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【ウジコ様は告げる】序章★25 それにしても、いくら一番になりたいからと言って、自分の悩みをネタにして作る挑戦状を作るというのは、からだを張りすぎているような気がした。本人は微笑みを浮かべていたので、青年は特に突っ込もうとはしなかったが。
2020-02-18 06:00:00【ウジコ様は告げる】序章★26 こうして二人は暫く話していたが、気が付くと撤収作業は終了していたようで、櫓や屋台が軒並み消え去っていた。日の出も迫っているようで、じわじわとアーケード内に目を焼く朝日が差し込み始め、それと同時にタイルにも影も落とし始めていた。
2020-02-18 12:00:00【ウジコ様は告げる】序章★27 金髪の少女はベンチから腰を上げ、青年の前にひらりと向き直った。 「……そろそろ、お時間ですね」 「うん、そうだね。最初はかなり戸惑ったけど、楽しい祭りだったよ。手助けしてくれてありがとう」
2020-02-18 18:00:00【ウジコ様は告げる】序章★28 「いえいえ。それも"---様"のお力があってこそです。私の力など微々たるものでしかありませんでしたよ」 「まだ言うのかい?」 もはやお約束となった掛け合いに、青年は苦笑いを浮かべるしかなかった。それでも楽しい時間を過ごす事ができ、彼はとても充実していた。
2020-02-19 00:00:00【ウジコ様は告げる】序章★29 夜明けはもう目の前だ。賑やかな時間は終わりを告げようとしている。眩い朝日を小さな背中に背負いながら、少女はゆっくりと頭を垂れた。
2020-02-19 06:00:00【ウジコ様は告げる】序章★30 「じゃあ、"-----"、また来年、頑張りますか」 「ええ、また来年もお会いしましょう――願わくばどうか"この場所"と"---様"が、長きに渡ってあり続けますよう――」
2020-02-19 12:00:00【ウジコ様は告げる】序章★31 実を言えば、少女の心中は決して穏やかなものではなく、大いに揺れ動いていた。聡明な彼女は知っていたのだ。誰にも悟られよう心を込めて祈った願いは、容易く時代に踏み躙られるという事を。
2020-02-19 18:00:00【ウジコ様は告げる】序章★32 そして、一日限りではあったものの今迄一緒に楽しい祭りを巡り、仕事をした"---様"は、もう二度とやってこないという事も知っており、少女はただ奥歯を噛み締める事しかできなかった。
2020-02-20 00:00:01【ウジコ様は告げる】序章★33 だが、"-----"は我慢強い、分別のついた少女だった。例え叶わぬ願いだと知っていたとしても、抗う事を抗う事をせず、ありのまま受け入れよう。私は絶対に後悔なんてしていない――そうやって自分自身に必死に言い聞かせてきた。
2020-02-20 06:00:00【ウジコ様は告げる】序章★34 事情も状況を何も知らない"---様"が時折見せる朗らかに笑う様子が、少女の胸を強く絞めつけてきたけれど、少女はなんとか表情に出さずに今の今まで持ちこたえてきたのだ。
2020-02-20 12:00:00【ウジコ様は告げる】序章★35 だが、我慢の限界は今年の祭りから約一年後に訪れた。 それは公にはされないであろう小規模な一つの傷害事件がきっかけだった。彼女は事件の目撃者となったのだ。そしてその後の顛末も知った時、天の采配と時代の流れがこれ以上になく呪った。
2020-02-20 18:00:00【ウジコ様は告げる】序章★36 しかし彼女はこの時点で明らかに自分を見失っていた。彼女の誓いというものは、傍から見ればただのエゴに過ぎないという事を、普段の彼女なら直ぐに気づく事が出来たのだから――
2020-02-21 00:00:01【ウジコ様は告げる】1章あらすじ★1 ある夜のある商店街のゴミ捨て場で、一人の青年が目を覚ます。目覚めた時、彼は記憶を失ってしまっていた。ネオンの光に誘われて表に出ると、人々が彼をウジコ様と呼び、祀り上げ始めた。
2020-02-21 06:00:00【ウジコ様は告げる】1章あらすじ★2 混乱する彼のもとに、ディアーリと名乗る少女が現れる。彼女は、ウジコ様として祭りを担う彼を補佐する人間だと告げ、今年も青年にウジコ様の任を全うするように伝えるのだった。記憶を失った彼は苦戦しながらもウジコ様の仕事に挑むのであった。
2020-02-21 12:00:00【ウジコ様は告げる】1章登場人物 ウジコ様……ゴミ捨て場で寝ていた青年。記憶を失っている。 ディアーリ……ウジコ様の補佐長 ロス……祭りに出ている少年。腕白。 ロフィット……祭りに出ている少年。大人しめ。
2020-02-21 18:00:01【ウジコ様は告げる】1章★2 目覚めのすぐという事もあり暫く目の焦点が定まらず、口を半開きに開いたまま放心状態でいたが、何気なく空を見上げれば張り巡らされた電線と瞬く星々と満月を仰ぎ見た。時間は夜中を回っているようだった。
2020-02-22 12:00:00【ウジコ様は告げる】1章★3 次第に頭が覚醒していき、今現在何が起こっているのか気になりだしてくる。手触りを手掛かりに何に凭れていたのかを確認した。肌に引っ付く奇妙な感触――バサバサと耳を劈く、明らかに自然物が奏でないこの音――どうやら凭れていたのはビニール袋のようだった。
2020-02-22 18:00:00【ウジコ様は告げる】1章★4 そうこうしてる間に次第に夜目に慣れてきて。黒いビニール袋に【粗大ゴミ】と書かれているのが辛うじて読むことが出来た。目視できたのはそれだけではない。狭堆く積み上がる黒いビニール袋に、一面のゴミの山――どうやら僕は情けない事にゴミ捨場で眠っていたらしい。
2020-02-23 00:00:01【ウジコ様は告げる】1章★5 「……ここはゴミ捨て場みたいだな。にしても、なんで僕はこんな所で眠ってるんだろ」 何故こんな所で眠っているのか、その経緯は記憶からすっぽりと抜け落ちていた。しかし、起きたとなればこの汚れた場所に長居は無用だ。
2020-02-23 06:00:00【ウジコ様は告げる】1章★6 ふと横を見れば蛍光灯の明かりが寂しく光っており、表への道を示している。よたよたとした足取りで誘蛾のごとく明かりを目指して向かっていく。状況判断は出来るようになったものの、いまだに頭がスッキリしなかった。それどころか脳髄の奥がズキズキと痛む。
2020-02-23 12:00:00【ウジコ様は告げる】1章★7 「にしても、ここは何処のゴミ捨て場だったんだろう? 少しも記憶にないぞ……」 そう口に出してみても、誰一人返答してくれる人はいない。完全に独り言だった。少し寂しく思いながら表に出てみると、世界は金色の彩光に照らされていた。
2020-02-23 18:00:00【ウジコ様は告げる】1章★8 蛍光灯とは比べ物にならない明るさに、夜目に慣れていた僕の目は眩んでしまっていた。二、三度瞬きをしてじわじわと目を慣らす。そして改めてこの眩い世界を端々から眺め、僕は思わず声を漏らしていた。 「わあ……」
2020-02-24 00:00:00【ウジコ様は告げる】1章★9 目の当たりにした光景は華やかなムードに覆われた不思議な通りだった。アーケードのネオンは煌々と輝いて存在感を主張している。行き交う人々によって雑多に賑わっていて、不思議な昂揚感に包まれていた。
2020-02-24 06:00:00