ドラゴン・ドージョー・リライズ:始動編 前編

公式note https://diehardtales.com/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

通行人や観光客の目に留まると、彼女はそばに置いた荷物からチラシを取り出し、差し出した。チラシには「ドラゴン・ドージョー。カラテ修練、修行。ドラゴン・ユカノ」と書かれており、更に、峻厳な山の山頂付近にドージョーがある事を伝える地図が添えられていた。 21

2020-02-28 22:02:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

彼女のカラテ・ワークの隣にはオンセン・モチの屋台があり、白い湯気と良い匂いで、常に繁盛していた。「ミート・モチ二個ね。アイヨ!」「はい、お客さんは? ミソね。アイヨ!」「次の方!野菜?ちょっと待ってね。今できるから」 22

2020-02-28 22:05:00
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膝の悪い店主が愛想よく客に応対する横で、ユカノは黙々とカラテを続けた。通行人は横目で彼女を見ては、そのまま通り過ぎる。チラシを受け取る者はほとんど居ないし、受け取っても、それきりだ。オンセン・モチの客も行列待ちの間ユカノに目を向けるが、モチを受け取ればそのまま去って行った。 23

2020-02-28 22:08:00
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ユカノはベンチに座り、溜息をつく。既に二ヶ月。この境遇が日常だ。「ドーゾ」俯く彼女にモチが差し出された。困惑気味に顔を上げると……「フジキド!?」「そこで買った。……隙だらけだな」旅姿の男は低く言った。ユカノは自嘲気味に笑い、モチの袋を受け取った。「今のアンブッシュは百点です」24

2020-02-28 22:11:00
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フジキドは傍らに置かれた紙束から一枚取った。ユカノは少し慌てた。「あ、それは」「……門下生募集」彼は靄に霞む峻厳な山を見やった。ここから一時間でマサシの悟り。そしてさらに遠い道のりをかけて、ドラゴン・ドージョー……。「え、ええ、そうです」ユカノは所在なさげにした。 25

2020-02-28 22:14:00
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「フジキドはこの地に何をしに?温泉療養ですか?」「IRC-SNSで、ドラゴン・ドージョーの紹介を見た。あれはユカノが作ったのか?」「はい。恥ずかしながら」ユカノは頷いた。「門下生はまだ……居ませんが」「成る程」フジキドは驚かなかった。ユカノはやり場のない思いにとらわれた。 26

2020-02-28 22:17:00
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「笑ってください。そんなふうにされると、かえってみじめです。わかっています。閑古鳥です、ブザマです……」「確認するが。この町で勧誘を行い、あの山頂付近まで連れて行き、住みこませるつもりか」「ええ、勿論」「ラマに乗り、山をずっと上がって、崖を上がるわけか」「その……それが何か?」27

2020-02-28 22:20:00
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「話は長くなりそうだ」フジキドはユカノの隣に腰を下ろした。「私は時折ドラゴン・ドージョーIRCルームを確認していた。ゆえに運営が芳しくない事も既にわかっている。そのうえで言うが……これでは今後も門下生は集まるまい」「何故ですか?そもそも、何故 "良い" を押してくれなかったのですか」 28

2020-02-28 22:23:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「その話はいい。いいか、ユカノ。門下生はニンジャではない。少なくとも入門時は一般市民だ」「それはそうです」「入門以前に、あの山道で音を上げる」「整備を行いました。昔と違って遥かに容易のはず。中国地方にあったドージョーに比べればいくぶん不便かもしれませんが、それでも……」 29

2020-02-28 22:26:00
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「当時のドージョーはまだネオサイタマに近かった。だが、ここは違う。岡山県の山中だ。ただでさえ人口が少ない土地で、更に人里離れた場所にドージョーを構えて、ただ待っていても、誰も来はせんぞ」「でも、ドラゴン・マウンテンは、ドラゴン・ドージョー始まりの地なのです」ユカノは主張した。 30

2020-02-28 22:29:00
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「私にとって重大な場所で……守るべき墳墓もあります」「それはそうだろう。だがドージョー運営は神秘的なニンジャクエストとは別ベクトルで……現実的な視点が必要だ。どんな人間を門下生にするか、想定しているか?」「ジュー・ジツを学び、チャドーを学び、ドラゴンロードの入り口に立つ者です」31

2020-02-28 22:32:00
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ユカノは力強く言った。「常に自己を研鑽し、怠けず、力に溺れぬ高潔な意志と……」「学ぶ者だ。まずは学ぶ者を集めねば。ユカノ」フジキドは遮った。「今は平安時代ではない。全員がまさにリアルニンジャとして奥義伝授の資格を得る者になれずとも、学ぶこと、それ自体に意義はある筈だ」 32

2020-02-28 22:35:00
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「ドラゴンロードを征く高潔な意志の持ち主はいつか必ず現れます!」「それまでただ待つのか。それではドージョーは成り立つまい。隠者になりたいのか?であればよいが、オヌシの本心は違う筈だ。IRC-SNSなども使って……」「そ、それはそうですが!でも!」「聞くのだ、ユカノ」フジキドは言った。 33

2020-02-28 22:38:00
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「ゲンドーソー=センセイの教え……更に遡れば太古の昔にオヌシが創始したクランの教えは、ニンジャのみならず、カラテを扱う者の規範たりうると私は思う。実際に山頂に至り、本格的なニュービーニンジャとなる者は稀だ。それでよいのだ。まず間口を広く取り、現代的なドージョーの在り方を……」 34

2020-02-28 22:41:00
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「ゲンドーソーは……ローシ・ニンジャ=サンは、沢山のニュービー・ニンジャを鍛えておりました!」ユカノの目に涙が浮かんだ。「あの日のドージョー襲撃が無ければ……彼らは……!」悲痛な言葉であった。ソウカイ・シンジケートの襲撃により、ドージョーのニュービーは全て死に絶えたのである。 35

2020-02-28 22:44:00
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その襲撃者たるアースクエイクもヒュージシュリケンも、既に生きておらぬ。フジキドが殺したのだ。ショッギョ・ムッジョである。「……ユカノ」フジキドは震えるユカノの肩に手を置いた。ユカノは泣いた。溜め込んできた様々な感情が、堰を切ったように彼女に押し寄せていたのだ。 36

2020-02-28 22:47:00
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店じまいをした屋台のおやじが、やや離れた場所で彼らの修羅場を固唾をのんで見守っていた。やがてフジキドは言った。「しばらく滞在する。ゲンドーソー=センセイという同じ師を戴いた者として、微力ながら力を貸そう。ユカノ」「……」ユカノは目を伏せ、涙をぬぐった。彼女は無言でうなずいた。 37

2020-02-28 22:50:00
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「スウーッ……」「ハアーッ……」ユカノとフジキドは互いに向かい合って地面に正座し、朝の空気を深く吸い込んだ。非常にゆっくりとした動作で立ち上がった二人は、ワン・インチ距離で向かい合い、ゆっくりと互いに拳を動かした。ミニマル木人拳めいたショートフックの応酬である。 39

2020-02-28 22:56:00
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フック……短打……掌底……チョップ……フック。やがてフジキドが手を止めた。「ユカノ」彼は目で示した。広場の反対側に、頭にテヌギーを巻き、サイバーサングラスをかけた、バックパッカー風の若い男が座っていた。男は小さな太鼓を二つ並べ、チューニングをしていた。見たところタブラの一種だ。40

2020-02-28 22:59:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

トンツクトンツクトンツクトントン。男は道行く者達に欠けた歯で笑顔を見せ、タブラの演奏を始めた。2人はタブラ奏者の付近に移動した。トンツクトンツクトンツクトントン。フジキドは太鼓の音に耳を傾け、拳をゆっくりとユカノに繰り出した。意を得たユカノは、太鼓のリズムに乗せて、拳を返した。41

2020-02-28 23:02:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

トンツクトンツクトンツクトンツク。トンツクトンツクトンツクトンツク。フック…短打…掌底…チョップ…フック。音に合わせてステップを踏み、肩を上下に揺らした。フジキドがユカノに手招きした。「イヤーッ!」ユカノが回し蹴りを繰り出した。フジキドは身を屈めて躱し、回し蹴りを打ち返した。 42

2020-02-28 23:05:00
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「イヤーッ!」ユカノは同様に身を屈めて躱しながら、後ろ脚で回し蹴りを放つ。メイアルーアジコンパッソだ。トンツクトンツクトンツクトンツク。音に合わせ、彼らは交互に回し蹴りを繰り出した。五回。十回。十五回。「オーッ!」モチ屋台に並ぶ人々の歓声と拍手が湧いた。タブラ奏者にも熱が入る。43

2020-02-28 23:08:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「「イヤーッ!」」2人は同時にフリップジャンプした。見えない円周をなぞって身体を運び、蹴りとチョップを打ち合い、新たなカラテムーヴに繋げる。ダカダダン!ダカダダン!力強いビート・ブレイクに乗せ、彼らはコンビネーション・ブローを打ち合い、バック転を繰り出し、同時にザンシンした! 44

2020-02-28 23:11:00
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「オーッ!」モチ屋台の行列が一斉に拍手した。「姉ちゃんすげえんだな!」屋台の店主が喝采した。ユカノははにかみながら、タブラ奏者の若者と観衆に頭を下げた。 45

2020-02-28 23:14:00