オーバーロード・オーバーライト ＃７（完結）

劉度 @arther456

◇◇◇◇◇◇◇

劉度 @arther456

（これからSSを投下します。TLに長文が投下されますので、気になる方はリムーブ・ミュートなどお気軽にどうぞ。感想・実況などは #ryudo_ss をお使いいただけると大変ありがたいです。忙しい方はtogetterまとめ版をどうぞ。それでは暫くの間、お付き合い下さい）

劉度 @arther456

【オーバーロード・オーバーライト】＃７

劉度 @arther456

翔鶴を追った不知火たちは、工廠近くの倉庫に辿り着いた。中からは派手な争いの音が聞こえてくる。恐らく、翔鶴とゴトランドが戦っているのだろう。不知火はすぐに指示を出し、倉庫を包囲した。「これより発砲を許可します。ゴトランドを発見次第、撃ってください」1

劉度 @arther456

倉庫へ銃口が向けられる。正面は不知火が、裏手はアトランタが抑えた。「アトランタ、そちらはお願いします」《はいはい。クソッ、もうすぐ夜だってのに……》通信機の向こうでアトランタが毒づく声が聞こえる。彼女の言う通り、時刻は夜を迎えつつあった。2

劉度 @arther456

不意に、入り口から誰かが飛び出してきた。ゴトランドと翔鶴だ。不知火は迷わず引き金を引いたが、銃弾は艤装に弾かれた。中から出てきた２人は、包囲網には見向きもせず、一目散に海へと駆けていく。「……提督は？」ゴトランドも翔鶴も、提督を連れていなかった。ということは、中だ。3

劉度 @arther456

「アルファ、突入！」「Go! Go! Go!」くマリンコが突入する。「Clear!」「Cle……coff, what!?」「グワーッ！？」「Back, Back!」くマリンコたちが倉庫から撤退してきた。「どうしました」「Gas……ガスだ！酷い臭いだ！何かの毒ガスかもしれん！」4

劉度 @arther456

「提督は！？」「奥に！だが、これでは近付けん！」不知火は迷うことなく走り出した。息を止め、倉庫の中に飛び込む。途端に涙が吹き出てくる。一吸いすれば気絶してしまいそうな激臭だ。目元を拭って、提督を探す。見つけた。倉庫の一番奥。床に倒れている。5

劉度 @arther456

「てい……ゲホッ、提督！」臭いをこらえて駆け寄るが、返事はない。不知火は提督を引きずって出口へ運ぶ。臭いがきつい。酸素が足りない。出口はまだ遠い。間に合うか。呼吸の限界が先だった。空っぽになった肺に、悪臭という概念を濃縮したかのようなガスが叩きつけられる。「がはっ…！？」6

劉度 @arther456

異常な臭気に不知火の体は跳ね、床に倒れた。身動きが取れない。せめて提督を、と思っても、体が動かない。「あああああっ！くっせー！」突然、入口から悲鳴が聞こえてきた。見ると、隼鷹が酷い顔をしながら走ってきた。手には口を縛ったビニール袋を持っていた。7

劉度 @arther456

隼鷹はビニール袋を不知火に叩きつけると、叫んだ。「息！」不知火は袋の口を空け、中の空気を吸い込む。たった一呼吸だが、それで十分だった。立ち上がり、隼鷹と共に提督を引きずって脱出することができた。「……感謝します、隼鷹」「おええ……」嘔吐が返事だった。8

劉度 @arther456

「不知火！無事……uoops」金剛が駆け寄ろうとしたが、口元を抑えて後退りした。「昆布茶さん！昆布茶さーん！」「任せろ！」金剛に呼ばれた銀髪のロシア人女性が、手にしたウォッカを不知火たちに浴びせかける。強烈なアルコール臭が、纏わりつくガスの臭いを上書きする。9

劉度 @arther456

「うえっふ、げほっ、げほっ……」提督が息を吹き返した。「ご無事ですか、提督」「不知火……？あれ、ゴトランドと翔鶴姉は？」「２人は……」探してみると洋上にいた。「あちらです」２人は艤装を展開し、熾烈な洋上戦を繰り広げていた。他の艦娘たちは岸からそれを見守っている。10

劉度 @arther456

「夜戦なら巡洋艦の本領発揮よ！」ゴトランドは大型探照灯を点灯させ、主砲を連射する。一方、翔鶴は一方的に攻撃されている。夜間攻撃ができない空母は夜戦ではただの的だ。「……本当に、そう思いますか？」数発の砲弾を避けた後、翔鶴は突如加速、ゴトランドに肉薄した。11

劉度 @arther456

振り下ろされた拳をゴトランドは横っ飛びで避ける。海面に拳が叩きつけられ、巨大な水柱が上がった。技も何もない、正規空母のパワーを叩きつけただけの一撃だが、それ故に一撃でも貰えば致命傷になるだろう。「だけど間合いに入ってきたなら、私の勝ち！」12

劉度 @arther456

二撃目など放たせはしない。ゴトランドは必中のBofors 15cm連装速射砲 Mk.9改＋単装速「イヤーッ！」「グワーッ！？」発射前に翔鶴のチョップがゴトランドの主砲を叩き割った。「遅い」「ちょっと……描写に割り込んでこないでよ！？どうなってるの！？」13

劉度 @arther456

「どうなってるの……翔鶴姉、頭治したんじゃなかったの！？」提督はゴトランドとは違う方向性で驚いていた。陸軍の《精神鑑定》で翔鶴の精神は正常になったはずだ。「倉田ァ！」「いや、ちゃんと治ったはずですよ？クリスマスとかハロウィンとか、言わないじゃないですか」14

劉度 @arther456

「他人を妹呼ばわりする人の何が治ったって！？」「病院にいた時は妹の話なんて一言もしなかったんですよ！脳波も問診も問題なかったから、退院させたのに、それで問題があったらどうしようもありませんよ！？」２人が言い争っている間にも、ゴトランドと翔鶴の戦いは続いている。15

劉度 @arther456

主砲を失ってもゴトランドは退こうとしない。「当たり前でしょ。退いてたまるもんですか……！」拳を避け、反撃の蹴りを放ってゴトランドは叫ぶ。「ゴトが優月のお嫁さんになって守るって、小さい時に約束したんだから！」「提督」不知火が疑問の視線を送る。「知らない、身に覚えがない」16

劉度 @arther456

「何を言っているの？」翔鶴はゴトランドの蹴りを受け止め、更に拳を振り回す。「幼馴染ごときに瑞鶴を守れるわけがないじゃない。瑞鶴を守れるのはお姉ちゃんの私だけ。瑞鶴だって、そう言っていたわ」「提督」不知火が疑問の視線を送る。「知らない、身に覚えがない」17

劉度 @arther456

「まったく……」不知火はうんざりした様子で呟いた。「提督を守ると言いながら、提督には見向きもしない。結局自分のことしか考えていないのが丸分かりね」不知火が提督の腕を強く握りしめる。「……ぬい？」酔ってるのか。辺りに漂うウォッカの匂いをかぎ、提督はそう考えた。18

劉度 @arther456

これはもうどうにもならないかもしれない。提督がそう考えていると、だるそうな声が聞こえた。「おーい」振り返ると、アトランタがコタツに入ったまま、戦車のようにこちらに這ってくるのが見えた。しかもコタツには港湾棲姫も入っている。さながらゲームに出てくるキャタピラ式巨大地上戦艦だ。19

劉度 @arther456

「何がどうしてそうなったの？」「いや、何か急にこいつが入ってきて」提督の質問にアトランタが困り顔で答える。「姫ちゃん何やってんの」「めええ……」港湾棲姫は不機嫌そうに唸っている。「どうしたの」「めえめえ……取られた……」港湾棲姫は翔鶴とゴトランドの方を指差した。20

劉度 @arther456

「飛べ！ゴトシープ！ステージ２！」ゴトランドは羊を振り回している。どうやら港湾棲姫は、あの羊が欲しいらしい。「今それどころじゃないから」「……むう」港湾棲姫は眉をハの字にして洋上の戦いを睨みつける。「なら、止める！」「えっ」何故かアグレッシブな港湾棲姫に、提督は驚いた。21

劉度 @arther456

「止めるっていっても、あの２人はちょっと……」確かに港湾棲姫は強力な深海棲艦の個体だが、それでも翔鶴とゴトランドという異常現象の中心２人を止められるとは思えない。だが港湾棲姫はやる気満々だった。「２人だけじゃない。もっと沢山止める」「たくさん……？」22