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至福の地の異変と妖精族の動揺(#えるどれ)

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帽子男 @alkali_acid

"ダリューテは狭の大地にいる。帰還が遅れているが、かの地の情勢を調べ尽くし、冥府へ通じる夜の門も見出しているはずだ" 「………そうか。あの女(ひと)ならばやり遂げよう…だが炎の男神よ。なぜ御自身で行かれぬ」 "肉の器がなくては動けぬ" 「それならば」

2020-10-08 21:02:45
帽子男 @alkali_acid

ギリアイアは生身の腕を、クルフィノの霊気に差し伸べた。 「私が貸そう。この狼討ちの老身では不足かな」 "驚いたな。そんな申し出は考えてもみなかった" 森の武人と炎の男神はしばらく静寂のうちに相対した。

2020-10-08 21:04:37
帽子男 @alkali_acid

"御身の先を読む目を働かせるには、隠し事はできぬな。炎の男神を宿せば、妖精の王といえども肉の器は耐えかねるやもしれぬ" 「工夫はできよう。鍛冶の匠として聞こえた御身のことだ」 "うむ"

2020-10-08 21:08:15
帽子男 @alkali_acid

焔の男神は渦を巻いて黙考し、森の男王は口を結んだまま見守った。 "我が霊気を抑える品を作れはしよう" 「さすがだ。下妖精の間にも轟いた、炎の守の武威をこの身に接せようとは心躍る」 "良き狩りとなろう。だがしばしの暇を貰うぞ"

2020-10-08 21:14:15
帽子男 @alkali_acid

しばらくしてギリアイアは夜風のように神殿を去った。 かわって金髪を獅子の鬣のようにたくわえた力士が、祭壇に参る。 「およびでしょうか。炎の男神」 "シノノメ。狼討ちをいかに見る" 「手強い男です。剣を帯びていれば、僕でも打ち倒せるか解りません」 "武人としては比類ない"

2020-10-08 21:19:31
帽子男 @alkali_acid

焔の男神がゆるやかに光の帯を伸ばすと、力士は祝福に身を任せ、ついで悶えた。 「あ…くっ…」 "風の司はアルカインを返さぬか" 「はい。書の杜の外れに焔の分社を建てたいからと言って…理由をつけてそばを離れません」 "分社か。うまく言い抜けられたな"

2020-10-08 21:23:33
帽子男 @alkali_acid

「それより…ギリアイア王と…ん…どれだけの…ことを」 "すべてを打ち明けた…汝等焔の男巫、巫女も知り及ばぬすべてを" 「よろしい…の…ですか」 "かの王の目を借りるにはほかに術はない…ふ。しかし…逆に誘われるとはな…破滅の戦に…よかろう"

2020-10-08 21:25:52
帽子男 @alkali_acid

霊気の焔からなる精霊は、妖精の丈夫の逞しい肢体を抱きとりながら、声なき哄笑を放った。 "どうせ神々が作った死人のまがいものに過ぎぬこの俺…あの男とともに無明の闇のかなたへ堕ちるのも一興よ"

2020-10-08 21:28:53
帽子男 @alkali_acid

◆◆◆◆ 辺境の探索から帰還した妖精の石アルウェーヌは、若者の学び舎である書の杜を訪れ、恩師である風の司ロンドーと未踏の地についてのさまざまな発見を語ったところだった。

2020-10-08 21:33:54
帽子男 @alkali_acid

昼には渇き夜にはとうとうと流れる川になる谷間、遠目には綿雲そっくりの花を咲かす杏の仲間の木だけでできた森、嘆くように鳴く角を生やした蛙や、逆さにぶらさがる巣をつくる水鳥など、驚異に満ちた見聞の数々は尽きるところを知らなかったが、話題はあまり楽しからざる方へ向かわざるを得なかった。

2020-10-08 21:37:08
帽子男 @alkali_acid

「輝く湖ですか」 「狭の大地へと通じる魔法の門…ディダーサという私の教え子の一人はそう考えています」 「ディダーサ…僕の従弟ですね…もうそんなに大きく」 「ええ。私の知る限り書の杜始まって以来の最も才能ある魔法使いです」 宵闇の黒髪に夕暮の灰瞳をした半妖精の丈夫は語る。

2020-10-08 21:40:56
帽子男 @alkali_acid

尖り耳に赤みがかった肌をした乙女は注意深く聴き入った。 「その湖に…母上が囚われたと」 「あなたの妹、ミドリカゼの身代わりになるように」 「アルカイン…」 「湖であの子も心身を痛めましたが、今は癒えつつあります。しかしあまり気を昂らせないように」 「はい」

2020-10-08 21:45:09
帽子男 @alkali_acid

ロンドーは簡潔に説明した。 各地に湧き出しては民を攫ってゆく輝く湖の災禍と、上下の妖精族の動揺を説明し、次第に敵への応報と同胞の奪還を求める声が高まっている情勢を。 「妖精会議では、狭の大地への進攻の是非が論じられます」 「光と闇の約定を破るなど、光の諸王が許しますか」

2020-10-08 21:50:04
帽子男 @alkali_acid

「戦を望む一派の後ろ盾には、諸王の一柱、炎の男神がつくでしょう。あの御方は、光と闇の大勝負のあとに生まれた若い神で、約定に縛られていない、と訴える」 「こじつけですね。ほかには」 「至福の地を襲う輝く湖そのものが、光と闇の約定がすでに破られた証、という意見もあります」

2020-10-08 21:52:37
帽子男 @alkali_acid

アキハヤテの言葉に、ミドリイシは腕を組む。 「闇の軍勢の仕業だと…信じているのですか?」 「そう噂するものはいます。初めは誰も信じませんでしたが、友や親族が奪われるにつれ、疑心は高まっているようです」 「アキハヤテ先生のお考えは」

2020-10-08 21:55:23
帽子男 @alkali_acid

「影の国の…黒の乗り手のやり方ではありません」 「僕もそう思います。ですが闇の軍勢にはほかにも力あるものがいる。光と闇の大勝負で黒の乗り手を助けたという冥皇はいかがです」 「確かに。冥皇はかつて至福の地に配下を送りました…しかし、やはり違うと思います」

2020-10-08 21:58:29
帽子男 @alkali_acid

ロンドーは盗み聞きを封じる呪文を用いてから、アルウェーヌに近づいて話をした。 「ディダーサによれば、輝く湖は湧き出させているのは妖精の魔法です」 「妖精…」 二人の視線が入り混じる。 「ええ…そうです。黒の乗り手を疑うに十分な理由です。しかし」 「黒の乗り手はしないでしょう」

2020-10-08 22:01:21
帽子男 @alkali_acid

赤膚の乙女は、黒髪の丈夫に問うた。 「正体は何だとお考えになりますか」 「ひとつは、かつて白の錬金術師の計略によって生みだされた、半妖精の末裔」 「あるいは狭の大地に留まった僕の弟や妹の子孫」 「ありうることです」

2020-10-08 22:04:05
帽子男 @alkali_acid

「ほかには?」 「知られざる妖精です。あなたの友達になった極妖精のように、我々の記憶にない氏族が、妖精の西帰から漏れ、狭の大地に留まっているかもしれません」 「西帰の呼びかけは、闇の地にもあまねく行ったのですが」 「眠りについていたかもしれません」

2020-10-08 22:07:16
帽子男 @alkali_acid

風の司は妖精の石にさらに考えを述べる。 「眠りの魔法は、妖精が悠久の時を過ごすのにしばしば用いられます」 「それが何かのきかっけで目覚めたと…そうだとして、どうして至福の地に手を伸ばしてきたのでしょう」 「きっかけが、こちら側にあったのかもしれません」

2020-10-08 22:09:49
帽子男 @alkali_acid

ロンドーは、焔の巫女や男巫が、人里離れた湖の周囲に柱を建てていた一件を話した。 「私の教え子フィンルードとディダーサによると、あれは狭の大地へ通じる門を開こうとする試みでした」 「約定を破る行いです」

2020-10-08 22:12:44
帽子男 @alkali_acid

「問われれば先に同じ魔法を勝手に用い行方不明になった巫女の探索という説明で通すつもりだったようです」 「呆れた…炎の神殿は…アルカインがいながらそんな勝手をさせるなんて」 「アルカインは…心身の調子が以前と異なります」

2020-10-08 22:17:04
帽子男 @alkali_acid

「…解りました。いずれにせよ一件にはそもそも焔の神殿がかかわっていると。炎の神殿は無策でこうした問題を引き起こしたのですか」 「いえ。炎の男神はむしろ危機に乗じて己の望みを果たそうとしているようです」 「狭の大地への進攻ですか」 「はい。禍を根元から断つという名目で」

2020-10-08 22:19:49
帽子男 @alkali_acid

書の杜の主と、辺境の野伏とはさらに多くを語り合い、妖精会議での対処を論じた。 「フィンルードはくれぐれも戦を避けるようにと私に訴えていました。私も同感です」 「ほかに母上を…助ける方法は」 「アルウェーヌ。あなたは嘆の女神の加護厚いと聞き及びます」 「悲嘆の館には幾度か参りました」

2020-10-08 22:26:04
帽子男 @alkali_acid

「嘆の女神は、忘却の男神の妹。至福の地の天を覆い、二つの木の光が外へ漏れぬよう遮る混沌の帳に飛び立ち、そこに眠るきょうだいの世話をしているとか」 「そうしたことを聞いた覚えがあります」 「ならば、忘却の男神に妖精の願いを伝えてくれるやもしれません」

2020-10-08 22:28:32
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