オーバーロード・オーバーライト #2
(これからSSを投下します。TLに長文が投下されますので、気になる方はリムーブ・ミュートなどお気軽にどうぞ。感想・実況などは #ryudo_ss をお使いいただけると大変ありがたいです。忙しい方はtogetterまとめ版をどうぞ。それでは暫くの間、お付き合い下さい)
2020-06-26 21:01:01矢矧は混乱していた。ゴトランド。先日イタリアのコナモンリーグに出場した時に出会った提督の幼馴染だ。それは知っている。ただ、そんな強敵が現れてからしばらく経つのに、今の今まで自分が何もしてないのはありえない。なぜなら矢矧はメインヒロインだからだ。1
2020-06-26 21:03:00メインヒロインがサブヒロインの登場に反応しないという致命的矛盾。状況分析の末、矢矧はこれを『アップデートパッチ』のせいにした。攻略中にゲームデータが更新されたので、シナリオに矛盾が生じたに違いない。この事態を打破するため、矢矧は急いで仲間たちの下に向かった。2
2020-06-26 21:06:00休憩室に入って、開口一番矢矧は叫ぶ。「大変よ!アップデートパッチが当たって幼馴染系ヒロインが追加されたわ!」「出ろやアホンダラ!」そんな矢矧は、唐突な怒号で出迎えられた。「えっ、な、何!?」いきなり怒鳴られて矢矧は素でびっくりしてしまった。3
2020-06-26 21:09:00「あー、ごめん。あれだよ、あれ」矢矧に気付いた隼鷹は休憩室にあるコタツを指差した。そこには、肩まで深々とコタツに潜り込んだアトランタがいた。「あたしは遂にこいつと一体になった。もう誰もあたしを止めることはできない。スヤァ……」「不法占拠やめーや!皆が入れへんやろ!」4
2020-06-26 21:12:00龍驤と不知火がアトランタを引っ張り出そうとしているが、中々出てこない。「何してるの……」「いや、見ての通り、アトランタがコタツを独り占めしてるんだよ。寒いんだって」「そんなの後でいいじゃない。それより、新ヒロインが追加された方が問題でしょう?」「新ヒロイン?」5
2020-06-26 21:15:01「そう、新ヒロインよ!アップデートパッチが当たって、提督の幼馴染が出現したわ!これは強敵の属性よ、何しろわざわざ追加ルートが作られてるぐらいだから。メインヒロインとして負けられないわね……!」「何アレ」「いや、矢矧なりの気合の入れ方でねえ……」隼鷹がフォローする。6
2020-06-26 21:18:00矢矧は艦娘ではあるものの、中身はごく普通の女子高生であり、戦場で命を懸ける覚悟など持ち合わせていない。そこで、自分をメインヒロインと思い込むことで、自分は死なないと暗示をかけた。そうすることで何とか艦娘としてやっていけているのだ。7
2020-06-26 21:21:00「いや、妄想するにしても、もう少しまともなのはなかったのかよ……」説明を聞いたアトランタは、当然ドン引きであった。「心持ちぐらい好きにさせてよ!どっかの金剛みたいにキメろっていうの!?」「自覚はあるんだ……」狂気に落ちきれないところが、矢矧の悲しいところである。8
2020-06-26 21:24:00「それはそうと、アップデートとはどういうことですの?」熊野が問うと、矢矧はようやくここにきた理由を思い出した。「そうよ、アップデート!提督の幼馴染を自称する、不審な海外巡洋艦が現れたの!」「不審な」「海外巡洋艦?」全員の視線がアトランタに集まった。9
2020-06-26 21:27:00「ちょっと、なんであたし?」「海外巡洋艦」「深海棲艦だぞ」「偽装の艦籍は海外巡洋艦」「ちげーよ!そうかもしんねーけど、幼馴染は名乗らねえよ!」「名前はゴトランドって言ってたわ」矢矧が付け足した。「似てる」「全然違うじゃん!アトランタとゴトランド、トランの3文字じゃん!」10
2020-06-26 21:30:00「大体アレだろ、ゴトランドだろ?知ってるよ。昨日会った。この前のたこ焼き大会で活躍したらしいじゃん?」憮然とするアトランタ。その言葉に龍驤が反応した。「待てや。知らんで、そんなん。誰がゆーとった?」「だからゴトランドだってば」11
2020-06-26 21:33:00「はーん。とんだホラ吹きやな!矢矧ぃ!そいつ、どこにおる!?」「執務室にいると思うけど」「よーし」龍驤はアトランタから手を放した。「どこの誰やか知らんけど、ウチの手柄にケチつけるたぁええ度胸やんけ。一発どついてくるわ!」矢矧が止める前に、龍驤は肩を怒らせ休憩室を出て行った。12
2020-06-26 21:36:00「そういや一回戦で当たってたし、大会の後の殴り込みにもおったわ」戻ってきた龍驤は5分前と正反対のことを言い出した。「何言ってるの!?」「せやから、思い出したんやって。スウェーデンのベビーカステラ職人。提督の幼馴染やろ?最初、たこ焼き職人のライバルかと勘違いしてたんや」13
2020-06-26 21:39:00龍驤の口からは、矢矧たちには覚えのない記憶がすらすらと流れてくる。「いたかしら……?」「全く覚えがありませんが」矢矧と不知火は顔を見合わせる。龍驤はどちらかといえばツッコミだ。こんなボケをかます人間ではない。もちろん、嘘をついているようにも見えない。14
2020-06-26 21:42:00「こりゃあれかね。たちの悪い悪魔でもとりついちゃったかね」「隼鷹、それはないでしょ。提督の幼馴染に悪魔がいたなんて」「いや、そうじゃなくて。提督の幼馴染になりすませるように、みんなの記憶を書き換える悪魔が出たってことよ」「悪魔の能力がピンポイントすぎない?」15
2020-06-26 21:45:00「あたしもそう思うけどさあ……他に何がある?」「提督が私たちに秘密で、何か進めてるんじゃないの?」答えたのは五十鈴だった。「海外艦とか、それこそそこのアトランタみたいに、深海棲艦だったりしない?」提督は公にできない事案をいくつも抱えている。ゴトランドもその一つかもしれない。16
2020-06-26 21:48:00だが、隼鷹は首を横に振った。「それだったらあたしらの誰かには言うでしょ。それに、記憶を書き換える必要があるかい?」「それもそうね……」「いやしかしオサナナジミ……うーん、そういうのもあったか。盲点だった」「隼鷹?」「あ、いや、なんでもない」17
2020-06-26 21:51:00「だったら提督に聞いてみればいいんじゃないの?」未だコタツに潜り込んだままのアトランタが言った。「幼馴染か、何か訳があるのか、本人が一番良く知ってるでしょ、普通」「いや、当てにならないよ。提督の記憶は間違いなく変わってるだろうし」何しろ記憶を書き換える張本人が隣にいるのだ。18
2020-06-26 21:54:00「そしたら、提督に詳しい人に聞いてみたらいいんじゃない?親とか、友達とか」「親はともかく、友人はいますね。ちょうど、今日こちらにいらっしゃる予定の方が」「誰だっけ?」隼鷹の問いに不知火が答えた。「倉田特務大尉。士官学校では、提督と同期だったご友人です」19
2020-06-26 21:57:00「ふんふーん、ふふふーん」キッチンに野菜を切る軽快な音が響く。調理者はエプロンを付けた比叡である。その隣には金剛と榛名と霧島が並び、料理を手伝っている。比叡がゴトランドのためにカレーを作ると言い出したので、姉妹総出で危険な行動をしないかどうか見守っているのだ。21
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