母を支えてくれる育児サークル

shinshinohara @ShinShinohara

母は昔、大阪で育児サークルを主宰していた。大阪では最初だと思う。その後、公的機関も同様の事業を始め、赤ちゃんや子どもを抱えたお母さんたちが集える場所が増えた。 母がやったのは難しいことではない。赤ちゃん連れのお母さんたちにコーヒーを振る舞い、自由におしゃべり。それだけ。

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遠方からお母さんたちがこの日を楽しみにして集まった。育児の悩み、不安をお母さんたちで話し合い、すっきりして帰る。母は三人年子の息子を育てたということで絶大な信頼があり、「大丈夫」と言うだけでお母さんたちは安心して、再び育児の日常に戻れたようだ。

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そもそも育児サークルを始めようとしたきっかけは、ある兄弟の出現から。育児サークルの前は、子どもたちが自由に遊べる空間を提供していた。するとある日、ものすごく大きなビニール袋いっぱいのポテトチップを持った、幼い兄弟が遊びに来た。

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それ、どうしたの？と聞くと、「お弁当」と言う。ビックリして、お母さんは？と聞くと、「パチンコ」という。毎日お弁当と称してポテトチップを渡し、パチンコに入り浸っていると言う。そして「子どもの広場」には、似たような事情の子どもたちが見られるようだということに気がついた。

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当時、子どもを車内に置いたままパチンコを続け、熱中症で子どもが死亡するという報道が相次いでいた。育児放棄、という言葉がよく聞かれるようになった。しかし私の両親は、母親たちがのっぴきならない環境に置かれているのでは、ということに思い至った。孤独なのだ。

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育児サークルに通うようになったあるお母さんの話。夫は終電で帰って、早朝出かけるような毎日。そのため、今で言うワンオペ育児に陥っていた。一ヶ月間誰とも話さずにいたら、声の出し方がわからなくなってしまった、と。強烈な孤独と、子どもを生かさなければという重圧で、精神的に参ったという。

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赤ちゃん連れのお母さんたちが集まっておしゃべりできると聞いたお母さんは、自転車を走らせて育児サークルに通うように。自分だけでなくみんな育児に不安を抱えているんだ、自分だけじゃないんだ。おしゃべりを通してそれを知り、ホッとしたという。母が言う「大丈夫」も心の支えになったという。

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あれからもう、10年以上経つ。大阪を引き払い、母は三重に移り住んだ。時折大阪に戻ると、当時、育児サークルに通っていたお母さんたちが母を囲んで飲み会を開いてくれるという。母はそれを何よりの楽しみにしている。ああ、育児サークルやっていてよかったなあ、としみじみ言う。ありがたいこと。

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育児サークルでのお母さんたちの状況は、両親から概略を聞かされていた。私は当時独身だったが、おかげで母親が出産直後から見舞われる孤独と不安を知ることができた。十分かどうかはさておき、嫁さんの出産に際しても心構えができた。育児サークルのお母さんたちに教えてもらったようなもの。

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私の母を元気づけてくれる、育児サークルで知り合ったお母さんたちに、心から感謝したい。おかげで母は、生きる張り合いがもてています。ほんとうに、ありがとうございます。そして、私に育児の大変さを教えてくれたことにも、深く感謝致します。

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私は子育て本を書かせて頂きましたが、塾での指導体験だけではかなり内容に乏しいものになったでしょう。育児サークルのお母さんたちの苦境を知り、それをどうしたら軽減できるかを考える日々がなければ、とても一冊の本にはならなかったと思います。 amazon.co.jp/%E5%AD%90%E3%8…

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これからも子育てについては考え続け、お母さんたちの置かれている環境についても考え、言葉を紡いでいきたいと存じます。育児サークルのお母さん方、ありがとうございます。これからも、母のことをよろしくお願い致します。