「オタクくんアレやってよww」清潔な白いシーツに横たわった彼は、青白い顔でそういった。男は言われるがままに彼を後ろから抱きすくめる。彼の肩口から、もう何年も付けてないはずの香水の幻影が香った。ゴクリとつばを飲み下して、だが今はその時ではないと頭を振った。

2020-01-12 02:07:35
🐻‍❄️でこのひと🐻‍❄️🔞 @moi_deco

彼の"無いほう"の腕の代わりに自分の腕を差し出す。真っすぐ伸ばしてピタリと密着させれば、体温で温まったジョイントの金属が人肌とは違う温かさを伝える。彼もまた残っている方の腕を伸ばして拳を握った。男もそれに習う。グー、パー、グー、パー。繰り返される単調な動きをシンクロさせていく。

2020-01-12 02:07:44
🐻‍❄️でこのひと🐻‍❄️🔞 @moi_deco

俺は今、彼の腕だ。あらゆる物資が不足し、鏡なんて小さな手鏡ぐらいしか手に入らないこの世界で、彼の痛みを取り除くにはこうするのが普通だった。こわばった筋肉の緊張が、タンクトップ越しに伝わってくる。なんと声を掛ければいいのか解らなくて、男は黙ったまま腰に回した手で入院着の裾を握った。

2020-01-12 02:08:03
🐻‍❄️でこのひと🐻‍❄️🔞 @moi_deco

「っ……っは、ありがとw」彼は感謝を述べると、ふぅと息をついて腕を降ろした。額には脂汗が滲んでいるが、顔色は先程よりマシだった。いわゆる幻肢痛だ。機械義手は先の大規模戦闘のときに稼働不良を起こしてメンテナンスに出ている。そのせいで、この数日幻肢痛がぶり返していたのだ。

2020-01-12 02:08:13
🐻‍❄️でこのひと🐻‍❄️🔞 @moi_deco

戦況は小康状態を保っていた。侵略者共は先の大規模戦闘で痛手を負ったのか、小規模な逆テラフォーミング部隊を送り込んでくるのみで、戦闘力は大したことがなかった。そのため緊急警戒で男が駆り出されることもなく、結果的に安穏とした日々を送っていたのだ。

2020-01-12 02:08:22
🐻‍❄️でこのひと🐻‍❄️🔞 @moi_deco

「明日になれば整備班から戻ってくるはずだ。アンタの主治医が、そういっていた」先程窓口で聞いた伝言を伝えれば、彼はいつものようにヘラヘラと笑って応えた。何でこんなにまでなっても、そんなに屈託なく笑えるんだ。男は彼の強さに歯がゆさを覚えて、ぎりと奥歯を噛んだ。

2020-01-12 02:08:30
🐻‍❄️でこのひと🐻‍❄️🔞 @moi_deco

守りたいのに、彼は率先して死地に飛び込む。そんな身体で無茶をしないでくれと言いたいのに、彼はこんな時代だからこそ死にかけが道を拓いたほうが良いと思っている。「オタクくんw怖い顔すんなよww」彼は、男前が台無しだぜ?wと続けて、それから男の眉間を指で弾いた。

2020-01-12 02:08:43
🐻‍❄️でこのひと🐻‍❄️🔞 @moi_deco

「俺ならダイジョーブwもう慣れたし!ww」ほら、まただ。この陰気臭い医務室で、彼だけがまるで太陽のように光り輝いている。ここにいる誰よりも投薬量が多いくせに、こうやって底なしに明るい何でもないような顔をしている。「アンタは強いな……」思わず口に出た言葉を、彼は笑って受け流した。

2020-01-12 02:08:57

賽骰だいす@甘味を要求する @Saikoroid

「オタクくんさーw酒とか飲まねーの?ww」 彼からの申し出はいつも唐突だ。もったりとした濃緑色のゼリーを口に押し込みながら首を振る。この生活になってからというもの、消毒液としてのアルコール以外にはついぞ関わっていないし、飲むつもりもなかった。

2020-01-12 12:53:38
賽骰だいす@甘味を要求する @Saikoroid

「実はさ……w」 声をひそめて彼は耳打ちをする。聞けばたまたま作戦中に古い貯蔵庫を見つけ、侵略戦前の酒瓶を持ち帰ったものの、いわゆるミニボトルであるためどんちゃん騒ぎするような代物ではないとのこと。

2020-01-12 13:00:02
賽骰だいす@甘味を要求する @Saikoroid

そんでもって、と彼は続ける。 この腕では瓶が開けづらい。ならばお前とオレとで山分けして処理してしまおう、と。 「ジンチューミマイ、ってやつ?wwまあほんのちょっぴりだしいーよなwwww」

2020-01-12 13:02:50
賽骰だいす@甘味を要求する @Saikoroid

「つまみがいるんじゃないのか?」 「ンなもんなくていーってww2人で分けたら一口分くらいしかねーんだもんw」 こういうときだけ彼の目が昔のように悪戯っぽくきらめく。その目が、戻らない昔を想起させて、どうにも心が軋むような思いがする。

2020-01-12 13:10:11