オーバーロード・オーバーライト ＃１

劉度 @arther456

「とりあえず、ほっぽちゃん。佐渡ちゃんに謝りなさい」「ぷぇ！？わざとじゃないもん！」「ぶつかったことじゃなくて、瑞雲を壊しちゃったこと。ほっぽちゃんだって零戦が壊れたら悲しいでしょう？」「ほぽぉ……」「ぶええ……ぶえぐ……」提督にあやされて、佐渡はだいぶ落ち着いていた。20

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佐渡の前に立ったほっぽちゃんは、しばらく迷っていたようだったが、ゴトランドからの圧に負けて、頭を下げた。「瑞雲、壊しちゃって、ごめんなさい」「うぐう……」「佐渡ちゃんもほっぽちゃんを許してあげて。瑞雲なら、新しいのを買ってあげるから」佐渡はおでこをさすりながら頷いた。21

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「よし！それじゃあ２人とも、ゴトと１つ約束してね。今度から廊下で走らないこと、いいわね？」「ぽっ！」「うん！」「はい。それじゃあ、お外で遊んできなさい。晴れてるからそっちの方が楽しいわよ」「ぽっ！」「はーい！」「ゼロ、貸す」「えっ……」「壊したから、貸す！」「ありがとー！」22

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ほっぽちゃんと佐渡は外に出ていった。「いやあ……ありがとう、ゴトランド。助かったよ」「いいわよ、これぐらい。私、子供は好きだし」「私じゃ中々上手くいかないからなー。ゴトランドがいて本当に良かった」「そ、そう……？」ゴトランドは少し頬を赤く染めている。褒められて嬉しいようだ。23

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「そうだ、佐渡ちゃんに買ってあげる新しい瑞雲なんだけど」「うん」「この前、チラシに『瑞ぐるみ』っていうのが載ってたの。あれ、いいと思わない？」「何その珍妙な商品」「瑞雲仮面シリーズの新商品だって。今度の週末、買いに行きましょう？」「いや出所は？日向か、日向師匠か！？」24

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「提督さん、いる？」夕方ごろ、ノックもなしに執務室に入ってきたのはアトランタだった。「お、どうした……どうしたの！？」アトランタの姿を見て、提督は悲鳴を上げた。アトランタの服装は、長袖Ｙシャツの上に黒いエプロンという出で立ちだが、どういう訳か下を履いていなかった。26

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「いや、あの休憩室に置いてあるコタツ、って奴なんだけどさ」しかもアトランタは自分の格好を気にしていない。「ちょ、ちょっと待って！」「何？」「鎮守府の中じゃ、服を着ろって教えたじゃない！何その格好！？」「何って……Ｙシャツとスカートだけど」「それのどこがスカートだよ！」27

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「えー、スカートじゃん。エプロンスカート、ってやつ？」「丈が短すぎるわ！出直してこい！」「面倒だなあ、人間ってのは」その一言に、提督の顔色が変わった。「……今の、他の人の前じゃ言ってないよね？」「あ？大丈夫だよ、あたしが深海棲艦だってことは、ちゃんと隠してるから」28

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アトランタは深海棲艦だ。深海棲艦としての名前は、防空巡棲姫。深海の傭兵であり、先日ジャカルタで提督と共闘したことをきっかけにして、提督に雇われることになった。勿論、大本営には秘密にしているので、表向きは海外から研修にやってきた艦娘という事にしている。29

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「気をつけてね。あと、身分だけじゃなくて下も隠して」「まだ言うのかよ」「当たり前だよ」「ちょっと、何騒いでるの？」そこにゴトランドがやってきた。「うわっ」ゴトランドはアトランタを見るなり声を上げた。「誰だよ」「何でスカート履いてないの？」「質問に答えろ。誰だお前」30

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会話が大渋滞を起こしている。「あーもー、ゴトランタもアトラントも落ち着いて」「提督さん、混ざってる」「……ゴトラタンもアタランテも落ち着いて」「それは別のゲームじゃない？」「げふん。ゴトランド、アトランタ、ステイ！そしてゴトランド、自己紹介！」31

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「んー？自己紹介？アトランタは私のこと、とっくに知ってると思ってたんだけど」「この子は最近来たばっかりだから」「そっか。じゃあ……」ゴトランドは軽く咳払いして、名乗った。「はじめまして、北欧スウェーデンから参りました。航空巡洋艦ゴトランドです。どうぞよろしくお願いいたします」32

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アトランタは、差し出されたゴトランドの手を握った。「ふーん。あたしはアトランタ、アメリカの防空巡洋艦だ。よろしく」「防空巡洋艦！ゴトと同じですね！」「あ？あんた、今、航空巡洋艦って言わなかった？」「防空巡洋艦に改装もできるんです」「へえ。コンバート改装ってやつ？初めて見たよ」33

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「……まあ、そんなところね」「ここは長いのか？」アトランタが問うと、ゴトランドは頷いた。「ええ。提督が鎮守府に着任してすぐにやってきました」「ふーん。この鎮守府は入れ替わりが激しいって聞いたけど、珍しい奴もいるもんだね」アトランタの言う通り、この鎮守府は艦娘の異動が多い。34

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「そうね。でも、古くからいる子は、長く残ってるのよ。電ちゃんとか、隼鷹とか、それに、私も」「中々やるじゃん。しかし、スウェーデンにも艦娘っていたんだね」「少数配備されています。優月の、あ、いえ、日本の協力のお陰です」「優月？」35

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「私です。本名、東郷優月」提督が小さく手を上げた。「可愛い名前でしょ？」ゴトランドが微笑む。そんな２人の様子を見て、アトランタはポツリと呟いた。「随分仲が良いんだね」「そう？」「そうだよ。他の奴らと話してると、どつき漫才みたいになってるでしょ、提督さん」「あー、それは……」36

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「当然よ。幼馴染だもの」だが、提督より前に、ゴトランドが先に答えた。「……オサナナジミ？」「私と優月は幼馴染なんだから」「スウェーデン人と、日本人が？」「優月、昔スウェーデンにいたことがあるの。今の元帥の東郷さんがスウェーデンに来た時、一緒に来て、その時に仲良くなったんだ」37

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「……まさか、それでこいつと会うために艦娘に？」すると、ゴトランドは顔を赤らめた。「そ、そういうのじゃなくて、適正があっただけなの。そうしたら、日本で研修を受けてこいって言われて、それで来たのがこの鎮守府だったの。ここに来たいって言ったわけじゃないのよ？本当に」38

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「あーはいはい。……こんなんのどこがいいんだか」アトランタからしてみたら、信じられない話である。「ほんとにねぇ」「他人事ォ！」提督も信じていないようだ。「もう、それよりもお仕事ですよ！ほら、提督、この遠征計画書は今日までなんですから、ちゃんと目を通してサインしてください」39

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ゴトランドが提督に仕事を押し付ける勢いに押されて、アトランタは部屋を追い出された。アトランタは疲れ果てた溜息をつく。これからあんなやり取りを何度も見せられると考えると、それだけで胸焼けがしそうだ。「あー、まったく面倒だ。コタツでのんびりしよう」40

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タンカー護衛艦隊が鎮守府に帰ってきたのは、明け方のことだった。この重要任務には、不知火をはじめ、電、隼鷹、矢矧、熊野、羽黒、龍驤といった、主だった艦娘たちが参加していた。幸い、予定外の戦闘は起こらず、全員無事に帰ってくることができた。42

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艤装をドックに預けた後、矢矧は執務室へ向かった。今回の作戦結果を報告するためだ。「失礼します」ドアをノックしてから開くと、提督はいつも通り席に座っていた。「ご苦労さま、矢矧」「おかえりなさい」いつも通りでないのは、提督の隣の青い髪の女だった。「……え、ちょっと。誰？」43

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「誰って……」「もう、冗談言わないで。ゴトランドですよ？」青い髪の女は歩いて矢矧の側まで来ると、作戦報告書を持つ矢矧の手に触れた。「報告書、受け取りますね？」「え、あ、うん……」矢矧はゴトランドに報告書を渡した。「……本当に忘れてしまったんですか？秘書艦のゴトランドですよ？」44