【再放送】グッド・オーメン・フライング・クルーン 前編

これが俺の発狂頭巾だ! 後編:https://togetter.com/li/1499097
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劉度 @arther456

「不知火さん!」少女は振り返る。「電さん、お疲れさまです。お戻りでしたか」「一体どうしたのですか?新人の艦娘さんを連れてきたのに、誰も迎えに来てくれないのです」不知火は電の後ろの少女を一瞥した。「その話は後です。それよりも、提督が監禁されています」5

2020-04-23 21:48:01
劉度 @arther456

「はわっ!?」思わぬ言葉に、電の声が裏返る。「か、監禁って……何があったのです!?」「翔鶴が提督と共に工廠に立て篭もっています。向こうは艤装を装備していて、迂闊に手を出せない状況です」「翔鶴さんが……どうして?」突然の言葉を、電はすぐに信じることができなかった。6

2020-04-23 21:51:00
劉度 @arther456

翔鶴は最近着任した正規空母の艦娘だ。強くて、優しくて、美人で、頭が良い、電にとって理想のレディーだった。そんな人が提督を捕まえて工廠に立て篭もっているなんて、まるで想像ができない。しかし周りの状況が、不知火の言葉が本当であると証明している。7

2020-04-23 21:54:00
劉度 @arther456

「提督は大丈夫なのですか……?」「わかりません。ただ、この事件は一刻も早く解決しなければいけません。電さん、指揮をお願いいたします」「い、電が決めるのですかっ!?」「はい。提督不在の非常時には、初期艦の貴方に指揮権が移譲されます」8

2020-04-23 21:57:01
劉度 @arther456

突然、重責を背負わされた電はうろたえるばかりである。「で、でも、電よりももっと別の人が指揮を執ったほうが……」「……そうなると、指揮権は今のままになりますが、本当によろしいですか?」ややげんなりした表情を浮かべて、不知火はある艦娘を指さした。9

2020-04-23 22:00:02
劉度 @arther456

「酸素魚雷!酸素魚雷よ!工場の壁を吹き飛ばすのに150発!中の設備を吹き飛ばすのに50発!上の航空機に体当たりで防がせるのが80発!そうしたら、私が直々に、翔鶴と提督に20発ずつ撃ち込むわ!合計320発の魚雷の一斉射が見れるなんて……ああ、考えただけでゾクゾクするわ……!」10

2020-04-23 22:03:01
劉度 @arther456

恍惚とした表情で駆逐艦たちに酸素魚雷を準備させている大井がいた。涎まで垂らしている。最古参がいなければ、最も練度の高い艦娘に指揮権が渡されるのが、ここの鎮守府のルールだった。ルールを決めた時は、まさかこんな非常識な娘が最高レベルになるなど、予想していなかったのだろう。11

2020-04-23 22:06:00
劉度 @arther456

「……分かりました。電、指揮を執ります。不知火さん、大井さんの説得、手伝って下さい」「了解しました」これは放っておいたら恐ろしいことになる。電は覚悟を決め、不知火と共に大井の元へ歩いていくのであった。12

2020-04-23 22:09:00
劉度 @arther456

350/30/500/350。02:20:00。高速建造。千歳。解体。 350/30/500/350。01:00:00。高速建造。那珂。解体。 350/30/500/350。00:24:00。高速建造。黒潮。解体。14

2020-04-23 22:12:01
劉度 @arther456

工廠の中は薄闇に閉ざされている。その中で、時折バーナーの炎が煌めく。艦娘が装備するための艤装が生産されては、解体され僅かな資源に消えていく。「待っててね瑞鶴。すぐにお姉ちゃんが艤装を作ってあげるから」バーナーを握るのは、白髪の少女。正規空母・翔鶴だ。15

2020-04-23 22:15:01
劉度 @arther456

「うん。ちゃんと待ってるよ、翔鶴姉」そこから少し離れたところに座っているのは、髪をツインテールに結び、弓道着に身を包んだ人物である。瑞鶴ではない。彼女、あるいは彼こそがこの鎮守府を統括する提督だった。だが、既に提督は翔鶴の入念な"教育"によって、自分を瑞鶴だと信じきっている。16

2020-04-23 22:18:00
劉度 @arther456

提督がおにぎりを1つ頬張った。「……鮭なの?私、イクラの方が良かったんだけどなー」不満を漏らす提督の手に、翔鶴がそっと自分の両手を添える。それから、ベチ、と嫌な音がした。「……あ?」一瞬遅れて、剥がれた爪から激痛が走る。「あ、いぎっ……!?」「瑞鶴はね」17

2020-04-23 22:21:00
劉度 @arther456

「おにぎりは鮭が好きで、梅干しはすっぱいのよりもハチミツにつけた甘いのが好きなの。高菜は黙って食べてくれるけど嫌いで、しそおにぎりには海苔を巻いたほうが」「分かった、分かったよ翔鶴姉!鮭、好きだから全部食べるよ!」その言葉を聞いて、翔鶴はニッコリ笑った。18

2020-04-23 22:24:01
劉度 @arther456

「ええ、私の分も食べていいわよ?」差し出された鮭おにぎりを、瑞鶴は涙を流しながら食べている。その様子を見ながら、翔鶴は満足そうにニコニコ笑っている。これが翔鶴の"教育"だ。半月以上これを受けていた提督の自我は極めて曖昧になっていた。だが、まだ翔鶴は満足していない。19

2020-04-23 22:27:00
劉度 @arther456

理由は分からない。瑞鶴は彼女が望む瑞鶴と全く同じように動いてくれる。翔鶴は考えた末に、艤装が無いから物足りないと結論づけた。そして、思った時には既に提督を連れてこの工廠に来ていた。作業員に邪魔されたが、艦載機を発進させたらすぐに出て行ってくれた。20

2020-04-23 22:30:01
劉度 @arther456

「大丈夫よ、瑞鶴。お姉ちゃんが艤装を作ってあげるから」翔鶴は瑞鶴の頭を優しく撫でる。その手が滑り降りて、頬を撫で、足首に触れる。瑞鶴の足首には穴が空き、鎖が通され、柱に繋がれていた。「だから、もう二度と逃げようなんて思わないでね、瑞鶴?」21

2020-04-23 22:33:00
劉度 @arther456

「なんか、ほっとかれてるんですけど……」電に連れてこられた新人の艦娘は、特に仕事も与えられず暇を持て余していた。「誰も構ってくれないなんて、ふてくされるぞー」そうは言っても非常事態だ。誰も目を向けないので、彼女は仕方なく持ってきた艤装のメンテナンスを始めるのであった。23

2020-04-23 22:36:00
劉度 @arther456

【グッド・オーメン・フライング・クルーン】 前編(再放送) おわり

2020-04-23 22:37:00