誰も語らなかった『ポピーザぱフォーマー』制作秘話―デジタル製作チーフかく語りき―

以下の文章は2018年に『ポピーザぱフォーマー』監督の増田龍治氏インタビューがニュースサイトで公開されて話題になった時、元瑞鷹のCGデザイナー村井昌平氏(※本作のCGは途中まで彼1人が社内で全て作っていた)がTwitter上でひっそりと明かした制作秘話です。大変興味深い内容なので書き起こしてみました。また監督のインタビューを補完する内容にもなっているので増田氏の証言と併せてご覧ください。
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村井 昌平 @murai_shohei

トラウマアニメ 『ポピーザぱフォーマー』の真意 jp.vice.com/lifestyle/pope… @VICEJapanさんから この記事中で倒れたりしたCGデザイナーですが、この記事を見て思う所もあり、まとめてみましたので以下に。

2018-06-20 20:36:12
リンク Vice トラウマアニメ『ポピーザぱフォーマー』の真意 こども・アニメ専門チャンネル〈キッズステーション〉で、2000年に放送された短編CGアニメーション『ポピーザぱフォーマー』。ネットでは〈検索してはいけない言葉〉とされ、子ども向けアニメらしからぬ過激な描写ばかりが話題になる同作だが、監督は、『ポピーザぱフォーマー』で子どもたちに何を伝えたかったのだろうか? 345 users 307

省力化について

安心モデル制作、緊急CGアニメーション、涙の編集の村井昌平です。

お話でなるべく作業が楽になるよう考えてもらえたのは有難かったのですが、繰り返しで同じシーンを使うパターン以外はあまり省力化にはなってませんでした。

太陽を半分にして画面の半分を影にしたのはお話的にはとても面白かったですが、キャラが見えてる側に寄るだけなのと、真横からでなく斜めから見せるカットが多い上に境界をぼかしてくれと言われたので影はフォグで表現する事になり、逆に重くなりました。そもそも普通のカットのレンダリング時間は大抵1枚10秒以内で済んでいました。

「STOP THE GUN」ではタイムスリップの度にケダモノが倍々で増えるので使いまわしが出来る以上にシーンが重くてえらい事になりました。全然楽では無かったです。面白かったですけども。

ちなみにポピーの指が3本なのは省力化ではなく確か一番最初のスケッチから3本でしたよ。でも指が3本なのは実際助かりました。たまに持つのが大変な物もありましたが。銃とか。ライティングも省力化の為、基本はカット毎に新たに手を入れずに済むよう先に考えて作っていました。後半では少し余裕が出てきたので場面によっては改めてライトを追加・調整しています。

一般に3DCGでは影が黒くなりがちですが、ポピーでは絶対に影が無彩色の黒にはならないように工夫しています。明るい印象にする為ですが、一部で陰惨な印象を与える為にわざと黒にしている所もあります。

続篇について

ポピーザぱフォーマーの続篇の話があったというのは自分も聞いてはいますが、正直やっぱり難しいんじゃないかと思いますね。まずは増田さんが話を作れるかどうか。それから作る人間の体力的な部分で、予算と人を増やせば確かに楽に作れるようにはなるでしょうが、果たして楽に作った物が同じだけのテンションを維持できるのかどうか。

苦しめば良いという物ではないけど、本気で魂を込めてギリギリまで自分を追い込まないと出来ない物も中にはあります。ただ誰かに自分と同じだけ苦しめと言うのも忍びない。しかし今自分が前と同じ事をやったら今度は死ぬかもしれない…

また少人数だからこそやれたという事もあって人数が多くなると意見やイメージの統一が難しくなって来ます。

それからマシン環境や技術的には以前より格段に上がっているのでやろうと思えば前より遥かに綺麗には作れるでしょうが、もし綺麗にリアルに作ったら、「残酷? 何を言ってるんですか 所詮ポリゴンですよ」という誤魔化しが利かなくなって場合によっては不味い事になるかもしれません。

あの画面作りは、軽くする必要性とチープでポップなデザインとキャラクター性のギリギリのバランスで成り立っているので、何かを変えたら他も変える事になるでしょう。イメージを崩さずアップデートするのは相当難しいのではないかなあと思います。

予算について

超低予算でしたが、これはポピーが実験だったからです。瑞鷹が自腹を切ってもし大失敗したとしてもそれ程痛くないギリギリの金額でした。増田家への月10万円は原作料を買い切りにしなかった為の数字です。

買い切りにしていればもう少し上がったはずですが、そうしなかったのは結果的には正解だったと思います。DVDが売れた際にその取り分の収入があったはずなので。

ただ苦労に見合う額だったかというと微妙な所かも知れないですね。

ちなみに全体の制作費も1本で10万円でした。音楽やテープ出力などのお金もここに含まれます。

一方瑞鷹社員だった自分達は予算とは関係なく会社から給料をもらっていました。その代わりいくらDVDが売れてもリターンはゼロ。DVDが売れた時やその後コロムビアのゴールドディスク大賞をもらった時には社長のポケットマネーで金一封頂きました。DVDが3巻で13万枚以上売れたのには本当びっくりしました。

増田さんの持ち味と制作方針について

死がシュールのくだりで恐らくみんな気付いたと思いますが、お察しの通りまず間違いなく増田さんはサイコパスです。葬式で知人の死に顔を見て吹き出してしまった蛭子さんと同種の人間です。感覚も視点も大抵の人とは違う。もちろんそれが悪いという事ではなく、だからこそ作れる面白い話があるんです

ただサイコパスがそのまま突っ走るとサイコパスにしか分からない話が出来てしまう事がちょくちょくありました。

実家の熊本から送られてきたコンテを瑞鷹内の会議で開いてみんなで頭を抱えて「……分からない!!」ってなる事はしょっちゅうありました。しかし誰にでも分かる話を書いてくれと言ってはせっかくの持ち味を殺してしまうので、増田さんにはひたすらそのまま突っ走ってもらい、それを吉田さん始め瑞鷹内のみんなで分解再構成しつつ一般人や子供にも分かるような形に翻訳して作るということが多かったです(中には「DREAM」などほぼそのままで問題無く、しかも面白い話もありましたが)。またそのままでは4分の枠に収まらない事も多く、これをちゃんと構成して収めるのは吉田さんの仕事でした。

この辺、多分増田さん的には面白くなかったはずで、ステイン(引用者注:増田龍治の次作『ガラクタ通りのステイン』のこと)以後は直接指揮する形にしていると思います。ポピーと以後で作品の雰囲気が異なるのにはそういう事情もあります。

恐らくみんなが想像するのと違って実は増田さんはお話のかなりの部分を計算で作っているそうです。あの話が計算で作られているなんて逆に怖いと思いませんか? 頭の中には今までに見た膨大な作品のデータベースがあるようです。増田作品にはいろんな映画など(ホラーが多い)のオマージュがちりばめられていたりするので探してみると面白いかもしれません。

あとこれはおそらく増田さんは与り知らぬところですが、自分や瑞鷹内ではポピーを本気で「子供向きアニメ」として作っていました。相手がキッズステーションである事もありますが、本気でヒットを狙うのに子供というターゲット層は絶対に外せなかったからです。また子供相手に子供騙しが通用しない事もよく分かっていました(ハイジの会社ですからね)。クレクレタコラやカリキュラマシーンなどを参考映像として研究していましたが、カリキュラマシーンはまさに大人が本気で子供向きに番組を作っていました。子供目線で子供にも理解できるように作る事。それができれば逆に大人の心にも届くだろうという事でこれも一つの目標でした。

あと、とにかくまずは目立つ事。嫌われてもいいから見た人の印象に残る事。心に何も引っかからず流されるのが一番不味い、という事でこれも重要事項でした

村井 昌平 @murai_shohei

ポピーザぱフォーマーの製作陣や増田さんがキッズステーションが子供向きの局だと知らなかったとか言ってる人が時々いるけど、知らなかった訳無いじゃないですか。 知っててあれを突っ込んだんですよ。

2022-10-17 01:07:42
村井 昌平 @murai_shohei

「子供向きなのか何だかよく分からないけどともかくヨシ!」ってGOしてくれたのはキッズの担当者さん(添田さん)ですよ。おかげで助かったけど。 でも自分は(本当にあれで大丈夫だったんですか?)ってヒヤヒヤしてました。ウケてくれて本当に良かった。

2022-10-17 01:07:42
村井 昌平 @murai_shohei

そもそもキッズステーションの方で欲しかったのは5分程度の穴埋め作品でした。番組を編成する時に5分や10分といったサイズの隙間がどうしても発生するのでそれを埋める物が必要だったんです。CMで埋めるにも限界があるので。だからポピーの予定の5分尺はちょうど都合が良かった。

2022-10-17 01:07:43
村井 昌平 @murai_shohei

なので本当は穴埋め程度の作品で十分だったし、予算もそれ相応、そこまで期待もされてなかったと思います。 そこに全力で作った物を突っ込んだんですよ。 いやー面白かったなあ。

2022-10-17 01:07:44
村井 昌平 @murai_shohei

ついでに言うと、ポピーはキッズに出資してもらう代わりにいつまでと放送期間を決めずに何回放送してもOKというお互いにWIN-WINな契約でした。だから終了時期がよく分からないのです。再放送は2007年ぐらいにはまだやってたと聞いた気がします。

2022-10-17 01:07:45
村井 昌平 @murai_shohei

子供向きじゃないという意見あると思うんですけど、増田さんは初めからあんまり子供向きにという事は考えて無かったと思います。そもそも放送枠より企画が先ですしね。 それでも自分や瑞鷹内の制作陣は、なんとか最低限は子供向きと言い張れなくもない体裁は整えたつもりです。

2022-10-17 01:07:45
村井 昌平 @murai_shohei

あと自分は本気で子供の目線で子供にも分かるように出来る限り表現を噛み砕いて作ったつもりでした。 ただ、それはそれとして、子供が本当に喜んで見る物って、大人が考える子供向きの物とは違うんですよね。

2022-10-17 01:07:48
村井 昌平 @murai_shohei

多くの子供に平均的に受ける物といえばいわゆる子供番組になるのかもしれないけれど。 ポピーは、ポピーが好きな子供と、ポピーが好きな大きな子供の為に全力で作りました。

2022-10-17 01:07:49
村井 昌平 @murai_shohei

会社「約束のCGアニメ出来ました」 キッズ「やったー!初のうち制作アニメだ!いっぱい放送します!」 自分(大丈夫かなあ…) 会社「うちでこんなの作ったんですけどどうですか?」 CS局(TVK/TVH等)「やったー!珍しいCGアニメだ!夕方枠で放送します!」 自分(大丈夫かなあ…)

2022-10-17 16:10:46
村井 昌平 @murai_shohei

会社「なんか評判良いよ」 自分「本当に!?」

2022-10-17 16:10:46
村井 昌平 @murai_shohei

概ねこんな感じで割とノリが軽かった気がする。フットワークが軽いと言うべきか。スピード感があった。

2022-10-17 16:14:48
村井 昌平 @murai_shohei

期待と言えるかどうか分からないけど、あまりに正体不明な新番組なので、キッズの人達も(どうなるの?これ)という目では見てくれてたかもしれませんね。

2022-10-17 01:53:38

キツかった話

増田さんはずっと実家の熊本でシナリオやコンテを書いていたので家で倒れてた自分を直接起こす事はできません。実際に家まで起こしに来たのは制作ダ天使です。

当時3ヶ月程休み無しで毎日会社に泊まり込みで起きてる間中働いて、一週間に一回風呂と洗濯の為に家に帰る生活をしてたのだけど、ある日家に帰って寝たらあまりに疲れ過ぎて全く目が覚めなかった。それで夜になって制作ダ天使が大家さんに言って鍵を開けてもらい部屋に起こしに来たのだけど…うっすらした明かりの中でふと目が覚めたら頭の上から黒い人影が無言でじーっと見下ろしてて、仰天して飛び起きたっていう。

せめて何か声を掛けて欲しい。あれはめちゃくちゃ怖かった…

ダ天使に連れられて頭も体も動かないまま会社に着いた所で泣き崩れてしまいました。本当にあれが限界だったんだと思います。

体中が常にどこか痙攣してたし、全身の皮膚がカチカチに硬くなってたし足もよく痺れてました。怖い。当時は伊藤君が入ってくれてすぐの頃で、今まで通り仕事しながらいろいろ教えなきゃいけない上にまだ戦力にはならないという一番きつい時期でした。伊藤君が慣れてからはカットを半分前後任せられるようになり、それまでより遥かに楽になりました。伊藤君はあれは地獄のようにキツイ時期でもう二度とやりたくないって言ってますけど。

当時はようやく放送した番組の反応がインターネットの掲示板などでダイレクトに返ってくるようになった時期でした。

視聴者のコメントは全て目を通していました。また、キッズステーションに直接送られたメールやコメントなども印刷して頂いていました。みんなのコメントは前向きで温かく嬉しい物ばかりでした。本当に有難かった。あれが無ければとても続けていられなかったと思います。視聴者の反応を見て増田さんがお母さんたちの反応を期待してポピーにゴキブリを食わせた話がありましたが、多分あれで一番ダメージを負ったのは自分です。

音楽やタイトルなどについて

ポピーザぱフォーマーの制作全体の中でプロデューサーである制作魔王や制作ダ天使のセンスや采配による部分はかなり大きかったです。ポピーのサンプルイメージの曲を集めてきたのは制作ダ天使。ポピーのイメージがまだ定まらない時にこれらの曲のイメージは地味に大きく影響しています。Dr.Bombay李博士メテオール(特に「赤い自転車」)、中国娃娃などでした。この辺は完全に制作ダ天使の選曲センスです。夜中に煮詰まって来た時などよくこの辺の曲を大音量でガンガン流してドリンク剤を流し込みながら仕事をしてました

メインテーマの具体的な方針を決めたのは制作魔王で、「耳に残りやすいスカのリズムで、東北訛りの人にスキャットで歌ってもらったら面白そうだ。歌える人に心当たりがあるので当たってみよう」という事で割とストレートに出来上がりました。曲は音楽将軍の手塚さん。作品中の音楽から効果音まで全て手塚さんです。手塚さんはロストユニバースやスレイヤーズやメダロットなど色々なアニメの音楽をされてる方で、自身も前にCGをやっていたそうで興味を持って引き受けて下さいました。ポピーが音楽に助けられた部分は非常に大きいです。ボーカルは青柳常男さんですね。

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