封印された闇の王が目覚めないうちに殺そうと思う話（#えるどれ 番外編）

帽子男 @alkali_acid

エルフの女奴隷を代々受け継ぐ家系のウハウハドスケベファンタジー togetter.com/li/1479531 略して #えるどれ は無事完結しました。 なので適当にまた別の小話をしていきます。 好き勝手に。

帽子男 @alkali_acid

「封印された闇の王が目覚めないうちに殺そうと思う話」 はい。という訳で今日はね。 ファンタジーとかでよくある「光と闇の勝負のすえに闇の王が封印された！…そして数百年が流れた」みたいなね、場合にね、なんで闇と戦ったやつらの子孫は、また闇の王が目覚めるの待ってるの？ちゅう話をね。

帽子男 @alkali_acid

いや、とどめさしとけや。 だって動けないんだよ？闇の王寝てる訳ですよ？ それで封印解けて復活してからだと倒すの大変じゃん？なんで何もせず待つの？倒しとけよ。 封印に成功した直後から、目覚めさせずに倒す方法を死ぬ気で研究しろ。ゲームをやりこんでる歴戦の頭の良いオタクなら絶対思う。

帽子男 @alkali_acid

「封印されてる状態だとダメージを与えられない」 とか 「逆に目覚めさせる恐れがある」 とか いやそういう予防線は解るよ。解るけども、そこは工夫のしどころじゃん。何もせずに現状維持という選択肢はね、はい、やっぱ賢い男なら突っ込みますわ。鋭く。鋭くね。びしっと。現実見えてるから。

帽子男 @alkali_acid

ましてよ。いざ何かあったら自分が剣をとって世界を救わなきゃいけない王子とかなら、普通に先手打つわなあ。のんびり過ごさずに。 「闇の王が寝てるうちにとどめ刺して殺そうと思う」 そういう王子がいてもおかしくない。しかももちろん一人ではやらない。 「まーじで？」 ちゃんと仲間と相談。

帽子男 @alkali_acid

「まじ。いや、長老とかはすげえ“あそこに近づいてはならん”みたいなこと言ってるけど、どう考えても放置しておく方がやばいでしょ。つかそんなこと言っても馬鹿は近づくし、早めに処分しない選択肢はないわ」 「確かに。言われてみると馬鹿すぎるな…迷信深い年寄り系は」

帽子男 @alkali_acid

「俺ぐらい叙事詩を履修してたらだいたい今後の流れ読めるんだけど、封印された災いって絶対目覚めるし絶対皆そうなってから慌て出す」 「あー解る。すげえ解る。いらいらするよなその無策の流れ」 「そういうさあ、つっこみどころをね。先に潰してって欲しい訳」 「お前ぐらい“見え”てればだろ」

帽子男 @alkali_acid

王子は肩を竦める。 「ま…俺はちょっと“見え”すぎちゃってるかな。すごい似たような叙事詩とか芝居研究しまくったからさ…ただここでありがちな失敗は」 「なになに？」 相棒、ちなみにこっちも王子が尋ねる。

帽子男 @alkali_acid

「闇の王が寝てるうちに倒そうとして逆に目覚めさせちゃうやつな」 「あーあるわー。それもある」 「ま、俺はその流れも“見え”ちゃうぐらいすげえやり込んでるから」 「お前ほんと頭いいよな。まじやり込んでねえ奴等とは格が違うわ」 「いやこんぐらい、やり込めば普通だから、物語を」

帽子男 @alkali_acid

やり込み王子、めんどくさいから名前をつけるとフィンルードは、尖った耳をぴくりと動かし、切れ長の瞳を瞬かせる。 そうエルフだ。 不老不死なる妖精族。故にやり込みもはんぱではない。 「俺は、そういう脇の甘さにいらいらする…ちょっと厳しめのやり込み勢だからさ、闇の王に無策で挑まない」

帽子男 @alkali_acid

「え、やべーじゃん。先の先まで読んで、不安要素潰しにいってんじゃん…ある意味最強じゃね」 「ま…ちょっと冷静に考える頭があればさ…しょうもない間違いは避けられんだけどさ。なぜか皆やんねえんだよな。あれいらつくよな。そういう安易な展開俺だめだわ」 「そんでどうすんの」

帽子男 @alkali_acid

相棒王子。ちなみにディダーサは問いかける。 「ま、闇の王を確殺できる伝説の武器を速攻で調達するわ」 「あ、めんどくさいやつじゃね」 「いや、俺あの無駄に回り道してあれこれ下らない話聞いて回るやつも無理なんで…やらなくていいのは全部飛ばして最短距離で攻めるわ」 「だよなあ」

帽子男 @alkali_acid

「ま、こういうのも、“見えて”ないやつは逆に焦ってこけるんだけど、俺はだいたい“見え”てるから余裕」 「おいおいやり込みにもほどがあるだろ」 「そんじゃ行くか焔の神殿」 「うわいきなりそこからか」 「ほか要らないでしょ普通に考えて」

帽子男 @alkali_acid

フィンルードとディダーサは小さい頃から一緒に遊んでいる仲だ。 どちらもエルフの王子である。 二人は西の果ての至福の地、争いも悲しみもない平和な世界に育った。 大昔にははるか東で光と闇の戦いがあり、色々大変だったが、最後に妖精王が悪の親玉の黒のなんとかいうのをボコボコにして勝った。

帽子男 @alkali_acid

その後妖精は、かわいそうな人間とかいう闇に苦しめられていたしょぼい種族に東の地を譲ってやり、さっさおうと西の果てに去り、そっちで光とともに永遠の繁栄を手にした。 めでたしめでたしだ。 末永く幸せに暮らしましたとさ。 しかし末永い幸せというのは、慣れてくるとわりと退屈である。

帽子男 @alkali_acid

特に妖精族が西の果てに来てから産まれた若い世代は、まあやることがない。 何せ不老不死の種族である。千年以上前の天才が今でも皆現役、武芸も園芸も工芸も文芸も音楽も絵画も彫刻も、とにかくどこもかしこも古参の有能がもりもり仕事を続けており、よほどの能力がないと伍していくのも難しい。

帽子男 @alkali_acid

光と闇の戦いで名をはせた英雄なんぞが、至福の地の未踏の海や陸を冒険に出かけるが、そこにも百戦錬磨の騎士とかが主だし、若者は見所のあるごく少数が参加できるだけだ。 要するに青少年はあんまりすることがないのである。

帽子男 @alkali_acid

フィンルードは、武勲赫々たる英雄、狼討ちギリアイアとその第四妃である海の歌姫ファルンケの息子、ディダーサはこれまた英雄、竜殺しのスラールとその第三妃である青が原の薬師ヤチェミテの息子で、それぞれ血筋は立派だが、やはりひま。

帽子男 @alkali_acid

王族の常としてだいたい親戚同士なので、よくつるんで遊んでいる。 武芸の鍛錬所である弓の庭、学問の修行所である書の杜にもともに通い、ともに度胸試しのいたずらで教師の尻を触ろうとしてしこたま怒られたりしていた。

帽子男 @alkali_acid

フィンルードは趣味があり、叙事詩とか芝居とかをもりもり鑑賞する。特にしょうもない冒険譚が好きだ。あと恐怖系。影の国の死人占い師が歩く亡者を沸かすやつはだいたい五百種類ぐらい知ってる。 「ひまだからって作りすぎなんだよなあ」 「全部見聞きしたのやばいでしょ」

帽子男 @alkali_acid

「いやー…もう見過ぎて先の展開全部読めるわ。つか亡者に噛まれると自分も亡者になる展開で弓使わずに剣で戦うの阿呆すぎる」 「しょーがねーって、フィンほどやり込んでねえし、作者フィンほど頭よくねーし」 「ま、俺が“見え”すぎなんだけどな…」

帽子男 @alkali_acid

フィンルードはどこか寂しげに笑う。 「逆にこうなっちゃうと寂しいんだよなあ」 「わかる」 ディダーサは正直そこまでやり込んでないけど相槌は打つ。楽しいので。

帽子男 @alkali_acid

「でも焔の神殿て男はあんま入れねえだろ。あそこの主の焔の男神は、頭と腕と顔がいい女しか側に近づけないって話じゃん」 「あ、そこの攻略は隠れ蓑あれば省略できるから」 「やっべ…無駄ねえわ…」 「やり込んでるとそういうの全部飛ばせるから」

帽子男 @alkali_acid

隠れ蓑。光と闇の戦いで、光の英雄が黒のなんとかいう闇の親玉を倒すのに使った呪具のひとつ。姿形はもちろん気配まで完全に消せるとんでもない性能があり、秘密の場所に厳重に封印してあったが。 「うちの母親に頼んで父親から聞き出してもらった」 「まじかあ…策士じゃん」