ウジコ様は告げる 1章 ロスとロフィット

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【ウジコ様は告げる】1章★47  今の僕は二の句を告げずに、ただただ顔色を青くすることしかできなかった。 「ご自身の名前を思い出せないのですか……それは――"無理からぬお話"ですね」  固まりきった僕を尻目に、少女は不可解な事を告げてきた。

2020-03-04 18:00:00
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【ウジコ様は告げる】1章★48  "無理からぬお話"だと? まるで僕が記憶を失う事は必然みたいな言い方をする。それにこの少女は他の人達と明らかに雰囲気が違う。この少女は明らかに記憶喪失になる前の僕の事を深く知っている人物だ。 「……君は何か知っているのか? 僕の事を」

2020-03-05 00:00:00
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【ウジコ様は告げる】1章★49 「ええ、程々に知っております。しかしそれは詮無きこと。とにかく貴方様の仕事は、"ウジコ様"として振る舞い、この一夜の祭りを盛り上げる事です」 「……仕事? 大体ここは何処なんだい?」

2020-03-05 06:00:00
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【ウジコ様は告げる】1章★50  アーケードのネオンが煌々と輝いているのと、遠くからも木霊になって聞こえる喧騒は、商店街で祭りが起こっているのはなんとなくだが分かる。だが仕事として盛り上げろという事は、僕は祭りの主催者側という事になる。

2020-03-05 12:00:00
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【ウジコ様は告げる】1章★51  それは僕が“ウジコ様”と呼ばれているから明白である。問題はその職務について微塵たりとも覚えていないし、盛り上げ方についてもあずかり知らない。それどころか、ここが何処の商店街なのかもまるで理解できていないのだ。

2020-03-05 18:00:01
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【ウジコ様は告げる】1章★52  僕の世界はゴミ捨て場から始まった。看板らしい看板もないから、商店街の名前も分からなかった。  だが、先ほどの僕の発言は失言だったかもしれない。僕の正直な問いかけに少女の両目が悲しみに見開かれて、一瞬だけ俯いたのを僕は見逃さなかった。

2020-03-06 00:00:00
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【ウジコ様は告げる】1章★53 「本当に、何も覚えていないのですね……無理からぬ話と分かっていても、少し堪えます」 「ご、ごめん。そういうつもりで言ったんじゃ……」 「いいのです。ここは『持分商店街』です。今夜、ここで祭事が催されているのです」 「……商店街で、祭事?」

2020-03-06 06:00:00
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【ウジコ様は告げる】1章★54  極力、少女を失望させるような発言は控えたい。だがしかし。いかん。全然結びつかない。商店街で祭りと言えばバーゲンセールとか、それに準ずる何かの催し物だろう。しかし、よくよく周りの店舗を見渡せば、世俗的な感謝祭とは明らかに毛色が違っていた。

2020-03-06 12:00:00
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【ウジコ様は告げる】1章★55  法被を着た童が練り歩いているし、遂には遠方からお囃子の音色が響いてきた。明らかに神道に通ずる祭りだ。端的にいえば、"商店街"ではなく"神社"がやるべき祭りの形式だ。  そもそも感謝祭で"氏子"なる役は場違いなのに、それが受けいれられているのも奇妙な話だ。

2020-03-06 18:00:01
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【ウジコ様は告げる】1章★56 「君と話して分かった事は、ナゾがドンドン深まってしまったって事だよ。話を聞いててもピンともこないんだ」 「大丈夫です。仕事をすれば、次第に貴方様が求める記憶に辿り着く事でしょう」 「そうは言われてもだねぇ……」

2020-03-07 00:00:00
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【ウジコ様は告げる】1章★57 「私は程々に貴方様の事を知っていると先ほど伝えました。仕事と引き換えと言うわけですね」  その"程々に知っている"と言う情報をちょこっと教えてくれるだけでもだいぶありがたいのだが。どうも話す気は無さそうだ。

2020-03-07 06:00:00
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【ウジコ様は告げる】1章★58 「そして恐らく、貴方が"あの方"にお会いでき、会話できる日も、今宵しか残されておりません」 「"あの方"? 今日しかチャンスが無い?」  自分の事すらまともに思い出せていないと言うのに、そのうえ人に会う予定だなんて全く覚えていない。覚えているわけがない。

2020-03-07 12:00:00
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【ウジコ様は告げる】1章★59 おまけに今、その重要人物とは今日しか会えないって少女は言った。その人物は何者なのだろうか。 「貴方はここでウジコ様としての仕事をこなし、そしてある人物に会う為にここに来ている――とどのつまりはそういう事です。それでは、準備はよろしいですか?」

2020-03-07 18:00:00
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【ウジコ様は告げる】1章★60  そう言って少女は左手を差し伸べてきた。少し強く握れば壊れてしまいそうな、嫋やかな手だった。僕はその手を無言で見つめていた。

2020-03-08 00:00:00
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【ウジコ様は告げる】1章★61 「……ウジコ様?」 「……知っての通り、僕には記憶が無い」 「はい。存じております」 「率直に言ってしまえば、知ってる事よりも知らないことが圧倒的に多い。だから現時点では、疑問とか憤りと言った気持ち悪い感情の方が強いんだ」

2020-03-08 06:00:00
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【ウジコ様は告げる】1章★62 「急かすような物言いで気分を害してしまい、申し訳ありません。しかし、今回は一夜にしてやらねばならぬ事があまりにも多すぎるのです。どうか今夜だけは"ウジコ様"でいてくれないでしょうか。お願いします」  そう言って少女は深く頭を垂れた。

2020-03-08 12:00:00
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【ウジコ様は告げる】1章★63 「……二つ確認したい事があるけど、いいかな?」 「はい」 「記憶が無い僕じゃ、君が期待するほどの仕事は出来ないかもしれない。それでも務まるものなのかな? "ウジコ様"って」 「! はい。それは貴方様にしかできない、代わりなんていない存在なのです」

2020-03-08 18:00:01
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【ウジコ様は告げる】1章★64  僕にしかできない存在ときたか。なんだか詐欺師の常套句のような事を言い出したと思うのは、少々穿ち過ぎだろうか。  しかし、人々総出が僕をからかっているとは思えないから、昨年は勿論、毎年のように僕は"ウジコ様"として振舞っていた事になる。

2020-03-09 00:00:01
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【ウジコ様は告げる】1章★65  しかし今年は絶賛記憶喪失状態にあるわけで。こんな状態で果たしてまともに“ウジコ様”が務まるのだろうか? 不安が募るばかりだ。

2020-03-09 06:00:00
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【ウジコ様は告げる】1章★66 「二つ目なんだけど。君は僕の事をよく知っているみたいだけれど、僕がそのウジコ様として働いたら、知っていることを分かり易く話す事を約束してくれるね?」 「……ええ。仕事を一つ完遂するたびに、答えられる内容であれば質問に答えましょう」

2020-03-09 12:00:00
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【ウジコ様は告げる】1章★67  僕からの質問を先読みするかのように少女は謝罪を口にする。 「……申し訳ありません。今は全てを話す訳にはいかないのです。補佐する立場で立場である以上、私の口からは申し上げにくいのです。ですが、話すべき時が来た場合に、全てを話させてもらいます」

2020-03-09 18:00:00
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【ウジコ様は告げる】1章★68 「ふむ」少しだけ僕は考える。  この商店街ではウジコ様が例年の行事として浸透しており、他人ならまだしも、今までの自分がそれをこなしていたのだ。そして少し前の僕は一体何者だったかのかについては、興味がある。

2020-03-10 00:00:00
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【ウジコ様は告げる】1章★69  全てをいっぺんに教えてもらう事は出来そうにないが、仕事をすればそれを教えてくれると少女と約束を取り交わした。となれば、これはやるやらないの話ではなく、やらなければならない仕事なのだろう。

2020-03-10 06:00:01
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【ウジコ様は告げる】1章★70  僕は彼女に対して左手を差し出し、優しく握った。 「分かった。全く先は見えないけれど、そのウジコ様というのに精一杯挑戦してみるよ。だから今一度、『仕事』とは何なのかとか、その他色々詳しく教えてほしい」

2020-03-10 12:00:00
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【ウジコ様は告げる】1章★71  考えてみれば、彼女は余計な事を言っていた気もするが先ほどの群衆から助けてくれたのだ。助けられてはいオシマイと言うのは男として不甲斐無い話だ。恩返しとして僕は彼女の役に立つ事をするべきだ。例え騙されていたとしても、である。

2020-03-10 18:00:00
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