鏡と以蔵さんの話

マスターと以蔵さんがあやしげなお屋敷に呼ばれたお話です
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かむい @sunyaxxx

「躊躇いがなくて清々しいよ」くすくす笑い裂かれた鏡の破片が宙で止まり落ちない。「やかましい」宙で止まる破片、そして声に静かに冷たい声で…。「やかましいやかましい、ぃやっかましいわ、えい加減に往生しいや、りょおまあああああ!!」以蔵の怒号が鏡にぶつかりいたるところから聞こえる。「ひ

2020-08-23 23:11:22
かむい @sunyaxxx

どいお人じゃ」鏡の中から白い海軍服を着た龍馬の姿が映し出される。「ほんに酷いお人じゃのう、わかっとって、気付かんふりしとったんじゃろうか」切なげな声に鏡に映る龍馬が言えばそれごと蹴り砕かれる。「……す」「にゃあ、以蔵さん、教えて、わしん事気付いとったん?そいとも気付かんでおったん

2020-08-23 23:11:22
かむい @sunyaxxx

?」拳を握りしめ殴り壊す。「……す、」「なに?」「…ろ、す」破片を掴みそのまま腕を振り上げ鏡に突き立てる「マスターの『敵』になったき、殺したいうのに、…往生せんなら、また殺しちゃる!!」

2020-08-23 23:11:23
かむい @sunyaxxx

本気の以蔵の目を破片を突き立てられヒビの入った鏡の中から破片を握り手から血を流すその手に手を当てるように重ねたようにみえる。「大事な剣士の手でそんなものを握ったらダメだろ」そう言いながらその顔はとても嬉しそうで。ぎ…ぃ「ね、それ手から離して捨てて」優しい声で、ぎいいいいい!!!い

2020-08-24 22:26:59
かむい @sunyaxxx

っそう強く鏡の破片を握りしめ鏡を斜めに深く亀裂をいれる。「そんな辛い顔しないで」今度は悲しそうな顔で声で「僕は二度と君を一人にしない、いなくならない、君の手にかかって死なないから、笑って」「おまんが…ここに呼んだんか」頭を下げたままで聞けば「そうだよ」「わしが護衛で来ざったらどう

2020-08-24 22:27:00
かむい @sunyaxxx

する気やった」「来てくれるまで、ここでずっと待ってる気だったよ」

2020-08-24 22:27:00
かむい @sunyaxxx

鏡が割れた?斬り裂かれた?果てなくある鏡を血にまみれた手で鏡の欠片を捨て刀で斬る足で蹴り砕く拳で殴り壊す。それを見て龍馬が笑う。「……ぅ、…」呟かれる言葉に耳を傾ける。以蔵の言葉なら何一つ聞き逃したくない。ついに鏡が最後の一枚を残しそれに向かって刀を振り上げる。「わらうなああああ

2020-08-25 19:36:27
かむい @sunyaxxx

ああ!!!」血を吐くのかと思わんばかりの声がまるで泣いているようだ。澄んだ音をたて一枚の鏡を上から斬り裂いた瞬間以蔵の足元がぽかりと黒い穴が開き足場を無くしそのまま落ちてしまう。

2020-08-25 19:36:28
かむい @sunyaxxx

落ちた先に受け身もとれず固い床に体をぶつけ一瞬息が止まった、が、それでも屋敷が消えていないことに這いずるように痛む体を叱咤し立ち上がる「いらっしゃい」薄暗い部屋の中にあるのは古めかしい家具と白いシーツだけだ。その声は以蔵を待っていた龍馬のもので。まだどこかで以蔵を見て嗤っているの

2020-08-25 20:00:22
かむい @sunyaxxx

だ。目をこらし部屋の中を見るが家具、白シーツ、ひたりと後ろ手に何かがあたる。「マスターばかり見ないで僕を見てよ」手が「僕は、ずっと以蔵さんだけを見てるのに」離れない「ねえ、以蔵さん」強請る声。刀を振り上げようとしたが、何か固いものに左手の掌が触れた瞬間に強力な磁石にでも引き寄せら

2020-08-25 20:00:23
かむい @sunyaxxx

れるかのように足が引き寄せられ手が離れずそして手から伝うねっとりとした生々しい感触…正確に言えば、手に手を絡められ舌で舐められている感触。白シーツの中には何がと見たくない知りたくない。

2020-08-25 20:00:23
かむい @sunyaxxx

体が壁に張り付いたように離れない。すでに手から刀は落とされ握れない。鏡の中にいる龍馬が以蔵を撫でながら顎をとられる感触を感じ顔があがる、目の前には大人の男が二人映るだけの大鏡が出ている。「よく見えるだろう、どんな顔してるか」以蔵を捕まえている龍馬の姿。だが実際には鏡に張り付いてい

2020-08-26 21:42:20
かむい @sunyaxxx

るだけのはずだ。なのに目の前に映っている姿は確かに龍馬に捕まえれて動けない姿が映し出されていた。「僕、以蔵さんのいいところ全部覚えてる、だからねえ、たくさん悦ばせてあげられる、たくさん啼かせてあげられるよ、この鏡の中でずぅっとずぅっと僕と良い事だけしようねえ」「い…やじゃぁ」「も

2020-08-26 21:42:20
かむい @sunyaxxx

うマスターの元へなんて返さないよ、ここで僕と一緒にいようねえ、以蔵さん」

2020-08-26 21:42:21
かむい @sunyaxxx

「以蔵さん!!以蔵さん!!」マスターが戻って、すぐに以蔵もカルデアに『戻った』のだ。その体だけが。体だけが戻り意識が戻らない。何が邪魔しているのかもわからず。治療、データの解析が行われる。だがその体には『異常がない』と出てくるのだ。「どうして!!」マスターが横になり静かな呼吸をし

2020-08-26 21:47:19
かむい @sunyaxxx

ている以蔵の静かな鼓動を感じながらその胸に泣き縋る。口元をおさえ「マスター、以蔵さんの体、僕が引き取ってもいいかな」せめてその体だけでも一緒にいさせてほしいと願いでる。「まだ解析が…」「でも、数値は異常なしだ、以蔵さん、消毒液とか検査とか嫌いだからさ、僕の部屋で一緒に過ごさせてほ

2020-08-26 21:47:20
かむい @sunyaxxx

しい」その目は切なげに揺れる。マスターは涙を流すが「そう、ですよね、以蔵さんと坂本さんは同じ郷里で幼馴染ですから…もしかしたら、坂本さんが話かけたら明日には目を覚ましてくれるかも」「そうかもしれないしそうじゃないかもしれない、でも…ね、」「はい、お願いします」なんて人の良い優しい

2020-08-26 21:47:20
かむい @sunyaxxx

マスターだろう一つも疑いもせず龍馬に『中身のない以蔵』を渡してくれる。以蔵を横抱き抱えながら廊下をゆったりと歩き自室に戻り、呼吸だけをし仮初の心臓だけが動いている以蔵の体を自らのベットに静かに横たえる「おかえり、わしだけの以蔵さん」普段はこんなに触れることもできない。だが今からい

2020-08-26 21:47:21
かむい @sunyaxxx

くらでも触れることができる。そして龍馬は以蔵に触れながら目の前にある『屋敷と繋がっている』大鏡を見ればそこには目を潤ませ熱い体を持て余し苦しそうに喘いでいる以蔵の姿があった。「ようやく取り返したよ、どっちの以蔵さんも可愛がってあげるからね」

2020-08-26 21:47:22
かむい @sunyaxxx

世界に望んだ。 以蔵が自分のものにならない不公平だと自分は自分の願いと想いとそして世界の為にこんなに擦り切れるまで動いているのに…。 以蔵は龍馬を動かす為に召喚され続ける。龍馬のいる世界には必ず以蔵がいる、なのに一度として以蔵は龍馬のものになってはくれない。 どうしたらマスターがい

2020-08-26 21:55:23
かむい @sunyaxxx

てもマスターを『選べず』龍馬のものになる、いや、龍馬だけの以蔵にできるのかと。 そう言えば龍馬はマスターを殺す側となり以蔵に殺された、だが、それでいいのだと世界は言う、肉体を一度失いその魂を『屋敷に置き以蔵を招いた』のだ。 屋敷そのものが龍馬だったのだ。そして以蔵を取り込み逃げられ

2020-08-26 21:55:24
かむい @sunyaxxx

なくし龍馬を殺せなくし鏡の中に閉じ込めた『岡田以蔵の魂』を。 「これで、ようやく公平だ、これでようやく以蔵さんはわしだけのもんじゃ、ずっとずぅっと一緒に行こうにゃあ、以蔵さん、もうこれで置いて行かんきに」以蔵と一緒にいられると思えば冷たく冷え切ったと思った心が歓喜に震えたのだった

2020-08-26 21:55:24
かむい @sunyaxxx

別にホラーでもなんでもなくなってしまった。 結末だけは一番最初から決めてました。 ただひらすらに以蔵さんが欲しかった龍馬さんの話でした。 おわり。 我儘身勝手な龍馬さんでごめんなさい。 あ、石投げないで!!泣くから!!

2020-08-26 21:56:37