リキシャー・ディセント・アルゴリズム #1

翻訳チームによるサイバーパンク・ニンジャ活劇小説「ニンジャスレイヤー」リアルタイム翻訳 (原作:Bradley Bond-san & Philip Ninj@ Morzez-san) ニンジャスレイヤー公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 続きを読む
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「アバーッ!」腹を強打され、その場にくずおれるアナカ!顔をしかめながら、バリキドリンク自販機にもたれかかる!「ア?どうしたの、アナカ、転んだの?」平然と言い放つタジモト!続けざま、2人のモヒカンはアナカの懐に入っている百円玉をひとつ残らず奪い取り、自販機のスリットに流し込んだ!

2011-06-11 20:02:35
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

キャバァーン!キャバァーン!投入音が続けざまに鳴り、クレジットの数字が猛烈な勢いで増えてゆく!「金が無いんならサア、俺がおごってやるヨ」タジモトは哄笑しながらバリキドリンクのボタンを叩きまくる!ガルガルガル、ギュゴン!ガルガルガル、ギュゴン!バリキドリンクが次々と飛び出してくる!

2011-06-11 20:07:22
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ア?飲まないの?好きなだけ飲みナヨ?」タジモトが目配せすると、モヒカンたちがアナカの腕を押さえつけ、バリキドリンクの中身を強引に流し込んでいった。5本、10本、15本……ナムアミダブツ!それ以上はアブナイ!

2011-06-11 20:11:05
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

……それから5分後……リキシャー・ガレージには、朦朧とした意識のまま嘔吐を繰り返すアナカだけが残されていた。「アバーッ!」記憶容量増築サイバネ手術のために貯めていた金が、奪い取られてしまった。タジモト一味に対する殺意が沸々と湧き上がる。「アバーッ!」

2011-06-11 20:18:24
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

だが、アナカは実際にそれを行動に移すほど愚かではない。万が一にも、懐の中に収めたフロッピーが奪われるか破壊されるかしていたら、彼はそのような自暴自棄な行動を取っていたかもしれないが……幸いにも、大金をもたらしてくれるであろうフェレットは、まだアナカの懐の中に残されていたのだ。

2011-06-11 20:21:05
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

アナカはよろよろと立ち上がり、積み上げられたバリキドリンクの瓶を忌々しげに蹴り飛ばしてから、ガレージを出た。ユニホームを返却し、対汚染ブルゾンに着替えてキョート駅へと向かう。

2011-06-11 21:27:24
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

アナカが駅に着くと、スピーカーアンプを搭載した小型のフクスケ・ドローンが駅周辺を飛び回り、観光客に対してアンダー・ガイオンへの下降自粛を呼びかけていた。「…ツーリストの方々に警告です……第五階層ドラゴンゲート以北、第六階層ゴリラゲート以西で引き続き暴動発生中……死傷者は数百人…」

2011-06-11 21:35:42
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

あえてアンダー・ガイオンに潜ろうという連中の気が知れん、とアナカは労働者用の列に並びながら苦笑した。バリキのせいだろうか、目が血走り、笑いが止まらない。遥かにいい気分だ。後ろにいたバリキ中毒と思しき遺跡修復労働者が肩を叩き、同じような目で笑いかけてきた。アナカも笑った。

2011-06-11 21:39:46
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

建物の中でツーリストたちは整然とした列に並び、パスポートをチェックされている。一方、アンダーガイオンに暮らす労働者たちは、身分チェックもないまま、横三十人ほどの雑然とした群れとなって、次々と大型リフトに送り込まれてゆく。地上に暮らすのは難しいが、下降するのは誰にでも簡単なことだ。

2011-06-11 21:42:55
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ギュグン!数十人乗りの大型リフトが止まり、黄色と黒の警戒色で塗られたバーが下がる。労働者たちはゾンビのような足取りでリフトに乗り込み、ガイオンシティ交通課の制服を着てマスクを被ったバイオスモトリたちが、限界まで乗客を押し込む。ギュグン!10秒も経たないうちにリフトは降下を始める。

2011-06-11 22:15:10
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

キョート・リパブリックは、日本から独立した国家であり、入国にはパスポートが必要だ。鎖国状態にある日本だが、唯一、キョート・リパブリックとだけは国交がある。また、キョートには諸外国に繋がるハブ空港が存在する。要するにキョートとは、日本が外貨と貿易品を手にするためのデジマなのである。

2011-06-11 22:18:45
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

キョートの経済収入の8割は、観光業に関連したものだ。理想的サイバー都市である地上部に住処を持てるのは、カチグミ企業社員か、犯罪組織のトップか、観光業従事者くらいのものであり、全人口の1パーセント弱に過ぎない。それ以外の労働者は全て、逆ピラミッド型の広大な地下都市で暮らしている。

2011-06-11 22:30:32
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

観覧車のように次から次へと降りてくるこの大型リフトは、アッパー・ガイオンとアンダー・ガイオンを繋ぐリフトの中でも最大級のもののひとつだが、他にも無数のリフトがあり、ガイオンシティ当局にも全容を把握しきれていない。アナカたちを載せたリフトは、軋んだ音を立てて地下第5階層で止まった。

2011-06-11 22:34:52
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

第5階層はアンダー・ガイオンの中でも最も広大なエリアで、中心部は4階層分の吹き抜けになっており、違法増築を重ねた高層ビル群が乱立している。その猥雑さは、ネオサイタマのツチノコ・ストリートを思わせるほどで、クリスマス電飾が施された竹林のごとく、無数の商業的ネオンサインが瞬いていた。

2011-06-11 23:09:04
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「素材の良品」「実際安い」「武田信玄」……ネオサイタマと何ら変わらない虚無的な商業メッセージが、アンダー・ガイオンの市民らを容赦なく洗脳している。扇情的なハードテクノが鳴り響き、感情を麻痺させていく。西の工業エリアから排気し切れなかった汚染大気が混じり、喉と肺を容赦なく攻撃する。

2011-06-11 23:18:06
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

そこかしこに立ち並ぶバリキ自動販売機の誘惑を振り払いながら、アナカは東区画へと向かった。「ハァーッ!ハァーッ!ハァーッ!」バリキドリンクの麻薬的成分のおかげで、ストリート・オイランの胸元がいつもより扇情的に見えるが、家で待つ妻を思い浮かべ、アナカは黙々とストイックに歩き続ける。

2011-06-11 23:25:17
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

居住区へ続くコリドーは、全面がスピーカーとモニタであり、洗脳装置そのものだ。激しい光の明滅と、非人間的なデジタルビートに乗って、オイランドロイド・アイドルデュオのマッポー的なウィスパーボイスが響く。「……激しく前後に動く。ほとんど違法行為。激しく上下に動く。あなたは共犯者……」

2011-06-11 23:33:36
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ナムアミダブツ!何たるディストピア!もはや、あの奥ゆかしいキョートは存在しないのか?!すべてのモラルが破壊され、経済という毒によって堕落しきったアンダー・ガイオンは、ネオサイタマが東のゴモラであれば、まさに西のソドムである!それはまさに、古事記に予言されたマッポーの情景であった!

2011-06-11 23:37:32
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

閉鎖された地下アーケード街を思わせる、無数のシャッター。ふと気がつくと、アナカはいつの間にか第八階層タコ区画にある自分の家の前に立っていた。まだニューロンの中にサイバーテクノの騒音がこびりつき、激しいフラッシュが網膜の奥で焦げ付いているかのような不快感。頭を軽く振って頬を叩く。

2011-06-11 23:45:56
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

アナカは鍵を開けて、重い防犯シャッターを持ち上げる。それからショウジ戸を開け、狭くも快適な我が家に戻った。妻のヨモコはまだ起きているようだ。温かく家庭的な光が彼を癒した。後ろから物騒な銃声と罵声が聞こえてきたので、アナカはすぐにシャッターを下ろす。

2011-06-11 23:49:49
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

彼らが暮らしているのは、中流階層が暮らす第八階層ではごく一般的なファミリー物件だ。シャッターとショウジ戸を開けると廊下があり、左右に部屋が1つずつ。地下都市の宿命として窓は存在せず、廊下の突き当たりにあるイミテーション丸窓の向こうには、静かなサンスイ風景の映像が映し出されている。

2011-06-11 23:57:36
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「あなた、遅かったのね」清楚な和服に身を包んだヨモコは、丸窓の下に並べられた白い小石を整え直し、木桶に汲んだ水をインテリア用の小さなトウロウにかけていた。そのハンナリと奥ゆかしい光景に、アナカは心底安らぎを覚えるのだった。

2011-06-12 00:03:10
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「実は、まだ少し仕事が…」バリキで輝く目を見せないよう、アナカはサイバーサングラスを着用していた。しかし、腹の中から湧き上がるケミカル臭を隠すことはできない。胃酸交じりの酷い悪臭だ。ヨモコは微かに顔をしかめつつも、夫には夫の都合があるのだと自らに言い聞かせ、にこやかに頷いた。

2011-06-12 00:08:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「遅くなるかもしれない。寝ておいてくれ」アナカは冷蔵庫に入っていたザゼンドリンクを何本かポケットに仕舞うと、洗面所で顔を洗い、百円玉を数個持ってすぐに家を出た。ヨモコは静かに自らの夫を見送るも、妙な胸騒ぎを覚えるのだった。「リキシャー会社のガラの悪い人達とつるんでいるのかしら…」

2011-06-12 00:14:05
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

アナカは、ダウナー系飲料であるザゼンドリンクを飲み、昂ぶったニューロンを抑制しながらタコ区画の第19番地へと向かう。彼にはツテがあった。フロッピーディスクを解読可能なUNIXを持ち、イリーガルな世界にも精通し、かつ信頼が置ける男……それは私立探偵タカギ・ガンドーをおいて他にない。

2011-06-12 00:23:09