『未来少年コナン』を観て、宮崎駿の「原作改変グセ」をもう一度考えてみた。

宮崎駿の監督デビュー作、『未来少年コナン』が再放送されていますが、それをきっかけに「宮崎駿は、なぜ原作をいつも大胆に変えてしまうのか?」をちょっと考えてみました。(セルフまとめです)
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エンタメ放浪者 ウディ本舗 @woody_honpo

『未来少年コナン』。初めて観る人は、今の基準で観ると少しテンポが遅く感じるかもしれないが、じっくり語る長編ドラマだと思ってお付き合い下さい。 宮崎駿の監督デビュー作にして、「宮崎駿の全てがここにある」と言っても過言ではない名作TVアニメ。 www6.nhk.or.jp/anime/topics/d…

2020-05-03 18:54:31
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『未来少年コナン』の第1話で、残され島に武装して現れた連中に「お前達はまだこんな事をやっているのか!」と憤るおじいに対して、モンスリーが「戦争を引き起こしたのはあの時大人だったのは貴方達じゃないの」と反論するシーンが話題になっているが、これは1941年生まれの宮崎駿の魂の叫びなのだ。

2020-05-04 01:04:56
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デビュー作『未来少年コナン』から宮崎駿の「原作軽視」の在り方は明らかだった。宮崎駿はアレグザンダー・ケイの原作『残された人々』を「好きじゃない」と語り、ほぼ全否定。ほとんど「宮崎オリジナル」と言って良い作品になっている。しかし…骨格(アイデア)は原作なのだ。それが問題なのである。 pic.twitter.com/l13nEebSAW

2020-05-03 19:09:47
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宮崎駿は「原作から核(骨組み)だけ貰い、むしろ原作を批判的に検証しながら膨らませる」ことこそ、あるべき「映像化」だと考えているのではないか?と思う。 高畑勲はそうではないので、これはジブリというより宮崎駿の「創作の本質」に関わる。単純な否定や肯定ではない検証をするべきだと思う。 twitter.com/woody_honpo/st…

2020-05-04 07:33:03
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『未来少年コナン』は宮崎駿が原作を批判的に膨らませたからこそ名作になった。宮崎駿のルパン三世や「魔女宅」「耳をすませば」「ハウル」等のジブリ作品にはその傾向がある。「原作を尊重してそのまま映像化」する気が最初からない。これは通常は否定されることが多い態度だが、それが成功している。

2020-05-04 08:00:03
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これは宮崎駿の創作の出発点が東映動画だからだろう。そこでは「世界の名作」が批評的に検討され、脚色されるのが当然だった。そしてそれは、ディズニーが作り出した方法論でもある。ディズニーは今でもそれをやっているが、しばしば「世界の名作の成果を、商業主義が簒奪している」と批判されて来た。

2020-05-04 08:57:49
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宮崎駿の「問題点」は、その方法論が過去の名作だけではなく、作者が現役の必ずしも有名ではない作品にも適用されることであり、更には、その方法論が(ある意味で原作以上に)面白い作品を生んでしまうことだ。 しかし、いくら批判的でも、原作がなければその物語は存在しなかったことも事実なのだ。

2020-05-04 09:05:23
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だから、宮崎駿に映像化された原作者は、その成功により恩恵と屈辱を同時に味わうという複雑な状況を生んで来た。モンキー・パンチが宮崎駿のルパンに「あれは僕のルパンじゃない」と違和感を表明していたのは有名だが、角野栄子等の他の原作者にも、同じような葛藤があったのではないかと推察している

2020-05-04 09:16:54
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「カリオストロ」のルパンは心優しい正義漢で、モンキー・パンチのイメージする冷酷な犯罪者でもあるルパンとは異なる。だから宮崎版ルパンのイメージが広がることにモンキー・パンチは拒絶反応を示したが、一方で「カリオストロ」によってルパンというコンテンツが延命した現実も、彼は認識していた。

2020-05-04 09:36:31
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モンキー・パンチが自ら監督した長編アニメ「ルパン三世 DEAD OR ALIVE」は、嫌っていたはずの「カリオストロの城」を強烈に意識した作品だった。「カリオストロの城」の語り直しにすら見える。モンキー・パンチの、宮崎版ルパンに対する複雑な心境が浮かび上がり興味深い。 twitter.com/woody_honpo/st… twitter.com/woody_honpo/st…

2020-05-04 09:53:15
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宮崎駿による「カリオストロの城」のルパンは人の良い義賊で、モンキー・パンチは「あれは宮崎さんのルパン。僕のルパンとは違う」と話していた。しかし、モンキー・パンチが自ら監督した劇場版「DEAD OR ALIVE」は、カリオストロの変奏曲とも呼べる作品だった。やはり、かなり意識していたのだろう。 pic.twitter.com/ragJSOQ18k

2019-04-17 12:53:51
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宮崎駿による「カリオストロの城」のルパンは人の良い義賊で、モンキー・パンチは「あれは宮崎さんのルパン。僕のルパンとは違う」と話していた。しかし、モンキー・パンチが自ら監督した劇場版「DEAD OR ALIVE」は、カリオストロの変奏曲とも呼べる作品だった。やはり、かなり意識していたのだろう。 pic.twitter.com/ragJSOQ18k

2019-04-17 12:53:51
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宮崎駿は「原作を批評的に大胆に改変する」自らのスタイルに自覚的で、しかも、それを悪い事だとは思っていなかった。むしろ、それこそが「創作の宿命」だと考えているようだ。 『もののけ姫』のメイキングで、ジブリの若手に「無名の原作のアニメ化」をレクチャーする際も、その方法論を説いている。

2020-05-04 10:07:02
エンタメ放浪者 ウディ本舗 @woody_honpo

宮崎駿には時々「パクリ疑惑」のようなものが囁かれたことがある。宮崎駿は影響を受けた作品の要素を自作に採り入れることがしばしばあるからだ。(それも直近に触れた作品だったりした) 私は、宮崎駿の「原作改変グセ」と「パクリ疑惑」は同じ思想的ルーツから生まれたものではないかと考えている。

2020-05-04 10:25:33
エンタメ放浪者 ウディ本舗 @woody_honpo

宮崎駿の「創作はバトンのリレーのようなもの。ただ、バトンが自分の中で変化して受け継がれていく」という言葉にその思想が現れている。「純粋な『無からの創造』などない。影響し合うのが創作。ただ、それが単なる真似や剽窃ではなく、自分なりに取り込み再創造したものなら良い」という意味だろう。

2020-05-04 10:35:19
エンタメ放浪者 ウディ本舗 @woody_honpo

但し、これは非常に評価の難しい微妙な問題でもある。宮崎駿はそれで素晴らしい傑作を生み出したが、似たような方法によった作品の多くは「原作の改悪」「単なるパクリ」と批判されて来たからだ。「私達の99.9%には宮崎駿の才能がない」という冷徹な壁があるのだ。 自分の中でもまだ結論は出ていない。

2020-05-04 10:50:25
エンタメ放浪者 ウディ本舗 @woody_honpo

宮崎駿の原作改変グセから、相米慎二を思い出した。相米慎二は現場で役者を演出している過程で脚本がどんどん変わり、当初の脚本とまるで違う話にしてしまった。それで脚本家に批判されたが「でも、最初の脚本がなければ俺の作品は生まれていない。脚本を否定してる訳じゃないんだ」と語っていた。

2020-05-04 11:09:36
エンタメ放浪者 ウディ本舗 @woody_honpo

相米慎二にとって最初の脚本は想像力を喚起する触媒であり、それを元に役者を演出すると「こういう奴だったのか」「コイツはこんなセリフを言わない」と世界が広がっていく。それが彼の創造なのだ。結果としてまるで違うものになってしまうが、相米慎二を刺激する出発点としての脚本は必要なのだろう。

2020-05-04 12:23:47
エンタメ放浪者 ウディ本舗 @woody_honpo

この相米慎二の「現場で物語を作り上げで行く」演出法は、宮崎駿の原作改変グセだけでなく、ストーリーの概要だけで詳細な脚本を書かずに、直接絵コンテを描き進めて行くスタイルとも繋がっていますね。 「作ってみないと分からない」 2人とも、アドリブが得意なジャズプレーヤーのような作家だ。

2020-05-04 12:30:05
エンタメ放浪者 ウディ本舗 @woody_honpo

ジブリ以降しか知らない若い人には「宮崎駿はストーリーテイルが苦手」というイメージがあると聞いて、なるほどなぁと思った。宮崎駿は最初は映像以上に、井上ひさしが「日本人離れしている」と絶賛し山田太一が「勉強になる」と評したほど、構成力のある優れたストーリーテラーとして評価されたのだ。 pic.twitter.com/o9YBLrQ0NU

2020-05-04 13:21:18
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エンタメ放浪者 ウディ本舗 @woody_honpo

それがある時期から、特に『もののけ姫』以降、ストーリーの構成や整合性を意識的に捨ててしまうようになった。若い頃は否定していた筈のイメージや思い入れを重視した作風に変化したのだ。 『未来少年コナン』の頃の宮崎駿がジブリ後期の作品を観たら、ボロクソに言うのではないか?という気がする。

2020-05-04 13:32:16
エンタメ放浪者 ウディ本舗 @woody_honpo

宮崎駿は黒澤明を尊敬していたが、物語性の希薄な晩年の作品については「老人の美学は分かるけれど…」と批判的だった。 しかし、宮崎駿本人の作風が、次第に「晩年の黒澤明みたい」になって行ったよね。(観客に理解して貰うことを気にしなくなったという意味で) 興味深いなぁと思う。

2020-05-04 13:46:10
エンタメ放浪者 ウディ本舗 @woody_honpo

スティーブン・スピルバーグは、あるインタビューで「あなたは若い頃より成長したと思いますか?」と聞かれて「人は歳をとると成長するのではなく大胆になるのだと思う。僕の初期の作品は、客観的に見て今の僕よりも優れている。でも、歳をとると、若い時より失敗を恐れなくなるんだよ」と答えていた。

2020-05-04 13:57:50
エンタメ放浪者 ウディ本舗 @woody_honpo

ディズニーが世界の名作を「今のエンタテインメント」に改変することが以前は「商業主義」と批判されて来たけれど、最近は、ポリコレ的観点から「世界の名作の古い価値観」を「正しく改変」するのは良いこと、と論調が変わって来ましたよね。 twitter.com/woody_honpo/st…

2020-05-04 16:04:28
エンタメ放浪者 ウディ本舗 @woody_honpo

宮崎駿の原作改変グセについて、「映像化するなら脚色(特に小説から映像の場合)は当然」という感想を見かけました。しかし、通常の脚色は「原作を映像として活かすため」なのですが、宮崎駿はしばしば原作の思想やキャラクターの根本を「こうあるべき」と変えてしまうのです。しかも、説得力がある。

2020-05-04 17:09:34
エンタメ放浪者 ウディ本舗 @woody_honpo

脚色というのは「小説から映画」「漫画から映画」といった異なる表現形式へ、原作の本質を(なるべく)そのまま変換しようとする行為なのですが、宮崎駿的改変(別に宮崎駿だけではありませんが)は、原作の方向性の改変であり、原作の一部を利用して自分の話を語る「二次創作的」な行為なのです。

2020-05-04 17:24:03
エンタメ放浪者 ウディ本舗 @woody_honpo

作品の思想的な本質を改変するという意味では、宮崎駿的改変は、近年流行の「ポリコレ的改変」と似ているところがあります。 しかし「ポリコレ的改変」が多くの場合、何だか鬱陶しいのに対して、宮崎駿的改変は面白いという違いがあります。 宮崎駿の才能がオセロのように黒を白に変えてしまうのです。

2020-05-04 17:30:49