ウェイティング・フォー・マイ・ニンジャ #3

翻訳チームによるサイバーパンク・ニンジャ活劇小説「ニンジャスレイヤー」リアルタイム翻訳 (原作:Bradley Bond-san & Philip Ninj@ Morzez-san) ニンジャスレイヤー公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 続きを読む
3
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

闇医者「バシダ」の闇クリニックは、このネオカブキチョの奥まった雑居ビルにこっそりと収納されている。二人のニンジャは人ごみを滑るように抜けてゆく。

2011-07-06 02:44:21
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「早くアンタとオサラバして観光気分に移りたいもんだ。ウズウズするぜ」先程の死闘もどこへやら、シルバーキーは道端の軍服オイランに熱視線だ。「その前に仕事を忘れるな」ニンジャスレイヤーは言った。「近いのだろう、バシダとやらは。案内せよ」「わかってら」シルバーキーはうるさそうに言う。

2011-07-06 02:48:51
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「もう旅も終わりさ、ここまで来りゃあ。これで俺も晴れて自由ってわけで、ちっとは浮かれる気持ちを許してくれんかね? この忌々しい脊椎トランスミッタだか何だかを切り取ってだな、クソったれサージョンの墓に参ってノロイ・ボードをピンク色に塗ってやるぜ、ナメやがってあのサディスト野郎……」

2011-07-06 02:54:36
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……」もはや返事も返さず、ニンジャスレイヤーは人ごみをすり抜けながら、己のニューロンを研ぎ澄ませた。このままで終わろうはずがない。彼のニンジャ第六感は不吉な予感をピリピリと舌の上に伝えてくる。もう一波乱あるはずだ……。

2011-07-06 02:59:38
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「アイエエエエ!」バシダは跳ね起きた。全身、底なし沼で沐浴したかのように不快に汗まみれだ。そしてここはフートンではない!玄関だ。そして自宅でもない。どうやらここは施療院の玄関先である。真っ暗だ。「ナンデ?玄関ナンデ?」壁に手をつき、立ち上がる。激しい頭痛。

2011-07-06 17:54:53
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

わけがわからぬ。頭痛がひどい。脳幹にタタミ針を突き刺されるようなイメージだ。バシダは壁伝いによろよろ歩き、ボンボリ・ライトのスイッチを探す。今は何時だ?なぜ寝ていた?いや、寝るなどと。昏睡ではないか。アルコール?ノー。ズバリ?ノー。ストレス?……ノーとは言えない……。

2011-07-06 18:00:57
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

とにかく明かりを……ボンボリ……バシダは手探りでスイッチに触れる。これだ。しかしそこでさらに頭痛!「アイエエエエ!」バシダは床に膝を着く!苦悶して、痛みから逃れるべく額を壁に押し当てる。真っ暗な視界がストロボめいて光る。悲鳴……鮮血……悲鳴……「アアー!アイエエエエー!」

2011-07-06 18:09:34
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

バシダは嘔吐を堪える。抽象的な脳内映像……闇に閃く……手術の映像記憶だろうか?確かにこのところ飛び込みの仕事が多く、それがこの昏睡や頭痛の原因と考えるのが自然……。なんとか立ち上がり、再度、ボンボリのスイッチに手を触れる。明かりが灯る……「アイエエエエエエ!?」バシダは再度絶叫!

2011-07-06 18:19:15
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

室内に明かりがもどると、視界に飛び込んできたのは、白い壁にべったりと残された鮮血の跡だ。ヒョットコ族のグラフィティめいた乱雑な筆致で縦横に残された痕跡!バシダはもしやと思い己の手の平を見た。真っ赤だ。血だ。自分を見下ろす。「……え?」全身を濡らすのは汗ではない?「血ィエエエエ!」

2011-07-06 18:23:35
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

血だ!自分の血ではない!返り血である!ナ、ナムアミダブツ……!よろめくバシダをさらなる頭痛と映像記憶の嵐が襲う。鮮血……悲鳴……鮮血……悲鳴……「アバーッ!」バシダは頭を押さえて仰向けに転倒し、ふたたび昏倒した。

2011-07-06 18:26:51
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「聴こえるわね、ドーゾ」ザクロはビル屋上で片膝をつき、メンポのIRCインカムに呟く。今のザクロはシゴト仕様、レザーニンジャ装束に身を包んだ「ネザークイーン」である。深夜なお明るいネオカブキチョの明かりを受けると、微かにニンジャ装束はラメめいて暗い光の粒を輝かせる。

2011-07-06 21:03:57
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「うん。聴こえるよ」格子シャッター障子が下りた路面店のショーウインドーをぼんやり見ていたヤモトは、チョーカー型IRC通話機を通してザクロの声に答えた。ザクロは言った。「無茶すんじゃないわよ、アータ自身の力を過信しない事。アタシは上からついて来てる……」「うん」

2011-07-06 21:17:18
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「それと、セクシー!コケットリー!」ザクロは熱っぽく付け加える。「わかる?今回大事なのは色ツヤよ!オトコを呼び寄せてモノにすンの!アータの色ツヤにかかってンの!ホントはアタシが変わってやりたいわ!ホントに変わってやりたい!」「そんな事を言ったって……」「頑張りなさい!」

2011-07-06 21:28:20
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ヤモトは武器として携えているのがオリガミとバタフライナイフだけである事を心細く思った。カバンの中だ。しかも上着も無し、「肩を見せるの!二の腕見せるの!今日は雨も降らないわ!」ザクロはそう言ってライダースを店に置いて来させた。囮を名目に、着せ替え人形めいて遊ばれているのではないか?

2011-07-06 21:33:34
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ヤモトはニチョームを抜け、ナイトクラブやマイコセンターひしめくグリッターヤードに差し掛かる。途端に空気が変わり、酒臭いノミカイ・サラリマンやオイランドロイド、ヤクザやスカウトが行き交う只中へ投げ出される。「君だいぶカワイイだよね?」「お仕事ダイジョブ?」「前後しない?」

2011-07-06 21:43:43
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ボンボリに集まる夏のバイオカナブンめいて手を延ばしてくるスカウトやヨタモノをニンジャ敏捷性でかわしながら、ヤモトは通りを横切り、遊戯バー「おセンス」の脇の路地裏へ入り込む。その頭上、ネザークイーンは建物から建物へ飛び移り、彼女を追う。

2011-07-06 21:55:41
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「いいわ、ちなみにその路地で二人殺されてる」ネザークイーンがインカムで話しかける。「さっきの大通りからちょっと入っただけなのにね。無残に殺されて……身寄りのあるオイランなんていないのよ、花も備えられずに、骨は無縁墓地で」「……」

2011-07-06 22:06:43
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「しかもニチョームの子たちまでヒドイ目に遭ってる。マジロ=サン、クマみたいでカワイイのよ、それなのにこんなヒドイ冤罪……あの子、きっとストレスでやつれちゃう」ザクロは冗談めかして言った。ヤモトは微笑んだ。ザクロはヤモトを気遣ってくれているのだ。

2011-07-06 22:42:53
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

実際、脇道へ入っただけでアトモスフィアは再び一変。サンズ・リバーをすら連想させる不気味なダウンライトボンボリ、会員専用ゲイシャクラブの厳重かつ無関心な鉄扉……淀んだ空気と青い闇の道がヤモトを誘うのであった。「……うん、頑張る」やや遅れてヤモトは返事した。「助けよう」「その意気よ」

2011-07-06 23:04:28
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

曲がり角の電柱でヤモトは思い立ち、屈んでオリガミを二枚取り出す。オリガミはひとりでにアサガオの形に折りあがった。ヤモトはごく短く合掌し、次の路地へ進む。「今、アタシ達は言わば、犯行現場を巡ってる」ザクロが言う。

2011-07-06 23:17:32
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「さっきのグリッターヤード。この先の退廃ホテル街(マジロがボーイフレンドと……まあいいわ)。あと、ヨコチョストリート。その三点を結んだ三角形の中で犯行は行われている。とりあえず、当たるならその三角形の……ちょっとどうしたの」「うん。アタイの……アタイの後ろ」

2011-07-07 01:44:52
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ヤモトは気づかぬフリをしながら歩き続ける。彼女のニンジャ聴覚は一定の距離をおいて追随するピタピタという足音を、歯の隙間から吐き出される息遣いを、ニンジャ嗅覚は血生臭い体臭を、ニンジャ第六感はひりつくような悪意の気配を感じ取っている。ヤモトの瞳に桜色の光が灯る。

2011-07-07 01:47:53
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「早速なんてもんじゃないわ」雑居ビル屋上から身を乗り出し、ザクロは囁いた。「引きが強いわ、アータ。とっても強いわ」ヤモトの背後タタミ3枚距離の位置を、フラフラとよろめきながら尾行する人影。手の甲から生えるグロテスクな鉤爪めいた刃。ザクロは……ネザークイーンは跳躍準備姿勢を取った。

2011-07-07 01:56:26