オーバーロード・オーバーライト #5

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劉度 @arther456

(これからSSを投下します。TLに長文が投下されますので、気になる方はリムーブ・ミュートなどお気軽にどうぞ。感想・実況などは #ryudo_ss をお使いいただけると大変ありがたいです。忙しい方はtogetterまとめ版をどうぞ。それでは暫くの間、お付き合い下さい)

2020-07-02 20:31:00
劉度 @arther456

【オーバーロード・オーバーライト】#5

2020-07-02 20:32:00
劉度 @arther456

工廠の一角に、今は使っていない倉庫がある。「何だか、大騒ぎになっちゃったね」入り口から外の様子を伺っていたゴトランドが呟いた。ここなら、他の人間が彼女たちを見つけることはない。「もう少し隠れて、それから移動しよっか」「ねえ、ゴトランド」提督がゴトランドに話しかけた。「何?」1

2020-07-02 20:33:00
劉度 @arther456

「お前は、一体誰なんだ?」2

2020-07-02 20:34:00
劉度 @arther456

青い髪の女が振り返る。「どうしたの、急に?」「私は、ゴトランドなんて、知らない」「変なこと言うのね。私はゴトランド、貴方の幼馴染よ。覚えてるでしょう?」「覚えてる、けど……」提督は震えた息を吐く。「あり得ないんだ。私に幼馴染なんて」「そんなわけないじゃない!」3

2020-07-02 20:36:00
劉度 @arther456

ゴトランドは駆け寄り、提督の手を握る。「どうしちゃったの、優月?昔はよく一緒に遊んでくれたじゃない。その、スウェーデンにいる間の、短い間だったけど。でもこうして私が艦娘になって、優月の鎮守府に来て、一緒に戦って!それを全部忘れちゃったって言うの!?」4

2020-07-02 20:39:00
劉度 @arther456

「忘れてない、覚えてる!……でもおかしいんだ」提督は確信している。ゴトランドとの思い出が偽りだと。「ひっどい……!」それが、ゴトランドには許せなかった。「成長したら幼馴染なんて用済みか!お前なんかこの主砲でぶっ飛ばしてやる!」ゴトランドは主砲を抜き放ち、構えた。5

2020-07-02 20:42:00
劉度 @arther456

「ッ!?」すぐにゴトランドは異常に気付く。先程まで身につけていなかったはずの艤装。頭上には暗雲が広がり、足元には海。倉庫の中ではない。霧が立ち込める海の中に彼女は立っていた。「ワープ……じゃない」ゴトランドは自分の言葉を否定する。背筋を這い登る感覚に覚えがある。6

2020-07-02 20:45:01
劉度 @arther456

ここは現実ではない。提督の過去の中だ。より深く、強く、提督の物語を書き換えようとして、ゴトランドの意識が入り込んだ。普通なら、この物語をゴトランドの思い通りに変えることができる。だが、強い物語は力を持って抵抗してくる。ましてやそこに、魂が宿っているのであれば。7

2020-07-02 20:48:00
劉度 @arther456

霧の向こうに人影が見えた。近寄るにつれハッキリとした姿は、純白のドレスを着た華奢な女性だった。腰まで届く金髪を長い三つ編みにした碧眼の女性は、その身に似つかわしくない大鎌を構え、力強く名乗った。「戦艦、シャルンホルスト、参ります。これ以上提督は傷付けさせません!」8

2020-07-02 20:51:01
劉度 @arther456

「優月、脳内彼女がいたんだ。ふーん」ゴトランドは改めて自分の艤装を確かめる。主砲に機銃、水上機射出用のカタパルト、大型探照灯、対潜装備一式。一通りのものは揃っている。戦艦相手でも十分戦える。「でもそんなんじゃ、幼馴染には敵わないわよ?」ゴトランドは自信満々に言い放った。9

2020-07-02 20:54:00
劉度 @arther456

気持ちの悪い感触が肌を撫でて、シャルンホルストは目を覚ました。目を開ければ、霧の濃い海の上。冷たい水底ではない。それで、シャルンは提督の身に何かが起きていると察した。誰かが提督の魂を掻き乱している。艤装を確かめ、大鎌を握ったシャルンは、気配の大本を探す。11

2020-07-02 20:57:00
劉度 @arther456

キスカの海でに沈んだシャルンだったが、ドリフト・システムで接続された精神はなお、提督の中で生きていた。何かができるわけではない。意識もまばらで、普段は水底で微睡んでいるかのような心地だ。だから、こうして意識をハッキリと保っているのは、提督に何かが起こっている証拠だ。12

2020-07-02 21:00:01
劉度 @arther456

少し進むと、霧の向こうに人影を見つけた。洋上に立つ青い髪の女性。「見つけ……ッ!?」それを直視した瞬間、シャルンは悲鳴を上げそうになった。人ではない。真っ当な命かどうかも怪しい。例えるなら、色のついた波打つ空間が、気まぐれに人のように振る舞っている、そんな存在だった。13

2020-07-02 21:03:00
劉度 @arther456

相手がシャルンに気付いた。シャルンは恐怖を隠して、武器を構える。「戦艦、シャルンホルスト、参ります。これ以上提督は傷付けさせません!」これが提督の魂を蝕んでいる事は、聞くまでもなく明らかだ。ならば、討つ。シャルンホルストには覚悟があった。14

2020-07-02 21:06:00
劉度 @arther456

「優月、脳内彼女がいたんだ。ふーん」相手は何やら一人で頷いている。「でもそんなんじゃ、幼馴染には敵わないわよ?」「何が幼馴染ですか」「優月の幼馴染のゴトランドよ。知らないの?片思いの幽霊さん?」シャルンの心を見透したように、青い目が細められる。15

2020-07-02 21:09:00
劉度 @arther456

反射的に、シャルンは主砲を放っていた。砲弾はゴトランドには当たらず、その後方で大きな水柱を起こした。ゴトランドは主砲を構えつつ接近してくる。「このっ!」シャルンは副砲で牽制した。副砲といえども、軽巡洋艦には致命的な打撃力だ。ゴトランドは回避に専念している。16

2020-07-02 21:12:00
劉度 @arther456

牽制しつつ、主砲を再装填。副砲で弾幕を張り、ゴトランドを砲火で囲む。「主砲、照準」足が止まったゴトランドに砲口を向ける。「Feuer!」28.3cm三連装砲が火を吹いた。砲弾は足を止めたゴトランドを貫くはずだった。だがゴトランドは、あえて弾幕の中に飛び込み主砲を避けた。17

2020-07-02 21:15:01
劉度 @arther456

「なっ!?」尋常の判断ではない。副砲といえども軽巡には無視できない破壊力があるはずだ。しかしゴトランドは、弾幕の中を散歩するかのように悠々と進んでくる。まるで、主砲の弾道が全て見えているかのようだ。射程距離にまで迫ったゴトランドは、Bofors 15cm連装速射砲 Mk.9改+単

2020-07-02 21:18:00
劉度 @arther456

砲弾がシャルンに命中、炸裂した。「きゃあっ!?」シャルンの体に衝撃が走り、皮膚が焼け、血が吹き出る。だが、苦痛よりも驚愕が上回った。「いつの……間にっ!?」構える動作も、狙う動作も、放たれた砲弾も見えなかった。ゴトランドのBofors 15cm連装速射砲 Mk.9改+単装速射砲M

2020-07-02 21:21:00
劉度 @arther456

シャルンの胴体が砲弾に貫かれた。力を失った体がゆっくりと倒れ、海に沈んでいく。「見えるわけないじゃない。描写されてないんだから」ゴトランドは腰の主砲を得意気に撫でる。「北欧の装備はいい装備なのよ。名前は長いけど」シャルンの体は水面下へ没し、見えなくなった。20

2020-07-02 21:24:00
劉度 @arther456

霧が一段と濃くなってきた。ゴトランドの周りが白い世界に覆われる。「うーん……優月、どこにいるのかな」文字通りの五里霧中。少しでも先を見通そうと、ゴトランドは探照灯を付けるが、手がかりは見つからない。その背後に、黒い影が浮かび上がった。21

2020-07-02 21:27:00
劉度 @arther456

「ッ!?」間一髪、身を翻したゴトランドの鼻先を、大鎌の刃が通り過ぎていった。そこにいたのは、先程沈んだはずのシャルン。しかし姿が違う。顔の大半は鬼を模した黒い仮面で覆われ、唯一顕な青い左目は鋭い光を湛えている。大鎌や艤装、身に宿す魔力も禍々しく変質している。22

2020-07-02 21:30:01