古代クメールカラテ|プラダル・セレイ

クメール王朝を舞台にしたカラテ文学です。
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ねこざき @nekozaki

陥落した首都から命からがら逃げ出した王太子は、チャンパ軍の追っ手に取り囲まれていた。「囲みを切り破りますゆえ、若様だけでもお早く…グワー!」たちまち槍で突き上げられる腹心!「フォスフォスフォス、あなた達に逃げ場などありません」十重二十重の囲みの向こうで悠然と笑うチャンパ指揮官!

2012-08-03 22:49:15
ねこざき @nekozaki

「あなた達クメールは実際弱い!仮に内輪揉めをしていなかったとしても、我々チャンパ軍なら首都を落とすことなど造作もなかったでしょう!あなたは我らが首都に引き据えられ、戦勝を祝う見世物となるのです!さて、おしゃべりはここまでだ」指揮官はゆっくりと手を上げ、王太子の捕縛を命じようとした

2012-08-03 22:57:06
ねこざき @nekozaki

指揮官が思い入れたっぷりに右腕を振り下ろす!「生き残りの兵は殺せ!王太子は…」「イヤー!」指揮官が言い終わらぬうちに背後からトビゲリアンブッシュ!「アバー!?」指揮官の首がちぎれ飛び、王太子たち、それを取り囲むチャンパ兵の頭上を飛び越えるとゆったりと流れる茶色の川に着水!

2012-08-03 23:08:53
ねこざき @nekozaki

「クメールが弱いと?」倒れた指揮官の胴体の陰に、粗衣を纏った老人が立っていた。「しかり。今まではそうじゃろう。しかし、これからは違う!イヤー!」紫電の速さで右手が飛ぶ!指揮官の脇で呆気に取られていたチャンパ兵の首が飛ぶ!川に着水!「イヤー!」竜巻の如き回し蹴り!首が飛ぶ!着水!

2012-08-03 23:15:08
ねこざき @nekozaki

「ア、アイエエエ!」「アババババー!」「イヤー!イヤー!イヤー!」大混乱に陥ったチャンパ兵の首がたった一人の老人によって次々に飛んで行く!全てのチャンパ兵をゴアめいて殺戮した老人は、王太子に向きなおると静かに言った。息ひとつ乱していない!タツジン!「王太子。よくぞ逃げ延びられた」

2012-08-03 23:22:04
ねこざき @nekozaki

「ご老人命拾いをしました。何重にも感謝いたします」王太子はコジキめいた老人に恭しく礼をした。生き残りのクメール兵たちも慌てて片膝をつき最敬礼を表す。「命拾い?あなたが今日拾ったのは、命などではない。クメールの希望です」老人は目の前の一握りの若者たちを見やった。どの顔もまだ若い。

2012-08-03 23:28:00
ねこざき @nekozaki

「あなた方こそがクメール復興の種となられるのです」「で、できましょうか!?」王太子は勢い込んで老人に聞く。老人は不安と気負いと生気に満ちた王太子の顔をまじまじと眺めた。「できる。その手にプラダル・セレイあれば」「プラダル・セレイ」「ワシが使って見せたカラテのことです」「おお…」

2012-08-03 23:34:41
ねこざき @nekozaki

「我が庵に来なさい。プラダル・セレイを修めれば、たった数粒の種は、踏まれても決して枯れぬ強い芽となり、幹となろう」王太子の背に手をやると老人は彼らを森の奥へと導いた。これは始まりの物語。のちに英主ジャヤーヴァルマン7世と呼ばれることになる王の苦難の道のりの第一歩であった。

2012-08-03 23:40:00