剣と魔法の世界にある学園都市でロリが大冒険するやつ7(#えるどれ)

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まとめ 【目次】エルフの女奴隷を代々受け継ぐ家系の話(#えるどれ) 人間とエルフって寿命が違うじゃん。 だから女エルフの奴隷を代々受け継いでいる家系があるといいよね。 という大長編ヨタ話の目次です。 Wikiを作ってもらいました! https://wikiwiki.jp/elf-dr/ 21941 pv 167 2 users

前回の話

以下本編

帽子男 @alkali_acid

◆◆◆◆ この物語は巨人の王の死から始まる。 世界は眠りと目覚めを繰り返す。 天なる篝火の細る時、大地と大洋を凍てつく氷が覆い、萌え茂るものは枯れ朽ち、飛ぶもの駆けるものは皆飢え凍え死に絶えゆく。 泳ぐものとて数を減じる。 天なる篝火の明々と燃える時、大地と大洋は緑と青に輝く。

2020-05-06 19:51:33
帽子男 @alkali_acid

竜の群が星々の彼方へ発った後。 始まりの湖に妖精が渡り来るより前。 精霊と唯一にして大いなるものがまだ広大な虚無の暗黒をさまよっていた頃。 巨人の諸王国は狭の大地に栄えていた。

2020-05-06 19:54:23
帽子男 @alkali_acid

燃える血を流す山を、井の如くあるいは炉の如くに穿ちまた御し、灼熱の坩堝を意のままにした火の巨人族。 気流と海流を羊群を導く牧童の如くに操る霧と霜の巨人族。 二つの民は互いに反目しながら、ある時は婚姻と盟約を交わし、ある時は殺戮と背信を行いながら、それぞれに広大な領土を統べた。

2020-05-06 19:58:50
帽子男 @alkali_acid

巨人は魔法使いであった。 妖精の魔法とも竜の魔法とも異なる魔法ではあったが。 妖精の魔法は血に宿り、竜の魔法は珠に宿るが、 巨人の魔法は骨に宿った。 故に巨人は先祖の骨を疎かにせず、死せるものの骸から取り出し、石の如く固くなった頭蓋や脊椎、肋や大腿の芯を集めて宮殿に組み入れた。

2020-05-06 20:01:31
帽子男 @alkali_acid

火の巨人も霧と霜の巨人族もそれぞれに骨石の宮殿を持ち、それぞれの民と君の膨大な知恵と見識を蓄え、しばしば戦争のために、稀には平和のために用いた。 かくのごとく巨人の力は代を降るごとにいや増していったが、新たに世に出た若者のうちには次第に息苦しさに耐えかねるものもあった。

2020-05-06 20:06:12
帽子男 @alkali_acid

火の一族からも、霜と霧の一族からもそれぞれに骨石の宮殿のそばを離れ、新たな土地で暮らそうとするものがあらわれた。 今日では極光の照らす北海のほとりに、雲突く丈のますらおとたおやめとは集まり、互いのあいだに横たわる千年の恩讐を捨て、一から都市を築いた。 輝かしい王国を。

2020-05-06 20:11:02
帽子男 @alkali_acid

ムノは王子であった。といっても何ほどの意味もない。 巨人の新王国では、王とは無記名の評決によって選ばれる代表で、血筋によって玉座を受け継ぐことはない。 ムノも同胞を率いるつとめに心を惹かれはしなかった。

2020-05-06 20:13:10
帽子男 @alkali_acid

ムノは氷を愛した。 幼い頃から季節になると都にやってくる流氷を眺めて過ごし、長じるにつれ海を歩いて渡り、氷原に達して、ほかのものにはただ冷たく固まった水でしかない塊を愛で、心を痛めながらも掘り抜き、幾重にもなった色合いの異なる層を観察し、飽かず記録をつけた。

2020-05-06 20:19:16
帽子男 @alkali_acid

「ムノ。氷を見ると何が解る」 仲の良い女きょうだいのボハが尋ねる。 嘲ってではない。それどころか年の離れた姉は弟が幼い頃せがまれ何度も海辺に連れて行き、日が暮れるまで流氷を眺めているのに黙って付き合った。 鳥や獣からすれば大小の山が並んで潮風に吹かれているように見えただろうが。

2020-05-06 20:24:57
帽子男 @alkali_acid

「昔のことが」 ムノは答える。 「氷は多くを覚えている」 するとボハは男きょうだいの色の薄い双眸を覗き込んだ。 「巨人の骨よりもか」 「骨とは別のことを、氷は覚えている」

2020-05-06 20:27:53
帽子男 @alkali_acid

やがて今度は弟から姉に問うた。 「雲はどうだ」 「雲は昔のことは何も覚えていない」 ボハは雲を見るのが好きだった。弟のように一日中眺めている訳ではないが。 「覚えていないが、昔の仲間の真似をする」 「鳥がいつも北と南を行き来するように」 「そう」

2020-05-06 20:32:10
帽子男 @alkali_acid

ムノはおよそ巨人の男としてすべきことは何もできなかったので、ボハは気づいたときにはかわりにしてやった。稀に霧を渡ってどこからか迷い込み、生け簀を荒らす巨獣を仕留め、皮を剥いでなめし、衣を作り、牙で釣り糸につける浮きもこしらえてやった。

2020-05-06 20:35:40
帽子男 @alkali_acid

そうして姉は弟に尋ねる。 「ムノ。氷は何を教えてくれる」 「世界の眠りと目覚めのことを…雲は何か言っているか?」 「いいや。雲はただ流れてゆくだけだ。何も知らない」 「雲は何も知らぬまま、雪を運ぶ。今年は早い」 「徐々に早くなっている」 「世界の眠りがやってくるのだろうか」

2020-05-06 20:38:30
帽子男 @alkali_acid

女巨人は巨獣の燻製肉を、短刀で切り分けながら、男巨人の問いに考え込んだ。 「解らない。雲は気まぐれだが、大きく変わるのは時がかかる。そう思っていた。千の年がかかると」 「違うかもしれない」 「そう。もっと急かもしれない。氷は何を知っている?」 「まだ読み取れない」

2020-05-06 20:42:22
帽子男 @alkali_acid

火の巨人の国や霧と霜の巨人の国であれば、骨石の宮殿に蓄えた知恵と見識を引き出し、何らかの洞察を得られたかもしれない。 だが海氷の流れ着く港の都市、新王国はそうした建築を行わなかったので、思索はあくまでも今生きているものの仕事であった。

2020-05-06 20:46:07
帽子男 @alkali_acid

けれどもやはり限りがあった。死せる骨なくしてなせる巨人の業には。 「ボハ。火の国の男王の長子が、あなたを妃にと望んでいる」 「霜と霧の国の女王もあなたを客として招いている。ボハ」 新王国は捨ててきた故地とのつながりを取り戻そうとし、若者のうち優れたものを送り返そうとしていた。

2020-05-06 20:50:57
帽子男 @alkali_acid

世界の眠りは、次第にはるか遠い昔、あるいは遠い先のできごとではなく、間近に迫った災いに思いなされつつあった。 「火の国では、灼熱の坩堝から熔岩を汲み上げて世界の眠りに備えるという。地の底に都を築く考えもある」

2020-05-06 20:54:57
帽子男 @alkali_acid

「霧と霜の国では、霧を呼び寄せてくぐりぬけ、世界の眠りが続くあいだ、もっと暖かな大地に移ろうという。だがそうして再びここへ還り来れるかは解らぬとか」 「ボハ。お前の優れた耳と目で見聞を得てきてくれぬか」 「雲が言わぬことを、骨は語るやもしれぬ」

2020-05-06 20:56:31
帽子男 @alkali_acid

同胞は、女巨人にそう望んだ。 姉は、氷の記録を岩山に刻む弟のもとへ来て話した。 「私は霧と氷の国か、火の国か、どちらかへ行こうと思う。ともに来るかムノ」 「行かない。この港が氷と親しむのに最も良い」 「そうか」 「雲もここからがよく見える。霧や火の山の煙は邪魔になる」

2020-05-06 20:59:19
帽子男 @alkali_acid

「だが誰かが行かねばならぬ」 「そばにいて、妻になってくれ。雲と氷を眺めて暮らそう」 「血が近すぎる」 「姉上はよい母になる。海氷を見ている間ずっとそばにいてくれた」 「困ったことを」 「あの時から姉上と添うと決めていた」

2020-05-06 21:06:52
帽子男 @alkali_acid

同腹の姉弟の結婚はよしとはされなかったが、およそ都市の皆とはめったに交わらなかったムノは、ボハを娶るためには躊躇せず、万年氷のような頑なさと、意外な能弁でもって周囲の説得にあたった。

2020-05-06 21:11:09
帽子男 @alkali_acid

「だがお前に伴侶としてのつとめが果たせるかムノ。一人前の男としてなすべきことをすべて姉にしてもらってきたではないか」 「はたせるとも」 狩りも漁りも家を建てるのも、毛皮を敷き詰め、沢山の装身具を並べるのも、庭と池を作るのも、ムノは見事にやってのけた。最上級の婚資をそろえた。

2020-05-06 21:14:16
帽子男 @alkali_acid

ボハは火の国の見事な煉玉の腕輪を嵌めて、諦めたように述べた。 「妻になろう。ムノ。夫になればお前は氷を眺めてばかりはいられないが」 「二人で氷の原へ行こう。寝転がるのによいところだ。しばらくのあいだなら、寒くならない魔法を知っている」

2020-05-06 21:18:12
帽子男 @alkali_acid

ムノは幸福だった。ずっと幸福でもっと幸福になったのだ。 氷について教え、雲について教わった。 やがて姉との間に造る沢山の子供等にも氷と雲について教え、代わりに何かを教わるつもりだった。

2020-05-06 21:19:40
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