ギガベース日誌 ほのぼの閑話「マグロで山猫を釣る話」

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再す誕ふ者ん🍜🍬 @hfsm_ABIDING

この日、GAの重役や各子会社の役員が固唾を呑んで見守る中、とあるリンクス同士によるオーダーマッチが実施されていた。 試合の決着と同時に、観戦用のライブチャットには何十もの溜息が重なった。試合が彼等の思うような運びとならなかった事への露骨な反応だった。 #ギガベース日誌

2020-05-30 00:57:34
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観戦者達の一喜一憂をよそに、試合を終えたリンクス2名は、専用の待合室で顔を突き合わせていた。 「俺の勝ち!なんで負けたかとか考えなくていいからさっさとこの書類に記名しろ!ほら!忘れたとは言わせねえぞ!!」 「……」 #ギガベース日誌

2020-05-30 01:02:13
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試合の勝者である独立傭兵DfJは、ハイバックソファに腰掛ける男性に電子証明書を画面いっぱいに映した端末を押し付ける。 有澤重工第43代目社長有澤隆文は、一言も発さぬままにそれを受け取り、IDと端末を同期させた。 #ギガベース日誌

2020-05-30 01:09:04
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「サンキューな!!もう入金したから!楽しみに待ってるよ!!」 書類の内容は、有澤重工が独立傭兵DfJの注文に応じ、脚部パーツ「RAIDEN-L」を製造・販売する事を、有澤社長が直々に承諾するというものだった。 #ギガベース日誌

2020-05-30 01:14:34
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元々需要の低いタンク型、それも半ば専用機に近い『雷電』の脚部パーツは、自社のグレネード製品を最大限活かす為に必須たる土台である。 雷電の出撃自体が販売促進策という認識は社の内外において共通であり、事実そのフレームは雷電とその予備パーツ分しか製造されていなかった。 #ギガベース日誌

2020-05-30 01:19:42
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雷電と行動を共にした、あるいはそのミッションログを確認したリンクスは、その多くがAFに匹敵する圧倒的制圧力に魅せられ、機能美の極致たる無骨な榴弾砲で自身の愛機を武装するのだ。 しかし、DfJが求めたのはその脚部だった。 #ギガベース日誌

2020-05-30 01:27:10
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当時から重量機を愛好する傾向にあったDfJは、同然の帰結としてタンク脚部に手を出した。 最初はリンクス戦争当時から販売されている『KIRITUMI-L』を採用。実弾防御特化型タンクに己のフェイバリットを見出したDfJは、直様有澤重工へ発注をかけた。 #ギガベース日誌

2020-05-30 01:31:07
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しかし、その注文は有澤社長の鶴の一声によって阻まれた。 GA所属ですら無い、それどころか対立関係にあるトーラスとの蜜月が噂される独立傭兵に、自社の広告塔たる雷電のパーツを安々と売り渡せる筈もなかった。 #ギガベース日誌

2020-05-30 01:36:59
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この対応に憤慨したDfJは、有澤社長に対してオーダーマッチを申し込んだ。 自分が勝利した際の見返りとして、雷電脚部の販売許可を出す約束を取り付けて。 #ギガベース日誌

2020-05-30 01:39:44
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「いっやぁ楽しみだなぁ。積載量増えた分何積もうかなぁ。やっぱり手持ちのコジマキャノンか?最近出たGAの散弾バズーカとかも良さげだが……」 「時に、貴様」 脳内アセンブルの小宇宙に旅立ちかけていたDfJを、低く重い声が呼び止めた。 #ギガベース日誌

2020-05-30 01:44:04
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「ん、何だ」 「明日、時間はあるか。雷電を削りきった貴様の力に対する私からの敬意を表したい。会食の誘い、とでも言い換えようか」 「明日?食事だって?俺とアンタが?」 「反芻が必要か」 #ギガベース日誌

2020-05-30 01:48:03
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「構わないけど……あぁそうだ、せっかくなら和食がいいな。食べたこと無いんだよ。艦娘と暮らしてるけど、アイツ洋食しか作らないもんで」 「希望は和食か。なら、本日中に場所と時間をこちらから提示する」 #ギガベース日誌

2020-05-30 01:51:27
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有澤社長は自身の端末で何やらいくつかの手続きを済ませた後、DfJとそれ以上のやり取りを行う事無く待合室を後にした。 ただの会食。金持ちの気まぐれ。この時点において社長からの誘いをその程度にしか認識していなかったDfJは、その日の残りの時間を機体図面の調整に消費した。 #ギガベース日誌

2020-05-30 01:55:14
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「お待ちしておりました、DfJ様」 用意された輸送機に乗り遅れ、自身のネクストで直接極東へ来る羽目になったDfJ。 そんな彼を着陸点の平原で迎え入れたのは、今を生きる人類であればその名と見た目を知らない者はいない超弩級戦艦娘であった。 #ギガベース日誌

2020-05-30 02:05:56
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「戦艦大和?艦娘がこんなところで何してる」 「御紹介が遅れました。私は、有澤重工艦隊旗艦兼、有澤社長の秘書艦を務めております、大和型戦艦一番艦、大和です」 2m近い背丈を誇る大和は深々と頭を下げ、数秒後にその威容を再度DfJに見せつける。 #ギガベース日誌

2020-05-30 02:11:00
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「秘書艦!今は社長秘書も艦娘がやるのか?」 「有澤重工艦隊の指揮権限は社長にありますので、鎮守府における提督と秘書艦との関係と大差はありません。それよりも、この地域は今の季節、日が陰ると大変に冷えます。本日のお食事の場まで、大和が御案内仕りますね」 #ギガベース日誌

2020-05-30 02:15:53
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大和に誘導されるがまま、DfJは用意された装甲車に遠慮無く上がり込み、しばらくは無遠慮な振動と硬いシートへの不満を募らせた。 大和とDfJの他に乗車する者の姿は無い。 社長は現場で待っているのだろうか。この装甲車の耐久性は如何程のものだろうか。 #ギガベース日誌

2020-05-31 01:44:31
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退屈を散発的な思考と観察で紛らわせようとする彼の尻を、一際大きい振動が叩いた。 車両が地下通路へと侵入したのだ。 「おいおいおい……こんな仰々しい場所に飯屋があんのか?」 「地上では、何かとリスクがありますでしょう?」 #ギガベース日誌

2020-05-31 01:46:25
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「そりゃそうだが……おおっ?!」 誘導灯が続く地下通路の端部。そこに構えられた門は、DfJの視線を釘付けにした。 かつて鑑賞した映像作品でしか見たことのない和風建築物。古めかしく暖かいテクスチャを纏った木造の扉が、そこで来客を待つように開かれていた。 #ギガベース日誌

2020-05-31 01:49:33
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「到着いたしました。さぁ、どうぞ中へ」 大和に促されながらも、視線を巡らせるDfJの歩みは遅い。 店名を示す看板のようなものは存在しない。その代わりか、土庇を支える太い柱には、有澤重工の社章と海軍認可であることを示す表示が刻まれている。 #ギガベース日誌

2020-05-31 02:01:19
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「驚いたな……」 「初めての方は、まずそう仰ります。ですが、本日の要はお食事とご歓談。社長が中でお待ちです」 門構えの時点でこれならば、提供される食事とはどれ程のものなのだろう。この時点ではまだ味覚を喪っていなかったDfJは、期待を胸に奥へと進んだ。 #ギガベース日誌

2020-05-31 02:08:44
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「社長。DfJ様をお連れしました」 「御苦労だった。さて、貴様の席はそこだ。座ると良い」 示された上座に腰掛けるDfJ。生物的な曲線を中心に構築された、明かりとしての役割と厳かな雰囲気の醸成を的確に果たす和紙作りの照明。個室の全てが未知で構成されていた。 #ギガベース日誌

2020-05-31 02:13:29
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「珍しいか」 「あぁ。何ていうのかね、こういうの……和風の部屋?ここまでそれらしい場所に入るのは初めてだ。これとか、机に金の線入ってるのか?すげぇなぁ」 「この場所は、重要な会談や接待の為にある。それこそ、今日の会食のようにな」 #ギガベース日誌

2020-05-31 02:17:44
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「いいのかい?本当にこんな場所でご馳走になっちまって。後で何か言われても払わねえぞ」 「この有澤を前に、無用な浅慮を抱くものだ。安心しろ。今日は、私の奢りだ」 社長の宣言を受け、安堵するDfJ。しかし、間もなく自分と社長の位置取りに違和感を覚えた。 #ギガベース日誌

2020-05-31 02:23:27
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