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前回の話
以下本編
◆◆◆◆ この物語はエルフの女奴隷を代々受け継ぐ家系のウハウハドスケベファンタジー。 なのに女奴隷をエロエロしていたら姑が割り込んできた。 姑は闇の女王。まつろわぬ精霊の長であり、唯一にして大いなるものとその配下たる光の諸王に敵対する、暗黒の君主である。
2020-02-19 20:48:29女奴隷の主人としては 「ちっ…せっかく楽しくやってたのに」 という気分であるが、やはり姑の命令には逆らえない。 しかたない。世界の壁の向こう、虚空の彼方にいるという姑の元上司のもとに使い走りに出され、首尾よく用事を済ませて帰ってきたのである。
2020-02-19 20:51:07言い忘れたが姑、闇の女王ゴルサイスは、かたちある肉体の方は戦争でなくしていて、霊だけの存在。そこで娘であるエルフの女奴隷ダリューテの肉体に間借りしているのだ。 家どころか体に母娘同居。これでは男の方は、いちゃつきたくてもいちゃつけない。邪魔。
2020-02-19 20:52:51しかしそんな気持ちはおくびにも出さず、奴隷の主人、黒の賭け手ドレアムは笑顔で帰宅した。お土産を持って。 「姐さん。今帰りやした」 「よくぞ戻った」
2020-02-19 20:53:54二人が再会したのは緑の谷。 魑魅魍魎が跋扈する荒々しき影の国にああって、静謐に満ちた秘密の庭。 常春の庭に色とりどり、薫さまざまな花咲き乱れ、甘き果は瑞々しく実り、枝に夜啼鳥が涼やかに囀り、泉に虹の鱗の夢鱒泳ぎ、葉陰には魔狼と妖猫が伏せる。
2020-02-19 20:58:24ゴルサイスは満月の如く膨れた腹を抱え、編み木細工の揺り椅子に腰かけていた。抜けるように白い肌に棘と角だらけの漆黒の衣が奇妙に映える。 周囲には異様なからくりの類が散らばっていた。 うち一つは掠れた機械音を立て歩く黒竜。どこか間の抜けた意匠の頭部を、しなやかな腕が叩き動きを止める。
2020-02-19 21:03:39「面白ぇ…何ですかいこりゃ?」 「手すさびだ。子供だましの玩具よ」 「生まれてくるおちびさんにやるんですかい?」 「手すさびと言ったであろう。それより首尾は?」
2020-02-19 21:05:27問いかける身重の女王に、六本指の博徒は両の掌を打ち合わせてにんまり応じる。 「散り散りになった霊気を縫い合わせる術。確かに冥府の主、冥皇の旦那さんから授かりやした」 「そうか…お前の父、キージャの霊気を取り戻せよう…すでに肉の器失われようとも、不滅の幽鬼として蘇り、我等と共に…」
2020-02-19 21:08:12口元をほころばせるゴルサイスに、ドレアムは目を細める。 「ですがね。そのためにゃあ、今は姐さんがはめてる指輪、うちの一族に代々伝わる魔法の指輪を、手前に譲っていただかなくちゃならねえんで。キージャのおやじさんのばらばらになった霊気は、何を隠そうその指輪に入ってるのはご承知の通り」
2020-02-19 21:10:48「…それは考えものだな。この指輪は我が霊気が、この体、娘ダリューテの肉の器に宿るのを助けてもいる。外せばどうなるか…」 「さあて」 「お前の先祖、歴代の黒の乗り手は、指輪を外せばたちまち肉の器から引きはがされ、命を落とした。ダリューテの命も損なわれるかもしれぬぞ」
2020-02-19 21:12:59尖り耳に白い肌の乙女が告げると、尖り耳に暗い膚の丈夫(ますらお)は答える。 「そいつはどうですかねえ。ダリューテの姐さんは、もう一つ指輪をはめてなさる。黒の鍛え手マーリがこしらえた、金剛石の指輪を。そいつはしっかりとダリューテの姐さんの肉の器と霊気をつないでまさ」
2020-02-19 21:15:11「黒の鍛え手マーリ、指輪作りのマーリ、銀の腕のマーリか。あやつは歴代の中で最もこの闇の女王ゴルサイスに近い技を揮った。あやつの作品と私の作品。はたしてどちらの魔法が勝るかな」 「手前ども黒の乗り手は姐さんの敵じゃねえ。忠義な子分でさあ」 「そう願いたいものだが」
2020-02-19 21:17:23男女は見つめ合った。笑みを浮かべて。 一方は魔人。一方は魔女。 やがてゴルサイスはゆるやかに息をついて円かな胴をさすった。黒衣の衿は深く切れ込んで臍まであらわになっており、孕み腹を外気に晒している。最も火山のおかげで年中暖かい影の国では冷える恐れもない。
2020-02-19 21:20:10「子が生まれ出るまでは先延ばしとしよう」 「そろそろですかい」 「あとわずかだ。この子は、私がダリューテを宿した時に比べればずっと短い間に大きくなったが…だがやはり定命のものとは違う」 「そうですかい」
2020-02-19 21:22:44ドレアムがじっと子のいるであろうあたりを眺めていると、ゴルサイスは目を伏せた。 「しばらく私は眠る。ダリューテに挨拶してやるがよい」 そうして目を開くと、もはや気配は別人に変わっていた。 闇の女王と同じほど手強い妖精の妃騎士に。 「無事か」 「何とか」 「嘘をつけ」
2020-02-19 21:24:30奴隷は腕を伸ばして、そっと主人をさし招くと、白と黒の影は近づき、互いにそっと腕を巡らせ、力をこめず抱擁する。 「…ドレアム。お前はほかの誰より激しく、速く、命を燃やし尽くそうとする。半ばは私のために」 「性分でさあ」 「…ああ。知っている」
2020-02-19 21:27:35ダリューテはかつては弓と剣を握るのに慣れた十指を広げ、ドレアムの頬を挟んだ。 「私の子。私がしもべとして操り、死なせんとする子よ…お前は私を憎み嫌うことさえできない」 「手前が捕え、つなぎとめる奴隷をですかい?ありえねえ話でさあ」
2020-02-19 21:30:56妖精の奴隷は、魔性の主人に悲しげに微笑む。 「お前の束縛がどれほど私を幸せにし、どれほど切なくさせるか…」 「死なねえでおくんなせえ」 「死ねぬ。オズロウを縛りつけた私が、ダウバを見殺しにした私が…キージャの破滅をもたらした私が、死ぬことは許されぬ」
2020-02-19 21:34:22祖母と母と息子、君主と家臣と奴隷は数日の間静かな時を過ごした。 ゴルサイスは竜や巨人をかたどったからくりだけでなく、心地よく揺れ続ける籠や、粗相のたびに嬰児の尻からはがれて綺麗に丸まる襁褓(むつき)などをドレアムに披露した。
2020-02-19 21:37:26「どれもこれもよくできてまさあ。ですがね。何でやたらとこう、棘があったり、牙だの鋭い眼だのがついてるんで」 「触ってみよ」 「柔らけえや」 「傷はつかぬのだ」 「てえしたもんでさ。しかし何で棘や角があるんで?」 「…?」
2020-02-19 21:39:06平和は不意に破れた。 影の国の正面玄関、錆びず毀れぬ鋼鉄でできた絶壁の如き大扉、黒門の前に忽然とひとりの騎士があらわれたのだ。 翼を広げた鷲の旗を竿に結んで肩にかけ、風にはためかせながら、光を放つ双眸で恐れもなく、闇の地の中心をねめつけている。
2020-02-19 21:42:01