ボッカッチョ『デカメロン』(平川訳、上中下巻合本Kindle版)読書メモ(2020年3月7日〜3月14日)
(承前)「それは長崎丸山遊郭の美女が「海を越えた艶ごと」として清朝中国の文人の間でも名を馳せたのと似たような関係にあったのではあるまいか。」
2020-03-12 09:57:21第9日第2話の要旨。「男と寝ているという噂の尼僧イザベッタの現場を押さえようと尼僧院長は暗闇の中を急いで起きる。ところが尼僧院長自身が坊様と一緒の寝台に寝ていたからヴェールをつけたつもりで男のパンツを頭に穿いてしまった。(続く)
2020-03-12 13:52:46第9日第3話の要旨。「シモーネ医師はブルーノとブッファルマッコとネロに唆されて、カランドリーノに妊娠したと思い込ませる」とあるが、シモーネ先生は後者2人に散々馬鹿にされてひどい目にあったはずでは?いつ2人と一緒に人を騙すようになったのか?…とマジレスしても無意味なのは承知している。
2020-03-12 14:09:32第9日第4話冒頭。「カランドリーノが妻についていった言葉は全員の大爆笑を誘いました。」→ 「奥さんの密かな楽しみ」については詳細な引用はしないが、そうかそこが笑いどころだったか…シモーネ医師が悪い連中のグルになったことに気を取られすぎた。
2020-03-12 14:24:29第9日第5話冒頭。「ネイーフィレのあまり長くない話が終わりました。一行はさほど笑うでもなくさほど論評するでもありませんでした」→注1「デカメロン』中で聞き手から称讃されない唯一の話」「第九日第四話に対する否定的評価というよりもチェッコ・フォルタリーゴに対する反感と見るべきだろう。」
2020-03-12 14:38:00第9日第6話。「もう一人はまだ小さな一歳足らずの男の子で、母親が乳を飲ませていた。」→中田元子『乳母の文化史―一九世紀イギリス社会に関する一考察』(人文書院、2019)を参照。14世期のヨーロッパで、自分で授乳するということの社会的意味。
2020-03-12 15:13:23第9日第8話。「それでわたくしは昨日パンピーネアが語られた学者さまが行なった厳しい復讐の話に感銘を受けましたので、それほど猛々しくはございませんが、それでもやられた方には相当手痛い復讐の話を申し上げます。」あれはめっちゃキツい「復讐」なのだけど…「感銘」の原語と文脈の再検討が必要。
2020-03-12 15:28:41まあ、『デカメロン』の語り手たちには、例外を除けば、キャラクターとしての個性はないというのが訳者の理解だし、実際そうだろうと思うから、マジレスは野暮の極みなのではあるが。
2020-03-12 15:30:33第9日第8話。「ビオンデロと呼ばれた金髪男がいた。体は小造りだが、非常な伊達者で、銀蠅よりもつやつやとして」→注1「蠅が絶えず脚で体をきれいに磨いているように見えることと、古代ローマの頃から他人の家に寄食する者を「蠅」と呼ぶ言い方があったからだとBrancaはいう。」
2020-03-12 16:31:05第9日第9話は、14世紀の作品として了解するしかない。もっともこの作品、男も女もお互い引っ掻き、殴り合い、どつき合いではある。
2020-03-12 16:43:51第9日第10話冒頭。「女王が話したこの物語を聞くうちにご婦人方は多少の呟きを洩らしましたが若い殿方はお笑いになりました。」ボッカッチョ先生、ひどい話のあとには意外とこういうフォローを入れている。
2020-03-12 16:52:42第10日第2話注7。「法王ボニファチオ八世はダンテの最大の政敵で『神曲』中にも再三再四言及される(中略)しかしここではまともに正面から描かれている。ボッカッチョの筆になるボニファチオ八世像はダンテの筆になる像とイメージが甚だしく異なる。」これはそうだなあと納得した。
2020-03-13 15:42:41第10日第2話注10。「神曲』煉獄篇第二十四歌二四行以下に法王マルティーノ四世(在位一二八一一二八五)が、鰻が好きでボルセーナ湖から取り寄せては白葡萄酒に漬けて溺れさせ料理させた食道楽の罪を浄める話が出ている」らしいが覚えていない…寿岳訳『神曲』を斜め読みしただけだからなあ。反省。
2020-03-13 15:58:01第10日第3話。「インド」より遠い「カッタイオ」、つまり中国が出てきた。「何人かのジェーノヴァ人や東方に旅したことのある人の言葉を信ずると、カッタイオの土地にはかつて比類なく高貴な血筋で、裕福な、ナータンという名の人がいた。」注1によればマルコ・ポーロ『東方見聞録』の影響だという。
2020-03-13 16:04:50「カッタイオ」は英語のCathay、香港を拠点とする航空会社「キャセイパシフィック航空」の「キャセイ」のこと。
2020-03-13 16:11:58第10日第3話注1。「カッタイオ」が舞台だが「ただし登場人物の名前のナータンはユダヤ系であり、性格描写にも中国風なローカルな色彩は皆無である。というか、この話の出典は中近東の説話であるという。」→レッシング『賢者ナータン』は12世紀エルサレムが舞台。
2020-03-13 16:30:58第10日第7話冒頭。「〔第6話の〕フィアンメッタの話は終わりとなり、カルロ王の俠気のある寛仁大度は人々の褒めそやすところとなりました。ただし皇帝党に属するお家柄のご婦人一人だけはそっぽを向いて口を噤んでおりました。」教皇派と皇帝派の対立がこの男女10人中にもあることは初出なはず。
2020-03-13 17:07:39第10日第7話注1。「フィレンツェ内部の激しい党派対立はダンテ『神曲』中にはなまなましく語られるが、その半世紀足らずの後に書かれたボッカッチョ『デカメロン』では法王党と皇帝党の対立抗争は昔の思い出として穏やかに語られるのみである。というか物語と物語を織り成す道具立て」でしかない。
2020-03-13 17:33:15第10日第7話注1。「政治的見解を述べるに際して自党の正義を強調しがちな、self-righteousな気味なしとしないダンテと寛容なボッカッチョの差がうかがわれる。」なおどちらも「坊様」批判には容赦がない模様。
2020-03-13 17:37:51第10日第7話注10。ピエートロ王の話は良く、「読者により見方は微妙にさまざまであろうが、二人のシエーナの男が二人の妻を共有することで終わる第八日第八話や特に一人の青年が夫婦二人の性的な相手をさせられることで終わる第五日第十話で、これらが気持の悪い読後感を残す」。まさにIt depends.
2020-03-13 17:45:18第10日第9話。商人姿でヨーロッパを周遊するサラディン。「サラディン一行は海に入り、アレクサンドリアをさして帰国した。そして西洋事情に通暁する者として十字軍の渡海に対する防衛対策に任じたのである。」『水戸黄門』、ではないな。トレロ騎士の饗応を受けるだけだから『奥の細道』でもないし。
2020-03-14 07:32:01第10日第9話。「サラディンはいま一度トレロ騎士に接吻し、魔法使いに急ぐように命じた。こうしてサラディンが見ている御前でその寝台はトレルロ騎士とともに突然すべてが虚空に消え去ったのである。」そして瞬間的に故郷のパヴィーアに戻ると。これまではこういうガチな魔法の話はなかったな。
2020-03-14 07:43:10