Prolog (非)日常編 ▷▶希望と青春のミックスジュース

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『さて……と』 入学式まではだいぶ時間がある。パンフレットに書かれた集合時間はなぜか入学式よりも1時間30分も前の時間帯だった。 ちょっとおかしいとは思ったが、学園の方針ならば従うしかない。

2020-08-02 21:13:12
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どうしたものかと考えている内に、校舎の近くに見覚えのある赤い髪を発見する。 特徴的な鮮やかな赤い髪をした彼は、花壇の傍のベンチで薄っぺらい本を読んでいるようだった。

2020-08-02 21:13:31
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『紫音 呼称』──。俺がスポットライトの当たらない人間──裏仕事なら、こっちは表舞台に立つ専門の人間の代表例。 その端正な顔立ちは何度もテレビで見たことのあり──それに何度か仕事現場で見た事のある顔だった。

2020-08-02 21:14:48
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先程、彼の名前は見当たらなかったはずだ。もしかしてと思い先程のShirokuroの画面をスクロールすると、隠れていた彼の名前やら有名人の名前やらが出てきた。 ──どうやら彼も、ここの生徒らしい。

2020-08-02 21:15:08
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『あ、おーい。呼称、お前も……』 「……はぁ……。チッ……うぜえな。話しかけんじゃねえよ」 そう言って、呼称はギロリと鋭い視線で俺を睨む。所謂ガンを飛ばされた、と言うやつだ。 『……』

2020-08-02 21:15:37
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「あー……だりぃー……。なんで俺が学校なんて来なくちゃいけないんだよ……はぁ……。入学式ねぇ……」 呼称はため息をついて、ぶつくさと文句を言っている。

2020-08-02 21:15:57
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彼の読んでいる本へと視線を落とすと矢張、案の定というか、それには見覚えがあった。 右上の題名を記す小さな文字は『ボコスカ学園』と書かれている。 本文には鮮やかな蛍光マーカーが引かれているのが見て取れた。 ──台本だ。 大丈夫。呼称に限らず、『こういう役者』は意外といるものだ。

2020-08-02 21:16:44
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『呼称、そいつはそこまでツンケンしてない。どちらかと言うと兄貴分だとかそういう立ち位置だ。もう少し大人しめの方がいい。 ……というか、もっと自然体でいいと思うぞ?』

2020-08-02 21:18:03
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どうやら呼称は台本に書かれた『不良役』に入り込んでしまっているようだった。

2020-08-02 21:18:15
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俺の言葉を聞いた呼称はキッとつり上がった目でひとつ、ぱちりと瞬きをする。すると、いつものようにトロンとした眠そうな目が現れた。 彼のその独特の表情は甘いマスク、と言えなくもないが、俺にしてみればそれは『呼称がぼんやりしてる時の顔』だ。

2020-08-02 21:18:29
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「……おや? しゅがさんじゃないかー。なんで君がこんなところに? ドラマの撮影か何か?」 彼はパッと明るいトーンで──それでもだいぶ低い声でそう言いながら、台本に先程指摘した注意を書き込む。 どうやら演技スイッチはOFFになったようだ。

2020-08-02 21:19:00
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『はは、いや。入学式だよ。入学式の日に撮影のスケジュールを入れる学校なんてないだろう?』 「ああ、それもそうか」

2020-08-02 21:19:22
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紫音 呼称。──職業は役者。 彼は母親も父親も現役の役者で、祖父母も元役者。女優だとか、声優だとか、舞台役者だとか、歌舞伎役者だとか、落語家だとか。あの一家の家系図を辿れば、ありとあらゆる役者業をコンプリートしていた。

2020-08-02 21:19:42
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そんな頭からつま先まで先祖から孫に至るまで、DNAから役者で出来ている彼には『演技スイッチ』というものがあるらしい。

2020-08-02 21:20:10
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呼称は役に入り込みやすいタイプの役者というか──役によって人格まで影響されるらしく、現場によってガラリと雰囲気が変わる。先程のような一匹狼タイプの役に当たった時は最悪だ。あいつのせいで、現場中がピリピリしている──らしい。

2020-08-02 21:20:35
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……まあ、俺の仕事は脚本を書くところまでだ。現場にそこまで赴くことはないのでそこまで知っているわけではないけれど。

2020-08-02 21:21:36
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俺と呼称は知り合いだった。 知り合いと言ってもよく同じ現場に着くことが多かっただけで、別に俺たちはお互いのことに興味がない。 今思うと、彼と同じ現場になることが多かったのは《超高校級候補がタッグを組んだ》というブランドによる話題性のためだったのかもしれない。別にいいけど。

2020-08-02 21:21:56
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どこかではまるでニコイチかのように扱われていると風の噂で聞いたが、本当は『現場の外』ではこうして話すのすら実は初めてだったりする。

2020-08-02 21:22:19
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さっきのような『台本読み』の段階なら兎も角、いざ現場に入った呼称は完全にもう仕上がっていて演技指導なんて殆ど必要ないし、未成年でアルコールの飲めない上に仕事のない日の夜は当然門限のある俺たちは大人たちの社交場である『打ち上げ』なんてものには参加したことはなかった。

2020-08-02 21:22:29
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まあ、つまり。 彼とはそもそも仲良くなる機会なんてなかったのだ。 世間の持て囃す名コンビの正体は、ただの顔見知りなのである。 俺は彼のSNSアカウントすら知らない。

2020-08-02 21:23:01
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『……えーと、入学式までの間は自由時間だっけ? 結構時間あるし、その辺ぶらついててもいいと思うぜ?』 俺はパンフレットを広げて呼称に言葉を投げかける。 「そう。だから入学式までの間は有意義に使おうと思って、台本を読んでるのだよ。 偉いっしょ?」 呼称は緩い笑いを携えて自分を指さした。

2020-08-02 21:23:37
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「それに今探検したら迷子になるからね、俺は」 そう言って呼称はすんっと真顔になる。 『ああ……』 「兎にも角にも、ここで知り合いに会えてよかったよ。 この機会に仲良くしよーぜな、しゅがさん。 というわけで、位置情報アプリのIDでも交換しようじゃないか」

2020-08-02 21:24:22
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迷子になっちゃった時に参考にするから、と懐っこい犬のように笑いながら呼称はスマートフォンを差し出した。 とりあえず、SNSアカウントは知った。こうして俺たちは顔見知りからクラスメイトにランクアップしたのである。

2020-08-02 21:24:39
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通知を入れたのは、学園から必ず入れるようお達しのあった絞里学園公式アプリ『Shirokuro』だ。 pic.twitter.com/IkBuhYf0zX

2020-08-02 21:25:54
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