ウジコ様は告げる 1章 ロスとロフィット

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【ウジコ様は告げる】1章★22  怒涛の如く押し寄せる群衆の前に僕は大きくバランスを崩し、仰け反ってしまった。暫くは踏ん張ってはいたものの押し寄せる力に抗いきれず、両つま先が宙に浮いてしまった。もう踏ん張りは効かない。地面に倒れる衝撃を覚悟し、僕は目を瞑る事しかできなかった。

2020-02-27 12:00:00
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【ウジコ様は告げる】1章★23 「――大丈夫ですか。ウジコ様」  大地に叩きつけられる痛みは一向に襲ってこなかった。その代わりに鈴のように通った女性の声と後ろから強く背中によりかかられる感触があり、その支えによって僕はまた踏ん張りが効くようになった。

2020-02-27 18:00:00
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【ウジコ様は告げる】1章★24  背後にいるので姿は見えないが、その少女が助けてくれたようだ。揉みくちゃにされているのは相変わらずだけど。  それにしても、僕がウ、"ウジコ様"……? 一体何のことなんだ……?

2020-02-28 00:00:00
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【ウジコ様は告げる】1章★25 「ご機嫌いかがでしょうか。"ウジコ様"」  抑揚を抑えた口調で語り掛けてくるが、事態が急展開かつ疑問な所ばかりで、こんな状況でご機嫌も何もあったものではない。 「……イマイチ状況がよく分からないです」 「そうですか。――皆様! 押さずにお聞きください!」

2020-02-28 06:00:00
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【ウジコ様は告げる】1章★26  ざわめきに負けない大声で、ピシャリと窘めるように少女は群衆を声で制した。よく通る声だ。少しだけ聞き惚れてしまった。そう思ったのは自分だけではないようで、押してくる人々の力も弱まり、終いには僕から離れて押すものは誰もいなくなった。

2020-02-28 12:00:00
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【ウジコ様は告げる】1章★27  すごい。まるで子供のような気持ちであっけにとられていると、僕の前に一人の少女が躍り出た。  スッと現れたので後姿だけしか見えなかったが、生粋の日本人では持て余してしまいそうな、流れるような美しい金糸の髪が印象的だった。

2020-02-28 18:00:00
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【ウジコ様は告げる】1章★28  布地は灰色だが、枝に白い小さな蕾が吊り下げられているように咲いている花の着物を上品に着こなしていた。その花の名前は失念していて思い出せなかったし、今はそれどころではなくただただ棒立ちでいるだけだった。本当に情けない限りだ。

2020-02-29 00:00:00
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【ウジコ様は告げる】1章★29 「皆様。あんなに押しかけられてしまうと"ウジコ様"の身が危ないと思い、勝手ですが声を張らせていただきました。この事について深くお詫び申し上げます。そして、私の拙い制止をお耳に入れて頂き大変感謝しています」  そう言って少女は深々と腰を折り、頭を下げた。

2020-02-29 06:00:00
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【ウジコ様は告げる】1章★30  その時に一瞬だけ見た横顔はやや日本人離れしているものの、真面目さと柔和さが上手く同居してるような、そんな安心感を与える顔立ちだった。この短時間に僕は彼女の声どころか顔にまで見惚れてしまっていた。そこまで惚れっぽい俗な性格じゃないつもりだけれど。

2020-02-29 12:00:00
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【ウジコ様は告げる】1章★31  しかし、一体彼女が何者なのかわからない限りまだ油断はできないし、そもそもこの状態に関して少しも理解が及んでいないのだ。  彼女は僕を助けてくれた。そしてその理由は僕が"ウジコ様"とやらだから――そう解釈するしかないのだろうか。

2020-02-29 18:00:00
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【ウジコ様は告げる】1章★32 「確かにこの御方は我々の"ウジコ様"に他なりません。しかし、よんどころなき事情により、ここにお越しになるのが遅れてしまったのです」  左手を右胸に添え、右手はゆったりとした動きで掌を上に向け、僕に向けて示した。決して指さない、上品な振る舞いだった。

2020-03-01 00:00:00
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【ウジコ様は告げる】1章★33  だが、見事に退路を塞がれてしまった。あと、よんどころなき事情って、単にゴミ捨て場で寝ていたわけなんだが……。 「随分遅かったから、みんな心配してたんだぜ!」 「主役は遅れてやってくるものです。これも一つの演出としてご理解いただけないでしょうか?」

2020-03-01 06:00:00
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【ウジコ様は告げる】1章★34  涼しい顔で少女は受け答えしているが、ついていけてない僕の顔色はガンガン青くなるばかりだ。 「そして、この場で約束しましょう。必ずや今宵こそ、皆様に"ウジコ様"のお言葉をお伝えいたしましょう」

2020-03-01 12:00:01
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【ウジコ様は告げる】1章★35  おお! と少女の宣告に観衆がどよめく。ちょっと待て。僕をほったらかしてトントン拍子で話が進んでないか? これ以上進むと顔色が土気色になって、死人のような顔立ちになりかねなさそうだ。

2020-03-01 18:00:00
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【ウジコ様は告げる】1章★36 「補佐長様が言うのなら、大丈夫だな!」 「よかったわ。私も"ウジコ様"のお言葉を賜りたくて~!」 「"ウジコ様"からお言葉を受ければ、向こう一年頑張れる勇気を授かるわい!」  群衆は僕を見て勝手に盛り上がっていた。

2020-03-02 00:00:01
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【ウジコ様は告げる】1章★37  少女の話を傍から聞く限りだと、"補佐長"と言うのは少女の事だと文脈で判断はできる。しかし、"言葉を賜る"とはなんだ? 僕が何かを誰かに話さなくちゃいけないというのか?

2020-03-02 06:00:00
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【ウジコ様は告げる】1章★38  完全に困惑して弱り切っている僕を見かねたのか、少女は優雅に一礼する。 「それでは私たちは少々準備がいりますので、この辺で。また後ほどお会いしましょう。では――"ウジコ様"。こちらでございます」

2020-03-02 12:00:00
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【ウジコ様は告げる】1章★39  群衆に告げた後に僕の手を引いて通りを歩いていく。まだ状況も呑み込めていないし、先ほどの人々が手を振って僕を送り出しているのだ。これで逃げ出せるヤツがいたとしたら大したヤツである。無論、僕にそんな度胸は無く、少女についていく以外の選択肢は無かった。

2020-03-02 18:00:00
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【ウジコ様は告げる】1章★40  彼女に連れられてそのまま少しばかり歩くと、僕たちは噴水がある場所にたどり着いた。そのまま僕は噴水の濡れていない縁に腰掛ける。少女は相変わらず両手を前に重ね合わせ、僕の前で姿勢よく佇んでいた。

2020-03-03 00:00:01
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【ウジコ様は告げる】1章★41  「改めて伺います。ご機嫌いかがでしょうか。"ウジコ様"」  「……やっぱり、それは僕の事……なんだよね?」 「他に誰がいますでしょうか。私は貴方様に声を掛けていますが」 「やっぱりそうかー。あと、機嫌に関しては良くないとだけ言っておきます」

2020-03-03 06:00:00
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【ウジコ様は告げる】1章★42  うーむ。ウジコと呼ばれるからには、僕は神道に纏わる人間だったのだろうか。それにしたって全然記憶にないし、そこまで崇められるような人格も持ち合わせてないと思うのだが。もしこれが単に人違いだとするのならば、間違いは早めに正しておかなければなるまい。

2020-03-03 12:00:00
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【ウジコ様は告げる】1章★43 「……君らは僕の事を"ウジコ様"って言うけれど、人違いなんじゃないかな」 「……どうしてそのような寂しい事を言うのですか? 貴方様は我々にとっての唯一無二の"ウジコ様"に相違ありません」  こうも断言されるとは思わなかった。

2020-03-03 18:00:00
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【ウジコ様は告げる】1章★44  目の前立つバカみたいに丁寧過ぎる機械的な喋りに、少しずつ苛立ちが募ってくる。先ほどからウジコ様ウジコ様と連呼されているが、身に覚えがないのだ。 「いや、そんにな盲信されても困るよ。大体、僕の名前はだね……」

2020-03-04 00:00:00
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【ウジコ様は告げる】1章★45  言いかけて、僕の言葉が無意識に淀む。ガチリと冷たく時間が凍えた気がした。先ほどの置いてけぼりとは比較にならない、酷く背筋が寒い感覚が襲ってきた。  ――僕の名前は……なんだ? そもそも僕は誰なんだ?

2020-03-04 06:00:01
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【ウジコ様は告げる】1章★46  何も思い出せないのだ。自分に関する情報が綺麗サッパリ抜けきっているのだ。酔っぱらってゴミ捨て場にいった記憶に関しても、本当に酔っていたのかどうもさえ今となってはまるで分からないのだ。

2020-03-04 12:00:00
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