【再放送】サンズ・オブ・ケオス #4

ネオサイタマ電脳IRC空間 http://ninjaheads.hatenablog.jp/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

(シーンだと?)(映画です)コトブキは幌をかぶせ、外界から遮断した。(でも、わたしの視聴記録に照らすと、22パーセントの確率で他の邪魔が入ったり、見つかったりして、無残な死を迎えます。そうならないよう祈ったほうがいいのかも)ニンジャスレイヤーは答えず、目を閉じ、気配を殺いた。 22

2020-10-05 21:09:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

やがてバタン、バタンとドアを開閉する音が聞こえ、カーラジオが漏れ聞こえた。ドルルルッ。車体が震動し、走り出す感覚があった。ニンジャスレイヤーは引き続き息を殺す。逃げ切れるか。彼のニンジャ野伏力は敵の感知能を最後まで欺けるか。一方、隣のコトブキは冷たい荷物めいて微動だにしない。 23

2020-10-05 21:12:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ニンジャスレイヤーは幌の闇の中、険しい顔で目を閉じていた。彼はじっと屈辱に耐えた。彼ははなから逃げるためにガーランドへ攻撃をかけた。己の重い傷を鑑みた逃走だ。状況判断によって、彼は犬死にを免れた。記憶装置も懐にある。だが、ブザマだ。彼はこのブザマを、己の未熟を、胸に刻んだ。 24

2020-10-05 21:15:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

……一方、ガーランドは付近の三叉路で、闇から染み出すように現れた別のニンジャと対峙し、アイサツを終えたところだった。「事情は知らんが」そのニンジャは重々しく言った。「ここは我らサマズ社の重点テリトリー。オヌシとやりあえば俺は死ぬだろう。だが、だとしても協定無視の看過は出来ぬ」 25

2020-10-05 21:18:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ガーランドはニューロンを研ぎ澄ませた。ニンジャスレイヤーはそう離れていない筈。だが、感じ取れない。よく隠れているようだ。目の前のサマズ社のニンジャ、ブラッシュウッドの存在も彼の感知能の邪魔になっている。「……フーッ」ガーランドは息を吐いた。「サマズ=サンと戦争をする気はない」 26

2020-10-05 21:21:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「助かるわい。賢明だ」ブラッシュウッドは頷いたが、カラテ警戒は維持している。「よき日を」「オタッシャデ」ガーランドは跳躍し、電線から屋上へあがると、中立領域の方角へ移動をはじめた。メイレインの死は間違いあるまい。しかし。……走りながら、彼はラオモト・チバへIRCをコールした。 27

2020-10-05 21:24:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

『ガーランドか』怜悧な音声が返った。「ドーモ。メイレインは死んでおりました」『クズ同士、仲間割れか?アジトには他にどこのニンジャが居た』「……ニンジャスレイヤーが、奴を殺しました」『……』チバの沈黙。ガーランドは屋上から屋上を飛びわたり、汚い川と船上生活者地域を見下ろした。 28

2020-10-05 21:27:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

やがてチバは言い放った。『捨て置け』「……」ガーランドは主の答えの意を汲み取ろうとしたが、まずは了解した。「かしこまりました」『戻れ。ガーランド』「は」……ニンジャスレイヤー。少し調べてみる必要があるか。船上生活者を見下ろすガーランドの瞼がひくつき、<六門>の刻印が揺れた。 29

2020-10-05 21:30:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「これだ」ニンジャスレイヤーはタキに記憶装置を放った。「おう」タキは慌ててキャッチし、ケーブルを繋いだ。「ホントに撒いたのかよ、なあ?」髪を掻きながら、彼はタイピングを開始した。「もしお前、アレだったらお前……」「撒いた。間違いない」ニンジャスレイヤーは低く言った。 31

2020-10-05 21:35:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……」タキはニンジャスレイヤーを見た。ニンジャスレイヤーは見返した。「お前、けっこう怪我してんじゃねえか。オレでもわかるってのは相当……」「特にない」「特に、特にね」タキは目を逸らす。モニタに視線が吸い込まれる。「ああ、これだ、メイレインのアクセス……"サンズ・オブ・ケオス"」32

2020-10-05 21:38:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「メイレインは妙な事を言っていた。信仰だ」ニンジャスレイヤーは言った。タキは眉をしかめた。「ッて事は、このお友達どもは信仰仲間か?なんだこりゃ」それは複数枚の画像データ。展開すると、一枚はペントハウスのバーベキューのパーティー写真。一枚はひどく血生臭い磔の死体を囲む写真。 33

2020-10-05 21:41:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

囲む対象は、一方は鉄板。一方は死体。しかし囲む者らは同じだった。皆、ニンジャだった。どちらも「SONS OF CHAOS」とショドーされた垂れ布をバックにしていた。「信じられねえ話だが、ノー・セキュリティだぜ」タキはフォーラムのIRCチャット・ログを見ていった。「何なんだ、こりゃ?」 34

2020-10-05 21:44:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「メンバーのリストはあるか」ニンジャスレイヤーはモニタを覗き込んだ。「ある」タキは唸った。今回取得したニンジャ名は五人。「メイレインの野郎、頭湧いてンのか。ソウカイヤ以外のニンジャとこんな写真を撮ってりゃ、そりゃ詰められるッてもんだろう」「礼拝堂を築いて集まっていたようだぞ」 35

2020-10-05 21:47:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「礼拝堂?」「もう奴らは集まらない」破壊されたからだ。「こいつらの手掛かりを探せ、タキ=サン」「そう簡単に個人情報が抜ける奴ばかりとは限らねえぞ」「やるんだ」「クソッ、お前」タキは頭を掻いた。そして戸口で直立不動のオイランドロイドをイライラと指さした。「それより、これ、何だ!」36

2020-10-05 21:50:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「これ呼ばわりは不適切だと思います」コトブキが言い返した。タキはニンジャスレイヤーを振り返った。「なんでこんなもん拾って来た!」「ついて来た」ニンジャスレイヤーは答えた。「ふざけるな……オレにどうしろッてンだ。ファックしていいか?」「自我があるのでダメです」コトブキが断った。 37

2020-10-05 21:53:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「理由はわからんが、彼女がおれを助けた」ニンジャスレイヤーが言った。「理由は話しました」とコトブキ。「あなたはわたしを庇いました。そのギブ・アンド・テイクです」「用が済んだなら、帰れ、帰れ」タキが言った。コトブキは「考え中です」と答えた。 38

2020-10-05 21:56:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

やがてUNIXが、彼らの居場所をひとつ、割り出した。「まあ……そうか」タキは情報を睨み、椅子にもたれた。「こいつらがネオサイタマ在住とは限らねえんだ。クソ能天気野郎ども」「どこだ?」「他の連中の情報はサーチを遮断してきやがる。ちと骨だな。こいつから行っとくか?」「どこだ?」 39

2020-10-05 21:59:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

タキは座標図を指さす。「ボロブドゥール……」ニンジャスレイヤーは呟いた。タキは首を振った。「泳いで行け」「泳ぐと時間がかかりますよ」コトブキがモニタを覗いた。「アッ?このポンコツを黙らせろよ!」「行く方法がある筈だぞ」「……」タキは唸った。「こういう時はカンが回りやがるな……」40

2020-10-05 22:02:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

黒い闇の地平付近には街明かりがわだかまり、黄金か鍛冶場の炉の溶鉄のようだった。対岸のこちらは、ゴミと乾いた骨が土手めいて積まれた凄まじいありさま、まるでその遠い明かりは楽園めいていた。だが事実は違う。誰もが知っている。あの黄金こそがジゴクであると。 42

2020-10-05 22:07:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

パァン!近くで聞こえた銃声に身をすくませる事も無く、十歳にも満たない少年が、金属の小鍋を持って、あばら家に走ってゆく。まるで離れのガレージか何かのような、ひどく粗末なバラック建築物である。入口に張られた迷彩模様のノレンを掻き分け、少年は中を覗き込んだ。「……死んだ?」 43

2020-10-05 22:10:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「死んではおらん」声が返った。「良かった」少年は笑顔になった。「飯を取って来たぞ、おっさん」闇の中、毛布をかけられて横たわっていた男が身を起こした。男の目は闇の中で赤く光っていた。何度見ても、恐ろしい。少年の首筋に鳥肌が立った。「おっさん、一人で食えるか」「うむ。感謝する」 44

2020-10-05 22:13:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「感謝?ヘヘッ!感謝だってさ!」少年は照れ笑いをして、椀に鍋の中のごった煮を注いだ。「とにかく食えよ。腹減ってるだろ。栄養取れよ」赤い目の男は椀を受け取り、ゆっくりと啜り込んだ。ズズッ……「ゲホッ!」咳き込み、また啜る。少年はそのさまをじっと見つめる。男は空の椀を差し出す。 45

2020-10-05 22:16:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

少年は椀に再びごった煮を注いだ。「元気出てきたか」男は椀の中身を平らげた。椀を返すと、目を閉じ、深く、深く息を吸った。「スウーッ……ハアーッ」少年は周りを見回す。男の呼吸に伴い、空気が音を立ててうねっている。「おっさん?」 「フジキドだ」男は言った。「フジキド・ケンジだ」 46

2020-10-05 22:19:00