IS-3重戦車採用75周年記念! IS-3開発経緯のおはなし

戦後の各国戦車開発に大きな影響を与えたIS-3重戦車ですが、その開発経緯や意図はちょっと複雑だったりとかいうおはなし
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えすだぶ@C103日曜東3"サ"-58a @FHSWman

火力! さて今日はIS-3重戦車制式化75周年記念日です。1945年3月29日に発せられた国家防衛委員会決定大7950号「IS-2重戦車の近代化について」によりIS-3重戦車は赤軍制式装備となりました pic.twitter.com/0cOMTodY7q

2020-03-29 12:20:19
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決定の題からも分かるようにIS-3はIS-2の近代化プランと言う位置づけなのですが、その出所はちょっと複雑です。まず当時のソ連での次期重戦車計画の本命は後のIS-4ことObject701でした。これはIS-2とは完全に独立した、全く新しい重戦車をゼロから作ろうというもの pic.twitter.com/SJ0LRR5b3w

2020-03-29 12:25:30
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しかし完全新規に重戦車を開発するには時間がかかる一方、現有するIS-2の防御力が不足していることは登場した瞬間から明らかでした。そこでObject701の開発開始と同時に、より迅速に実施できるIS-2近代化という方向性の研究も開始されたのです。これが1944年4月8日のこと

2020-03-29 12:28:57
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しかしIS-2の近代化プランといっても、どれくらい手間をかけていいかは議論の余地があります。小規模なものでは車体前面装甲の直線鼻化、より大規模なものでは前面を尖らせたIS-2U。さらに過激なプランではIS-2の近代化という枠を超えてIS-4に匹敵する規模に膨らみ、これは後のIS-6に繋がります pic.twitter.com/oI7Y6pYTOd

2020-03-29 12:41:00
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そんな風にIS-2近代化プランは乱立していた訳ですが、その中で「既に研究が進んでいるObject701(後のIS-4)で得られた知見をIS-2に当てはめて近代化すれば迅速に防御力を強化できるのでは?」という方向性も考えられるようになります。この計画は701がベースなのでObject701Aと呼ばれるように

2020-03-29 12:52:59
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しかしObject701Aは701(IS-4)ベースのIS-2近代化プランとは言え意外に独特で、IS-4との類似点は操縦席まわりの装甲配置くらいに留まります。砲塔の形状はIS-2ともIS-3とも異なる独特のもので、これには「開発者が石鹸箱を見ていて思いついた」という伝説がありますが、真相は謎 pic.twitter.com/hi3ipcU8rq

2020-03-29 13:04:18
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Object701Aの試作車は1944年11月末には完成し、翌月には試験が行われます。この頃になると703という独自の番号が与えられ、またIS-3とも呼ばれるようになっていたようです。しかし番号が変わってもIS-4に由来する車体前面装甲形状はそのまま。これがIS-3試作車の特徴なのですが、少し誤解もあって pic.twitter.com/lgHyDWMbMa

2020-03-29 13:15:00
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IS-3試作車は平面的な車体前面装甲が特徴です。後の生産型では楔型鼻に変更された事から、この平面鼻は防御力が不足していたのだと勘違いされる事もあるのですが、実際にはここの防御力は十分以上であることが確認されています。むしろ防御力が足りていなかったのは砲塔のほうなのです pic.twitter.com/HlSQKRYp1c

2020-03-29 13:19:46
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IS-3試作車では砲塔が弱すぎたので強化したいが、その代わりにどこかを軽量化しないといけない。そこで元の平面型前面装甲から防御力を落さずに軽量化する方策として採用されたのが「川カマスの鼻」型車体装甲。車体がまずかったのではなく、砲塔装甲問題の解決の為に裏技めいて車体をいじったのですね pic.twitter.com/lcV3qNoFPw

2020-03-29 13:30:49
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兵器開発でこういう例は意外にあって、「見た目が派手に変わっている箇所=問題があったので変えたかった場所」とは限らないのです。ある分かりにくい所の問題を解決した結果が別の場所の外見に現れたりもする

2020-03-29 13:35:39
えすだぶ@C103日曜東3"サ"-58a @FHSWman

というわけでIS-3は元々はObject701(IS-4)のエッセンスをIS-2に投入して近代化したものだった筈が、最終的にはIS-4の要素がすっかり抜けちゃったのでした。IS-3はIS-2の発展型であると当時に、IS-4の独り立ちした子でもあるのです

2020-03-29 13:40:59
えすだぶ@C103日曜東3"サ"-58a @FHSWman

IS-3といえば「成形炸薬対策の空間装甲を大々的に取り入れた戦車!」と言われたりもしますが、あの車体側面のスクリーンの第一の目的はあくまで徹甲弾対策だったりします。無くても距離150mからの8.8cm L/71砲徹甲弾に一応は耐えられるんですが、あまりにもギリギリで防御力に余裕がないのです pic.twitter.com/fMjHfLQLUC

2020-03-29 17:31:31
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それに加えてIS-3の車体袖部の逆傾斜装甲なんで、スクリーンが無いとここ榴弾を直接貰った時に履帯すぐ上で爆ぜちゃうのでまずい。そこでその前にもう一枚足して榴弾が外で爆ぜてくれるように、と期待された訳です。成形炸薬弾への防御効果も当時言及はされてるけど、あくまでおまけ扱いです pic.twitter.com/jGldsSax2Z

2020-03-29 17:36:54
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あとIS-3量産車の「川カマスの鼻」型の車体にはショットトラップ対策の意味もあったみたいです。試作車の平面型前面装甲形状だと車体天板の前端が砲塔より前に出てるんで、そこに跳弾が入る可能性が心配されたと。量産車のスタイルなら天板の露出部分が極限されてるのでショットトラップが起きにくい pic.twitter.com/j7ASYbdnLb

2020-03-29 17:44:09
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IS-3試作車の砲塔装甲厚は下から175mm曲面、120mm50度、90~100mm58度、175mm15度という感じに変化してます。防盾付近は概ね170~175mmなんで、8.8cm L/71相手にはまだ足りない。そこで量産車では車体前面装甲を楔型に変える事で軽量化し、その重量余裕を使って砲塔装甲を220~240mmに強化したわけです pic.twitter.com/Z9iLiuiWKX

2020-03-29 18:03:05
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えすだぶ@C103日曜東3"サ"-58a @FHSWman

しかし120mm厚60度傾斜の車体装甲に対して砲塔装甲は当初175mm15度で済ませてしまってたというのが、どうも当時のソ連戦車開発界隈でも大傾斜装甲の防御効果見積もりがうまく行ってなかった感じを漂わせるです。60度とか大きく傾けた板の防御力を妙に低く見積もりがちだった気配がある

2020-03-29 18:06:35
えすだぶ@C103日曜東3"サ"-58a @FHSWman

大戦期ソ連戦車は傾斜装甲をとても好んでいた一方で、意外にも火砲の対戦車能力を見るには30度傾斜装甲を基本としていて、それ以上の大傾斜装甲の防御力はあまりきちんと検証できてませんでした。パンターの登場に伴ってようやく「この基準は現代に合わないし見直すべきでは?」みたいな話が出てきたり

2020-03-29 18:12:54
えすだぶ@C103日曜東3"サ"-58a @FHSWman

IS-3の開発時期はちょうどそのへんの見直しが始まる頃と重なるので、試作車では砲塔防御力がイマイチ吊りあってない感じになっちゃったんすね。T-54も似たようなところがあって、大傾斜モリモリにできる車体は防御力抜群だけど砲塔は追い付いてなかった

2020-03-29 18:16:14
えすだぶ@C103日曜東3"サ"-58a @FHSWman

IS-3は火力面ではIS-2に比べてほぼ進歩がないんで(弾薬配置の合理化くらい)、戦車砲に着目する限りでは書けることがなくて『大祖国戦争の赤軍戦車砲』シリーズでは書きようがない車両なんですが、でも砲抜きでも開発経緯は結構面白いんでなんか書いてみたい気がするのです

2020-03-29 18:18:52
えすだぶ@C103日曜東3"サ"-58a @FHSWman

IS-3は戦後の各国の戦車開発が無茶苦茶に引っ掻き回したわけですが、そのIS-3の防御力の目指したところは8.8cm L/71対戦車砲に対する完全防御。ってことは、元を辿れば大体こいつがわるいのです pic.twitter.com/jnGJZ1UHIb

2020-03-29 20:25:59
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