剣と魔法の世界で奇祭「風雲あざらし祭り」が行われる話1(#えるどれ)

誘導員さんの声はまじででかい。
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まとめ 【目次】エルフの女奴隷を代々受け継ぐ家系の話(#えるどれ) 人間とエルフって寿命が違うじゃん。 だから女エルフの奴隷を代々受け継いでいる家系があるといいよね。 という大長編ヨタ話の目次です。 Wikiを作ってもらいました! https://wikiwiki.jp/elf-dr/ 21916 pv 167 2 users

前回の話

以下本編

帽子男 @alkali_acid

◆◆◆◆ この物語はエルフの女奴隷が解放されて騎士となり復讐を果たすヒロイックファンタジー、略して #えるどれ 奴隷として、影の国の黒の乗り手に囚われた壮絶な日々をつづったまとめは以下からどうぞ。 togetter.com/li/1479531

2020-05-15 20:41:21
帽子男 @alkali_acid

さて妖精の騎士ダリューテは、西の果ての至福の地より帰還し、宿敵たる黒の乗り手を追い詰めるため、人類を守る秘密結社、財団に身を置くことに。 財団は世界の脅威たる超常の存在「遺物」を人知れず確保、収容、防護する組織。ダリューテもまた、標的を追うかたわら、多くの遺物を処理してきた。

2020-05-15 20:44:02
帽子男 @alkali_acid

今は世界の極北で、目覚めるべきではなかった太古の力あるもの、すなわち神々の一柱の七色をした臓腑を氷漬けにしたところ。 なのだが。 臓腑は氷の中で縮み形を変え、透き通った覆いを得て、裸海蝶(クリオネ)の姿をとった。 またしても遺物の暴走、収容違反が発生したのかと身構える妖精の騎士。

2020-05-15 20:47:11
帽子男 @alkali_acid

しかし裸海蝶はさらに容(かたち)を移ろわせ、小柄な女童の輪郭を得たのだ。尖り耳に細い顎、切れ長の双眸は妖精そっくり。 というかダリューテのよく知る娘に似ている。 「面妖な。海魔が人に化けるとは…」 弓に変えて持ち歩くようになった竜爪の握りと真銀の銃身を持つ拳銃を抜こうとする。

2020-05-15 20:49:27
帽子男 @alkali_acid

しかしできない。 無敵の魔法と武芸を誇り、財団の最高戦力たる機動部隊の頂点、終端の騎士団の第零番に数えられ、不可思議な術から鏡の乗り手の異名を持つ貴婦人だが、一つ弱点がある。 同族を傷つけ殺めるを許さぬ古よりの禁忌を何より重んじるのだ。

2020-05-15 20:52:43
帽子男 @alkali_acid

「…化けたは…人ではなく…妖精…何を企む」 「だりゅーて」 氷の檻を素通りして、透き通った少女は、常若の乙女に近づく。無防備に両腕を広げて。 海魔の化身の奇妙なふるまいに、鏡の乗り手はためらいつつもただ立ち尽くすのみ。

2020-05-15 20:55:12
帽子男 @alkali_acid

「おかーさん」 あろうことか親呼ばわり。童形の怪物はそのままさらに間合いを詰める。不死の麗人はまだ動けない。緊身裙(タイトスカート)に度の入っていない銀縁眼鏡というおよそ極寒の氷原にふさわしからぬいでたちが、定命のものなら瞬時に凍死するような冷え切った風にかすかに揺らぐ。

2020-05-15 20:58:31
帽子男 @alkali_acid

「あなたを産んだ覚えはありません…」 ダリューテは辛うじてそう絞り出し、裾を抑え、眼鏡を直すが、少女はきゃっきゃと笑って腰に抱き着いたのだった。 海魔の娘の温もりなき抱擁は、妖精の騎士の骨の髄までもを冽冽たる心地にさせた。

2020-05-15 21:03:50
帽子男 @alkali_acid

だが鏡の乗り手は、恐るべき挑戦を受けて立ち、呪文を口ずさむと身の内より熱を引き出しつつ、一歩も退かなかった。肩や首のあたりからかすかに蒸気がのぼって、すぐに微細な氷の煙となって四方に散る。

2020-05-15 21:06:05
帽子男 @alkali_acid

「おかーさん。あつい」 「私は…あなたの母ではありません」 「おかーさん」 「ダリューテとお呼びなさい。またはヒカリノカゼと」 「だりゅーて」 「あなたにも名をあげましょう。涼雪(スズユキ)ではどう」 「スズユキ!好き!」

2020-05-15 21:10:07
帽子男 @alkali_acid

不意に少女からあふれる寒さが増し、乙女のまとう秘書の衣装を凍らせてしまい、魔法の守りもものかは、一瞬にして塵に変えてしまう。 極冠の中心で裸身となった妖精の騎士はしかしなお温もりを失わぬままに、凝乳のような滑らかな肌を、透き通った海魔の娘の肌と触れ合わせたまま持ちこたえる。

2020-05-15 21:12:39
帽子男 @alkali_acid

「熱いよダリューテ。もっと冷たくなって」 「スズユキ。私と一緒にいたければ慣れなさい。あなたを溶かしはしないと約束します」 「でも熱い」 「慣れなさい。少しずつあなたの体も温もらせてゆけばよいので」 「…やだあ…」 「ではずっと熱いままです」

2020-05-15 21:16:48
帽子男 @alkali_acid

スズユキはどうにかダリューテを快適な冷たさにしようとしたが、どうあってもうまくいかないのを悟ると、しぶしぶ諦めて次第に極めて低い温もりを、常なる温もりに近づけていった。 「このぐらい?」 「熱くなくなりましたか?」 「ううん…まだ熱い…ぼーっとする」 「ではもう少し」 「えー」

2020-05-15 21:18:58
帽子男 @alkali_acid

とうとう海魔の娘は、妖精の騎士が弱い防護の呪文さえ使っていれば長く接していられる程度にまで温もりを高めた。 「…あんまり熱くない!」 「よろしい」 鏡の乗り手はあくまで穏やかにふるまいながら、七色の臓腑を持つ娘をゆっくり離した。 「ここでおとなしくしていられますね?」 「やだ」

2020-05-15 21:22:24
帽子男 @alkali_acid

「私は…なさねばならぬ仕事があります。あなたを連れてはいけませ」 「ダリューテ!ずっと一緒!ここにいて!」 「いいえ。あなたは海魔。私は妖精。住む世界が異なります。時々ようすを見に…」 ダリューテは口ごもる。スズユキに近しい顔立ちをした暗い膚と尖り耳の娘の面影が浮かんだのだ。

2020-05-15 21:26:06
帽子男 @alkali_acid

「…そう…海魔とて独りでここにいるのは寂しいでしょうか」 「寂しくない。でもダリューテはいて」 「…あなたを一緒に連れてゆけば、人間の世界は滅びましょう…私には…」 裸身に眼鏡だけをつけた乙女は、極冠の風に吹かれながら考え込み、どこからともなく鏡を取り出す。

2020-05-15 21:28:26
帽子男 @alkali_acid

そうして上妖精語で長い呪文の詠唱を始めた。透き通った少女は周囲できゃっきゃと笑いながら転がり、気まぐれに氷山を築き上げたり、不規則に氷柱が生えた奇怪な巨塔をでたらめに生やしたりする。

2020-05-15 21:29:55
帽子男 @alkali_acid

虚空が揺らめき、波うち、罅いる。 「西の果ての海に住まう波と潮の牧者…わだつみの底ことごとくを識り、鱗あるもの、鋏もつもの、殻持つもの、泳ぐものの一切をほしいままにする、皮変える同胞よ…」

2020-05-15 21:32:41
帽子男 @alkali_acid

天地の理を捻じ曲げる召喚の魔法が、宙に結ばれ、はるか神々の統べる西の果てから畏怖すべき存在をさし招く。 呼びかけに応じ、一つの獰猛な獣に似た何かが近づいてくる。 極地の曇天に奇妙な虹をかけるがごとく、孤影が跳躍する。 「はぁっ!!白!銀!后!」

2020-05-15 21:35:16
帽子男 @alkali_acid

びたーんと勢いよく海豹は氷原に落ち、衝撃を受けた表情で、召喚者を見上げる。 「痛い…」 「申し訳ありません。波の卿(きみ)よ」 「…許そう。騎士よ」

2020-05-15 21:41:15
帽子男 @alkali_acid

「なにこいつ!」 七色の臓腑を持つ少女はいきなり獣に馬乗りになってぴしゃぴしゃ叩き始めた。 「イルカか!?イルカが来たのか!?おのれ…よもや氷原でイルカに…」 「おやめなさいスズユキ」 「えー」 透き通った娘がしぶしぶ離れると、海豹はごろりと転がってゆっくり逆方向に移動する。

2020-05-15 21:43:36
帽子男 @alkali_acid

「海豚ではありません。お呼びしたのは、この海魔の娘をどのように遇すればよいかうかがわんがため」 鏡の乗り手が告げると、波の卿は鰭でぴしゃぴしゃと胴を叩く。 「なんだ海魔か。イルカでなければ別にいい」 裸海蝶の女童はしゃがんだまま興味津々といったようすで新参の生きものを観察する。

2020-05-15 21:49:36
帽子男 @alkali_acid

「私が修行した炎の神殿の巫女に一人、海妖精がおりました。その巫女のいわく、海妖精の英雄たる波の卿はかつて海魔の女帝と対決し、これを封じたと」 「何と無意味な誤解だ…僕はただ、海魔に白銀后のすばらしさについて、思いのたけをぶつけただけだ」 「なるほど…?」

2020-05-15 21:55:02
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