ストレイトロード:ルート140(52周目)
- Rista_Bakeya
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目的地だったはずの民家の前で、門に掲げられた看板を読み上げた。差し押さえと聞いて藍の顔がひきつった。「ここに住んでた人は?」「とっくに逃げたよ」門の内側から誰かが問いに応じた。「お嬢さんも何か貸したのかい」「違う!」土煙が舞い上がった。彼らに魔女の探し物の値打ちは解らないだろう。
2020-09-24 18:42:46一台に幾つも機能を搭載した調理器具は確かに便利だったが、一部が壊れたら全て使えなくなった。今は後部座席の重石でしかない。「本当にそう思う?」藍が壊れた器具を抱えて岩の陰に運んだ。荒野に棄てるのかと思いきや、中に水を満たして戻ってきた。「水はできるだけ確保しとけって言われたでしょ」
2020-09-25 18:54:45高く飛んだボールが私達の車のガラスを割った。確保された男がうなだれた。「競技に興味を持ってもらいたくて」どんなに面白くても知られていなければ誰も始めない。裾野を広げるべく各地で実技を披露していたという。「過去形ね」藍の指摘が男を凍らせた。「チーム競技を一人で守るなんて無理だった」
2020-09-26 20:09:55屋敷の主は裏庭にいると聞いた藍は、夫人の遠回しな制止を無視して廊下を突き進んだ。野良着姿の男が長いハサミを掲げ、大きく育った樹木の剪定に没頭していた。「それ全部自分でやってるの?」問いかける声に感心も笑いもない。周囲に並ぶ前衛芸術のような姿の木々を、魔女は既に見飽きているようだ。
2020-09-27 18:40:03停車中の助手席で藍が宿題に勤しんでいる。次に着いた街で送信するものに今頃着手したのか。よく見ると期限は三日前だ。「電波がないから送れなかったのは本当だし」到着予定の遅れは事実だが、今から提出しても遡及して成績に反映させるのだろうか。宿題の締切は当事者の都合だけで動くものではない。
2020-09-28 19:00:50暴風と咆哮の下に藍を残し、強引にシェルターへ連れて行かれた。善意の行動だったようだが、魔女の仲間に気づいた人々が拳を握った。「今は大事な時なのに!」殴打を覚悟した直後、産声が緊迫感を破った。手に込めた力が明らかに緩んだ。同胞の誕生を、命の無事を喜ぶ気持ちは忘れていなかったようだ。
2020-09-29 19:21:53農村に出没する厄介者の退治を頼まれた翌日、研究員ウェンズから怪物の生け捕りを依頼された。彼らの知能を調べている部門があるという。「頭数は必要?」藍は電話で尋ねた時点から捕獲方法を考え直していたらしい。今回の相手は集団だった。一体を狙うかまとめて捕らえるかでは警戒すべき知能が違う。
2020-09-30 19:18:22追っ手の車が赤信号に捕まる間にアクセルを踏み込む。すかさず助手席から指示が飛ぶが、その抜け道は以前に同じ相手を撒いた時に使った。再び通用すると思ったのか。「向こうはそう思うでしょうね」トンネルを出た私達が最初に見たのは警察車両に囲まれた重機だった。待ち伏せは未遂に終わったらしい。
2020-10-01 19:11:55山道から見た広い土地の正体は低層の建物が密集した集落だった。配置や形状だけでなく屋上の色も揃え、怪物が更地と誤解して素通りするよう造ったという。「一本だけ小さい木があったから余計リアルなのよ」藍の感想に設計者が苦笑する。瓦礫の町に残った古木の撤去を渋られ仕方なく残した結果らしい。
2020-10-02 18:55:52倉庫に籠城した子供の一部がようやく投降の求めに応じた。安堵したのは一部の親くらいで、扉の前に陣取る警察官達には緩みも手加減もない。外へ出てきた数名が連れて行かれた後、睨み合いが続く倉庫の中から揉める声が聞こえてきた。「裏切り者が出たってうるさくて」後に脱出した藍が頬を膨らませた。
2020-10-03 19:10:39子供達が力を合わせて夕食を作る。施設の恒例行事に偶然訪れていた私達も招かれた。だが出番を待つ皿に生焼けの肉を見つけ、柔らかい表現で待ったをかけると、子供達に抵抗された。「これくらい平気!」「しかし」説明しようとする私を藍が遮った。「この色だとあんまりおいしくないよ」抗議が止んだ。
2020-10-04 18:44:51山間の寒村に冷たい風が下りてくる。そこに山の構成物と思えない異臭が混ざるからと、村人達が藍に調査を依頼したが、誰も道案内を引き受けなかった。「前に行った人たちの二の舞はイヤだ。本当にそれだけ?」先遣隊については誰も喋らない。誰かの失敗に学ばなければ彼らはただの無謀な犠牲者になる。
2020-10-05 18:47:33