「検査」だけやってもあまり意味がないというお話

コロナウイルスの流行で,一部メディアは「なぜもっと検査をやらないんだ」と煽りますが…。 3人の先生による検査結果をどう捉えるかというわかりやすい解説です。
19

Taka先生による解説

手を洗う救急医Taka @mph_for_doctors

話題の感度・特異度についてです。 ・感度 本当に病気がある人に検査をして、ちゃんと陽性と判定される確率 ・特異度 本当は病気がない人に検査をして、ちゃんと陰性になる確率 です。

2020-02-25 09:37:47
手を洗う救急医Taka @mph_for_doctors

直感的な理解のためには、「ミス」を考えるのがわかりやすいです。 例えば感度99%なら、 本当に病気がある人に検査をして、間違って陰性と判定される確率1% です。 つまり、感度が高いと「ミスって陰性と判定される確率が低い」、すなわち「陰性だったら多分病気はない」といいやすいです。

2020-02-25 09:37:47
手を洗う救急医Taka @mph_for_doctors

次に、特異度99%なら、 本当は病気がない人に検査をして、間違って陽性と判定される確率1% です。 つまり、特異度が高いと「ミスって陽性と判定される確率が低い」、すなわち「陽性だったら多分病気がある」といいやすいです。

2020-02-25 09:37:48
手を洗う救急医Taka @mph_for_doctors

つまり、感度が高い検査が陰性なら病気がないといえる。 特異度が高い検査が陽性なら病気があるといえる。 と直感的に思います。 しかし、ここまで学んでいただいたことを台無しにします。 これは両方間違いです。

2020-02-25 09:37:48
手を洗う救急医Taka @mph_for_doctors

これは「有病率」という第3の因子を無視しているからです。 どういうことか見て行きましょう。 例えば、病気のある人が100人、病気のない人が100人いて、全員にこの検査をします。 すると、検査が陽性で病気がある確率も、検査が陰性で病気がある確率も99%です。 予想通りですね。 pic.twitter.com/ebrR2xoTLn

2020-02-25 09:37:48
拡大
手を洗う救急医Taka @mph_for_doctors

次に、病気のある人が100人、病気のない人が10000人いて、全員にこの検査をするとしましょう。 これは有病率がおよそ1%の人達を見ていることになります。 図の通り、 検査が陰性の人が病気がない確率はめちゃくちゃ高いですが、 検査が陽性の人が病気がある確率は五分五分です。 pic.twitter.com/l7Yb1vxOs3

2020-02-25 09:37:49
拡大
手を洗う救急医Taka @mph_for_doctors

日本での感染者はクルーズ船を入れて1000人弱です。 1億人中1000人なので、有病率は0.001%です。 つまり、闇雲に検査をしても、検査陽性の人が病気を持っている可能性はおよそ0.1%になります。 「検査が陽性なので、あなたが新型コロナウイルスにかかってる確率は0.1%です」と言われたいですか?

2020-02-25 09:37:49
手を洗う救急医Taka @mph_for_doctors

まして検査の感度が70%、特異度が95%とか言われていますので、ものすごく間違います。 そして、現実はもっと複雑です。 実際には「現在何人が感染しているか」なんてわからないからです。 通常医師はこの「検査前の確率」を経験と論文知識を元に主観的に決めています。

2020-02-25 09:37:49
手を洗う救急医Taka @mph_for_doctors

例えばインフルエンザなら、医師たちはほぼ無意識に 「この症状なら60%ぐらいでインフルエンザだろうな」 とか考えながら検査をします。 で、検査が陽性なら病気がある確率は95%、陰性なら35%ぐらいと見積もった上で、 「検査が陽性なのでインフルエンザです」という風に説明するわけです。

2020-02-25 09:37:50
手を洗う救急医Taka @mph_for_doctors

しかし、今回の新型コロナウイルスについては「検査をする前にどれぐらい確からしいか」を判断する材料がありません。 武漢渡航歴のない40歳女性で体温37.5℃の人が、感染している確率なんて誰にもわかりません。 つまり検査をしてもどの程度病気が確からしいかサッパリわかりません。

2020-02-25 09:37:50
手を洗う救急医Taka @mph_for_doctors

この状態で希望者全員に検査をしてもほとんど時間の無駄ですね。 これが、軽めの症状なら自宅で安静にしていただいた方がよっぽどよい理由になります。 言ってることがわからないところもあるかも知れませんが、「検査って簡単じゃない」ということがわかってもらえればと思います。

2020-02-25 09:37:50
手を洗う救急医Taka @mph_for_doctors

ひとことだけですが… ・現時点で検査前確率を正確に見積もることは困難 というのは正しいですが ・だから全例検査でよい という論理は破綻しています。 主観的に検査前確率を決めた上で、検査後確率によりマネジメントが変わるかどうかに尽きます。 患者に対する説明内容も"マネジメント"です。

2020-02-26 00:45:48
手を洗う救急医Taka @mph_for_doctors

私が言いたいのは、検査前の時点で全く何の情報もないのであれば、検査後も全く何の情報もないということです。 もし検査後に合理的な説明ができるとしたら、無意識になんらかの検査前確率を設定しているはずです。 事後オッズと事前オッズ・尤度比の式の意味することろは、「情報の更新」なので。

2020-02-26 01:05:06

ひまみみ先生による解説

前田陽平👂ひまみみ👃耳鼻科 @ent_univ_

尿や血液一滴で癌がわかる、などの検査を「リキッドバイオプシー」と言います。 この検査、健康な方を対象にする場合は注意が必要です。 癌の85%の方で陽性になる、健康な方での85%では陰性になる。 一見良さそうですよね。でも微妙です。続きで解説してみます。少し長いですがお付き合いください。 twitter.com/Yusuke_Tokyo/s…

2020-01-15 17:58:19
前田陽平👂ひまみみ👃耳鼻科 @ent_univ_

それぞれ、より良い検査だとして90%だとしましょう。 この検査を200人の健康な人にやるとします。その中に実は癌だ、という人が10人いるとします。(そんなに多いのか?という感じはしますが。検査の価値を過小評価しないようにこう仮定します)

2020-01-15 17:58:20
前田陽平👂ひまみみ👃耳鼻科 @ent_univ_

本当は癌の人10人のうち9人は検査で陽性(癌の疑い)と出ます。この人たちは受けてよかったですね。1人は検査では陰性(癌の疑いではない)と判断されます。これは仕方ない、、でしょうかね。

2020-01-15 17:58:20
前田陽平👂ひまみみ👃耳鼻科 @ent_univ_

問題は癌のない人です。 実際は癌のない人が190人で、検査で19人は陽性(癌の疑い)です。171人は陰性(癌の疑いではない)ということになります。 171人は良かったんですが、19人は困りますね。さんざん癌の検査をして金銭的にも肉体的にも負担になりますが癌は見つかりません。

2020-01-15 17:58:20
前田陽平👂ひまみみ👃耳鼻科 @ent_univ_

このシミュレーションだと200人のうち19人です。200人のうち9人の癌を見つけるためにこのようになっていいのか?ということですね。 言い方を変えると陽性(癌の疑い)の人が28人の内、本当に癌の人は9人です。 これを「陽性的中率」と言います。

2020-01-15 17:58:21
前田陽平👂ひまみみ👃耳鼻科 @ent_univ_

数字は出しませんが200人中50人が癌の人に検査するなら陽性が60人でそのうち45人が癌です。これなら価値がありそうですね。それでも15人は癌でないのに陽性です。でもまあ45人の癌が見つかるなら仕方ないですかね。。

2020-01-15 17:58:22
前田陽平👂ひまみみ👃耳鼻科 @ent_univ_

何が言いたいかといえば、「検査前確率」(受ける人の何%が癌なのか)が大事ですよ、ということです。全く健康な人にやると「陽性的中率」が下がります。特にこの検査は本当は癌でないのに癌だと判定されるとすごく金銭的、肉体的、精神的に負担になります

2020-01-15 17:58:22
前田陽平👂ひまみみ👃耳鼻科 @ent_univ_

この点を理解してるなら受けても良いと思いますが、よく考えてください。 この検査を全く健康な若い人が受けることは個人的には全くお勧めしません。

2020-01-15 17:58:23
前田陽平👂ひまみみ👃耳鼻科 @ent_univ_

リキッドバイオプシー自体はすごくポテンシャルのある検査で、病勢推移評価、オーダーメイド医療など応用がすごく期待されるものです。今後の発展を期待したいですね。

2020-01-15 17:58:23