1Q69 BOOK2

いよいよ第二次ウエミン事件が勃発。 長崎県の佐世保で起きた中国残留孤児二世による金属バット撲打事件から一年。小学六年生の五人が米軍基地を占拠する異常事態に。 Twitterでのパラレルワールド小説のまとめです。
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新田靖浩 @neo_mx

#1Q69 84: 遠藤家の朝は、九十九島せんぺいの工場で働く母親と佐世保北高に通う姉は七時半には家を出る。いつものように一人家に残った遠藤は、母親と姉それぞれに新聞の折込チラシの裏紙を使って、短い手紙を書いた。

2011-07-06 01:12:30
新田靖浩 @neo_mx

#1Q69 85: 母親宛には「心配せんで。少年院に行っても、出てきたらちゃんと親孝行するけん」、姉宛には「迷惑かけてごめん。ばってん時々は面会に来て」と書いた。遠藤は初犯でも、すぐに少年院に送られると思っていたようだ。

2011-07-06 01:18:43
新田靖浩 @neo_mx

#1Q69 86: 堤の家は質屋をやっていた。お金がない人がお金を借りに来る。堤はまだ小さい時から、そういう人達を見て育った。質草の評価が低くてがっかりしながらも千円札を握り締めて帰る人や、この人はきっと借りても返せないだろうという人、いろんな人の人生を幼くして垣間見てしまった。

2011-07-06 01:29:29
新田靖浩 @neo_mx

#1Q69 87: 質屋には日本刀や鎧も質草として沢山あった。堤は今回の犯行に当たって日本刀を五本調達してくる役目があった。それは力石が言い出したことだ。日本刀を持ってるとかっこいいという程度の理由からだった。しかし、日本刀がしまわれてる棚には鍵がかかっている。

2011-07-06 01:34:07
新田靖浩 @neo_mx

#1Q69 88: 質屋の営業時間は昼過ぎからだった。そのため父親が起きるのは昼前なので、鍵を盗むか壊すかすれば日本刀を持ち出せる。しかし、決行は夜なので、朝に持ち出したら昼過ぎにはばれてしまう。どう考えても無理だ。「ちょっと刀が五本貸して」と言う訳にも行かない。

2011-07-06 01:40:28
新田靖浩 @neo_mx

#1Q69 89: 堤は力石に刀を持ってくると安請け合いしたことを後悔した。できれば、約束したことなので何とかしたかった。そこで、堤は日本刀がある棚の鍵を壊しておいて、夕方に父親が席を外した際に持ち出すことに決めた。昼間にお客さんが来たらアウトだが、それに賭けるしかなかった。

2011-07-06 01:50:07
新田靖浩 @neo_mx

#1Q69 90: メンバー五人それぞれの朝、それぞれに思いも違う。大人であれば、計画の無謀さに反対する考えも出てきて犯行には至らなかっただろう。しかし、まだ小学六年生の五人にとっては仲間と一緒にいることが楽しかったし、仲間と一度決めたことを後戻りさせる慎重さもなかった。

2011-07-06 02:00:03
新田靖浩 @neo_mx

#1Q69 91: メンバー五人が登校してきた。一時間目の後の休み時間に五人は体育館裏の皮日陰に集まった。力石が口火を切った。「いよいよ今日たい。みんなよかね?」 全員が黙って頷いた。何の勝算もない。ただ勝つ気でいただけだった。

2011-07-07 00:12:24
新田靖浩 @neo_mx

#1Q69 92: 昼休み。給食を五人は最後の晩餐(昼食)のつもりで噛みしめて食べた。午後の授業は、全く頭に入っていない。妙な高揚感の中に五人はいた。その日最後の五時間目が終わって、五人は一旦それぞれに散った。夕方六時に力石の父親が経営する喫茶店に集合することになっている。

2011-07-07 00:19:08
新田靖浩 @neo_mx

#1Q69 93:夕方六時、力石の父親が経営する喫茶店に五人が集まった。力石の母がサンドイッチを用意してくれていた。それと後で米軍基地での花火を見に行く時のために普通の海苔つきのお結び、塩結び、いなり寿司が大量に作ってくれてあった。それと堤が学校から盗んだ乾パンもある。

2011-07-07 00:24:05
新田靖浩 @neo_mx

#1Q69 94:さすがに小学六年生で、昼の給食が最後の食事だと思っていたが、サンドイッチを目の前にすると、皆で三分で平らげた。お腹が膨れると妙に緊張が解ける。五人で横になった。誰も何も言わない。たまりかねて堤が「腹ごしらえもできたし、そろそろ行こうで」と声をかけた。

2011-07-07 00:28:27
新田靖浩 @neo_mx

#1Q69 95:堤が学校の後、家に戻ると父親の姿はなかった。質屋の店側に行ってみると、朝に壊しておいた日本刀がある棚の鍵も開いたままだ。母親に尋ねると父親は商工会の会合があって夜まで戻らないと言う。堤は、慌てて日本刀を父親のゴルフバッグに入れて家を飛び出してきた。

2011-07-07 00:34:42
新田靖浩 @neo_mx

#1Q69 96:残り四人も似たようなものだった。一旦家に戻って、「今日は花火ば友達と見に行くけん」とだけ家族に伝えて家を出てきた。何かをやろうという時に、親の了解をとるようなことはなかった。それぞれ自立する年頃になっていたのだ。少なくとも自分達ではそう思っていた。

2011-07-07 00:39:35
新田靖浩 @neo_mx

#1Q69 97:力石の家を出た五人は、まっすぐ米軍基地を目指した。既に花火の場所取りのために米軍基地へ向かう人達が大勢、佐世保橋の方へ歩いていた。佐世保橋は昔は海軍橋と言って日清戦争後の1886年に置かれた佐世保海軍鎮守府があった。今はそこが米軍基地になっている。

2011-07-07 00:46:30
新田靖浩 @neo_mx

#1Q69 98:俊介達五人は、人込みに紛れて佐世保橋を渡った。だが五人の目的地は、花火会場のニミッツパークではなく、基地内のFENが入った建物だった。当時は基地内に入るのに厳重なチェックはなかった。子供であればなおさらだ。念のために背の小さい力石と俊介の二人が中に入った。

2011-07-07 00:58:22
新田靖浩 @neo_mx

#1Q69 99:力石は、いつも喫茶店に来ている放送技師のデイビッドを見つけて、「ニミッツパークは混んどるけん、FENの屋上から花火ば見てもよかね?」と話しかけた。想像してたとおりにデイビッドは佐世保弁で「よかよ」と返してきた。

2011-07-07 00:59:21
新田靖浩 @neo_mx

#1Q69 100: 力石はすかさず「お握りば持ってきとっけん」とデイビッドに告げて、大きな荷物を抱えた遠藤、堤、ウエミンの三人を基地入り口まで迎えに行った。中に入る時に守衛には「デイビッドの許可ば得とるけん」と伝えた。守衛はデイビッドに確認の連絡も取らずに通してくれた。

2011-07-07 01:02:39