女神の庭の殺人ゲーム2(#えるどれ)

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まとめ 女神の庭の殺人ゲーム1(#えるどれ) ## シリーズ全体のまとめWiki https://wikiwiki.jp/elf-dr/ 5253 pv

以下本編

帽子男 @alkali_acid

この物語はエルフの女奴隷が騎士となり失ったものを取り戻すファンタジー 略して #えるどれ 過去のまとめはこちらからどうぞ wikiwiki.jp/elf-dr/

2020-08-24 21:43:37
帽子男 @alkali_acid

さて妖精の騎士のかつての主人であり、闇の総大将たる黒の乗り手は、旧領たる影の国への帰還を果たすべく、魔法の指輪を探す旅を続けていた。 指輪とその守護たる黒き獣はすでに七つまで集めた。八つ目は不思議な夢のお告げで世界の北西、古(いにしえ)に荒れ野の国と呼ばれた地にあると解った。

2020-08-24 21:46:51
帽子男 @alkali_acid

ヤヴァネの庭。 ヤヴァネは遠い昔に世界を去った光の諸王なる神々の一柱、花と木の女神の異称であり、その庭には"木の園丁"と呼ばれる民が住むという。 いずれも女であるが、髪の代わりに蔦と葉を茂らせ、肌の代わりに固い樹皮で全身を覆い、手足の代わりに枝や根を生やしている。

2020-08-24 21:50:49
帽子男 @alkali_acid

影の国の太守であった黒の乗り手は在りし日、木の園丁の伴侶でありながら道を分かった男の種族、木の牧者と出会い、いつか二つの民を再会させると誓いを立てた。 夢のお告げは、誓いを果たすよう求めるものだった。 木の園丁を見出し、木の牧者との絆を取り戻せれば、八つ目の指輪もまた手に入る。

2020-08-24 21:55:47
帽子男 @alkali_acid

かくして黒の乗り手は、ヤヴァネの庭に向かった。 もはや目的に達するのは容易いはずであった。

2020-08-24 21:59:13
帽子男 @alkali_acid

力の源である魔法の指輪を七つまで掌中に収めた闇の総大将は、すでに竜や魔狼、大蜘蛛、歩く亡者、悪霊を宿した傀儡などを魑魅魍魎を従え、工芸と魔法のおぞましい融合である不気味な飛行船を意のままに操り、科学万能の時代においても死すべきさだめの人間にはほぼ敵するものなき強大さだったから。

2020-08-24 22:00:30
帽子男 @alkali_acid

しかし、定命の民の外にはいまだ黒の乗り手を脅かしうるものもいた。 妖精の騎士ダリューテ。最強の魔法と無双の武芸を誇る、西の果て至福の地からの使節。光の諸王、とりわけ英明な炎の男神の信篤きこの女(ひと)をうかつに刺激するのは、魔人としても避けたいところであった。

2020-08-24 22:04:16
帽子男 @alkali_acid

ダリューテは、人類を超常の脅威から守る秘密結社「財団」に与し、黒の乗り手の率いる闇の軍勢とは相容れぬ関係にある。 もし思うがままに暗黒の業を振るえば、必ずや明白(みょうはく)の裁きもまた下るだろう。

2020-08-24 22:07:03
帽子男 @alkali_acid

「なので、みんなはお留守番です」 黒の乗り手たる暗い膚に頭巾の少年ウィストが宣告すると、黒き獣は一斉に騒ぐ。 「んなー!またー!?」 「ニギヤカニシタラ、センニョサマクル!ヤロ!」 「キキィ、キッ」 「クルルル!」 「ワフ!ワフ!」 動物園。

2020-08-24 22:09:00
帽子男 @alkali_acid

「ならば、我等兄弟が護衛につこう」 「いざとなれば妖精の魔法も役に立とうほどに」 くすみ赤みがかった肌に尖り耳の双子がそれぞれ申し出る。そばでは肥満漢が逆立ちして叫ぶ。 「ペドがクレノニジちゃんをお守りするんだな!」

2020-08-24 22:10:31
帽子男 @alkali_acid

クレノニジの異名で呼ばれた男児はしかし、黒頭巾を指でひっぱって整えると、背をしゃんと伸ばし、よく通る声で告げる。 「アルミオンさんとアルキシオさんとペドロフスコさんはお留守番です」

2020-08-24 22:11:41
帽子男 @alkali_acid

「なんと退屈な」 「しかり」 「ペドはクレノニジちゃんのそばを離れたくないんだな!」 不満そうな三人の男の横で、今度は少女のうわべをした人形の群が跳ねたり飛んだりしながら、少年を取り巻く。 「に、人形の皆さんも…お留守番です」. 黒の乗り手は断固として次の訴えも退けた。

2020-08-24 22:14:01
帽子男 @alkali_acid

しばらくして黒犬がくんくん鳴きながら近づき、ウィストの手の甲に濡れた鼻を押し付ける。 「…はぇ」 "ウィスト。誰か一人、いや一匹は供を連れていってくれないか。人参の国で起きたようなことはもう繰り返してほしくない。オオグイなら小さくなって頭巾の中に隠しておける"

2020-08-24 22:16:23
帽子男 @alkali_acid

黒犬が向き直った先には、小さな黒い長虫が虚空でとぐろを巻いている。すぐ側に逆向きにぶら下がった黒蜘蛛と何やら話し込んでいるようすだ。 「…オオグイはだめ」 ”なぜだい。オオグイはうちの一族としてはかなり控えめで迷惑ではない方だけど” 「竜だから…」

2020-08-24 22:18:29
帽子男 @alkali_acid

二つ足の主と四つ足の飼い犬とはしばらく見つめ合った。 ”あ、うん…そっか…” 「竜は…迷惑とか…迷惑じゃないとかじゃなくて…危ないでしょ」 ”そういう考え方もあるね…じゃあチノホシはどう?” 「だめ」 ”蝙蝠は小さくてかわいいよ!” 「噴火させるから」 ”…そっか…”

2020-08-24 22:20:41
帽子男 @alkali_acid

黒犬は人の言葉ならざる声で心に直接話しかける。 ”じゃあ僕は…” 「アケノホシは怒ると死んだひとを沢山呼び出すからだめ」 ”だって…死人占い師だし…” 「うん。だからだめ」 ”じゃあ” 「ホウキボシは歌でみんなおかしくするからだめ」 ”うん…” 「ミチビキボシは病気をはやらすからだめ」

2020-08-24 22:23:48
帽子男 @alkali_acid

頭巾の仔は厳しい。 「だめ」 ”そ、そうだね…めったにしないけど” 「一回でもしたらだめ」 ”だよね…” 「クモは建物でも人でも糸でばらばらにしちゃうからだめ」 ”めったに…” 「一回でもしたらだめ」 ”…うん…”

2020-08-24 22:25:23
帽子男 @alkali_acid

”じゃあ、父さ…カミツキはどう?ウィストはカミツキを一番” 「カミツキは一番だめ」 ”だよね…” 一通り駄目だしをした後、ウィストは嘆息した。 「…置いていくより…連れていった方がいいかって…思ったけど…やっぱり皆…言うこときいてくれなかったし」 ”あ、あのね…”

2020-08-24 22:28:15
帽子男 @alkali_acid

アケノホシは主のほっそりした脚に射干玉(ぬばたま)の毛並みを擦り付ける。 ”ウィストには信じられないだろうけど、皆、人間だった頃に比べたら、すごく大人しくなったんだよ。こんな風に誰かの言いつけを守ったことなんて、例えダリューテさんの命令でもなかったんだ。本当だよ” 「でもだめ」

2020-08-24 22:30:52
帽子男 @alkali_acid

"がーん…" 「…ヒカリノカゼを連れてくから」 そう告げると、からくり仕掛けの小さな翼ある白馬が宙を羽搏いてきて、少年の差し延べた掌にふわりと降り立つ。 "その子は確かによく働くけど、この前の人参のお化けみたいなのには力不足だったよ" 黒犬はなお食い下がる。

2020-08-24 22:33:02
帽子男 @alkali_acid

「…力がない方がいい…」 "力がなければ身を守れないよ" 「だけど…あると傷つける…」 "相手を傷つけなければ傷つくだけだよ" 「…でも…」 "ウィストが傷ついたら、僕等も血を流す。体じゃなくて心が" 「…………解りました」

2020-08-24 22:35:58
帽子男 @alkali_acid

結局ウィストは一匹だけ連れてゆくことにした。 とりあえずクモを伴って飛行船の奥まった部屋に入る。干し草が山と積まれた厩舎を思わす室内に、巨大な瓶詰が一つ横倒しになっている。内部には天馬。しかもからくり仕掛けの玩具ではなく、本物の美しい翼と毛並みを持つ雄駒が収まっている。

2020-08-24 22:38:20
帽子男 @alkali_acid

「お願い…」 幼げな黒の乗り手が乞うと、黒蜘蛛は透き通った糸をたゆたうように躍らせ、やがて八本の脚を巧みに使って張りつめさせる。たちまち鋭利な刃を入れたように瓶の表面に無数の線が刻まれ、すぐばらばらになる。

2020-08-24 22:40:55
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